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この記事の要点
- 打ち明けられた最初の10分は、聞くことだけに使う
- 記録は「評価」ではなく「事実」で書く。日付・場面・本人の様子の3点
- 学校へは担任から順に上げる。動きがなければ段階を上げてよい
- 面談は必ず「次に報告をもらう日」を決めて終える
- 暴行・恐喝・性的行為・脅迫は、いじめではなく犯罪。#9110に相談できる
お子さんが「死にたい」「消えたい」と口にしている、自傷の跡がある場合は、待たずに相談してください。24時間子供SOSダイヤル0120-0-78310、チャイルドライン0120-99-7777(16〜21時・18歳まで)、よりそいホットライン0120-279-338(24時間・無料)。緊急時は119番です。
いじめに気づいたとき、多くの保護者が最初にすることは「学校に電話」です。ただ、順番を間違えると、その一本の電話で状況が固まってしまうことがあります。
私は2018年4月から看護師として勤務し(2か月のブランクあり)、2021年4月から児童思春期精神科病棟で働いています。いじめの後に不調をきたして入院してきた子と、その家族の対応を数多く見てきました。この記事では、気づき方・聞き方・記録・学校との交渉・回復までを、動く順番で整理します。
いじめの定義は、親が思うより広い
いじめ防止対策推進法では、いじめは「本人が心身の苦痛を感じているもの」と定義されています。加害側の意図も、行為の激しさも、回数も条件ではありません。本人がつらいと感じていれば、それはいじめとして扱われます。
ここを知っておくと、学校との話し方が変わります。「これくらいでいじめと言っていいのか」と迷う必要はありませんし、学校側が「双方に非がある」と整理しようとしたときも、定義に立ち返って話ができます。
子どもは隠す|気づくためのサイン
被害を受けている子ほど、親には言いません。理由は、心配をかけたくない、言えば事態が悪化すると分かっている、そして「自分に落ち度がある」と思い込んでいるからです。だから、言葉を待つより様子を見るほうが早く気づけます。
体と生活に出るもの
- 朝になると頭痛・腹痛・吐き気を訴える(腹痛の背景)
- 寝つけない、夜中に目が覚める、悪夢を訴える(子どもの睡眠)
- 食欲が落ちる、または過食になる
- 日曜の夜と月曜の朝に、特に調子が悪い
- 登校時間になると急にトイレにこもる
持ち物・お金・デジタルに出るもの
- 持ち物がなくなる、壊れる、汚れて帰ってくる
- 「なくした」の説明があいまい、繰り返される
- お小遣いの減りが早い、家のお金に手をつける
- スマホの通知に過敏に反応する、画面を隠す
- SNSのアカウントを急に消す、変える
持ち物とお金の変化は、暴力や恐喝が起きているサインのことがあります。「またなくしたの」と叱る前に、状況を確認してください。ネット上のトラブルについてはSNSトラブルへの対応と見えにくいSNSも参考になります。
問い詰めずに、扉を開ける聞き方
「いじめられてるの?」と正面から聞くと、たいてい「別に」で終わります。答えることで事が大きくなると本人が分かっているからです。
有効なのは、心配していることだけを伝えて、答えを求めない形です。「最近しんどそうに見えるから気になってる」「話したくなったらいつでも聞くよ」。この言い方なら、否定も肯定もしないまま受け取れます。
場所とタイミングも効きます。正面から向き合うより、車の中、並んで歩いているとき、寝る前の暗い部屋。目を合わせずに済む状況のほうが、言葉が出やすくなります(会話が続かないとき)。
打ち明けられた最初の10分
ここが分岐点です。この10分で親が何をするかで、その後も話してくれるかどうかが決まります。
- まず「話してくれてありがとう」——打ち明けること自体に大きな勇気が要っています
- 事実確認を急がない——誰が、いつ、何回。取り調べのように聞くと口が閉じます
- 「あなたは悪くない」と言い切る——本人は自分に原因があると思っています
- 親が先に激高しない——「許せない」と親が崩れると、子どもは次から言えなくなります
- その場で解決策を決めない——「明日学校に電話する」は、本人の同意なしに言わないでください
最初の10分は、聞くことだけに使います。動くのはその後で間に合います。
「学校には言わないで」と言われたら
非常に多い場面です。本人が恐れているのは、報復と、話が広がることです。ここで無視して動くと、信頼を失います。
基本は、本人の同意を取ってから動くことです。「あなたから聞いたと分からない形で相談する」「相談する前に必ず伝える」と約束したうえで進めます。実際、学校には「本人から聞いたと分からない対応をお願いします」と依頼できます。
ただし例外があります。暴力を受けている、金銭を取られている、性的な被害がある、「死にたい」と口にしている。この場合は、本人が嫌がっても動いてください。「あなたを守るために動く」と説明したうえで進めます。安全は同意より優先されます。
種類によって初動が変わる
無視・仲間はずれ型は証拠が残りにくく、学校も「様子を見ます」で流しやすい形です。だからこそ記録が武器になります。「班活動で一人だけ入れなかった」といった場面を積み重ね、パターンとして示します。自己評価を静かに削るタイプなので、心のケアも早めに始めます。
暴力・物損・金銭型は、速度が最優先です。傷の写真、診断書、壊れた物を確保し、即日から数日で学校へ。エスカレートが速く身の安全に直結するため、様子を見るという選択肢はありません。
ネット型は、拡散前の保全と削除が勝負です。スクリーンショットで保全し、削除はプラットフォームの通報機能と学校を通して進めます。加害側に直接要求しないでください。なお、ネット上のいじめも学校の対応対象です。「学校の外のこと」と断られたら、それは誤りです。
実際には複合します。無視から始まり、物損へ、並行してグループチャットで悪口が回る。「今は無視だけだから」と待つより、その段階で動くほうが拡大を防げます。放置して自然に収まるより、放置でエスカレートするほうがずっと多いというのが実感です。
記録のとり方|そのまま使える書式
記録は、親にしかできない準備です。書き方の例を置いておきます。
- 日付と曜日——7月10日(水)
- 起きたこと(事実だけ)——帰宅後、上履きの片方がないことに気づく。本人によればトイレのゴミ箱に捨てられていた
- 背景として本人が話したこと——6月末から「うざい」と言われることが続いている
- 保全したもの——上履きは洗う前に写真を撮って保管
- 本人の様子——夕食をほとんど残す。21時に部屋にこもる。「学校行きたくない」と初めて口にする
コツは、事実と評価を分けることです。「ひどいいじめを受けた」ではなく「上履きがゴミ箱に捨てられていた」。描写のほうが第三者を動かします。そして毎回、食事・睡眠・言葉を添えてください。心身への影響の記録が同時に積み上がり、後の判断や診断書と噛み合います。
聞き取りは一度で終わらせようとしないでください。思い出すこと自体がつらい記憶です。「思い出せる範囲でいい」「話したくないところは飛ばしていい」と逃げ道を作りながら、数日に分けて。裁判の調書ではないので、書ける範囲で十分に役割を果たします。
デジタルの証拠は、画面全体が写る形で保存します。日時、アカウント名、投稿内容が同じ画面に入っていること。本人のスマホを勝手に見るのは避け、一緒に保存する形にしてください。
学校への相談|順番を間違えない
第一歩は担任です。いきなり校長や教育委員会に行くと学校が防御的になり、肝心の教室での見守りが手に入りにくくなります。
ただし、担任に話して2週間動きがない場合、あるいは担任自身が問題の一部である場合は、学年主任、教頭・校長へと段階を上げてください。これは告げ口ではなく、制度が想定している手順です。
面談を申し込むときは、「子どもの学校生活のことで相談があります。30分ほどお時間をいただけますか」と枠だけ取ります。可能なら保護者2名で行き、1人が話し、1人が記録する体制にすると、受け止め方が変わります。第一報はメールや連絡帳でも構いません。詳細を書きすぎず、面談の約束を取ることだけに絞ってください。
面談の進め方と、よくある反応
面談は戦いの場ではなく、協力者を作る場です。次の型で進めると話が通ります。
- 事実を時系列で——記録の出番です
- 本人の状態——「夜眠れず、朝は腹痛を訴えています」
- お願いしたいこと——「休み時間の様子を見ていただけますか」「本人から聞いたと分からない形でお願いします」
- 次回の約束——「2週間後に様子を教えていただけますか」
最後の項目が特に重要です。「見守ります」で終わる面談は、何も起きないまま流れます。次に話す日付をその場で決めてください。
よくある反応への返し方も用意しておくと、その場で詰まりません。「様子を見ます」には、「では2週間後に見ていただいた様子を教えてください」と期限と報告をセットにします。「双方から話を聞きます」には、「聞き取りの結果がうちの子に返ってきて報復にならないよう、進め方は本人の安全を最優先にしてください」と一言添えます。
最も心が波立つのが「お子さんにも気になるところがあって」です。ここで防戦に回ると論点がすり替わります。「そこは家庭でも向き合います。ただ、仮に課題があったとしても、いじめていい理由にはなりませんよね。まず安全の確保をお願いします」。課題といじめを切り分ける、この一文を覚えておいてください。
面談の最後は、決まったことを復唱して終えます。帰宅後、要点をメールか連絡帳で送り返しておくと、口約束が記録に変わります。
学校が動かないときと、警察に相談する目安
学校が対応しない場合、窓口は用意されています。市区町村の教育委員会、都道府県の教育相談窓口、法務局の人権相談(子どもの人権110番)。学校の設置者に相談する形になります。
そして次の行為は、いじめという言葉の枠を超えた犯罪です。学校対応と並行して、警察に相談してください。
- 殴る・蹴る、けがをさせられた
- お金や物を要求される、取られる
- 服を脱がされる、性的な行為を強要される、撮影される
- 「死ね」などの脅迫、ネット上での執拗な誹謗中傷
いきなり110番でなくても、警察相談専用電話#9110や、各県警の少年相談窓口から始められます。学校の外で同じことをされたら通報するはずのことは、学校の中でも犯罪です。都道府県警の少年サポートセンターは、事件化するほどではない段階の相談にも応じています。
やってはいけないこと
- 加害側の家に直接乗り込む——トラブルが二重になり、学校が仲裁に回って本題が進まなくなります
- 本人に無断で学校に連絡する——緊急時を除き、信頼を失います
- 本人のスマホを勝手に見る——証拠より関係を優先してください
- 「やり返しなさい」と促す——本人が加害側として扱われるリスクがあります
- 「気にしすぎ」と流す——次から言わなくなります
休ませる判断と、学習・内申の心配
安全が確保できていない状態で通わせる理由はありません。欠席は逃げではなく避難です。まず本人の安全と休息を確保してください。
学習と内申の心配は先回りしておきます。学校に相談すれば、課題の受け取り方法、別室での対応(別室登校)、出席の扱いについて説明を受けられます。フリースクールや教育支援センターが選択肢になることもあります(フリースクールの選び方)。進路については通信制高校も含めて考えられます。
環境を変える選択も、負けではありません。転校や別の進路を選んだ結果、落ち着きを取り戻した子を現場で見てきました。同じ場所で耐え続けることだけが解決ではありません。
心のケアと、受診の目安
いじめが終わっても、影響はしばらく残ります。人を信じにくくなる、自分に価値がないと感じる、フラッシュバックのように思い出す。これらは弱さではなく、当然の反応です。
家庭でできるのは、安全な場所を保つことです。話したがらない時期は聞かず、話し始めたら遮らない。夜眠れない子には、部屋を暗くしすぎない、寝る前に短く一緒に過ごすといった対応が効くことがあります。
次の状態が見えたら、医療につないでください。眠れない日が続く、食べられない、身体症状が2週間以上続く、自傷がある、「消えたい」と口にする。相談先はスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、児童精神科です(受診ガイド)。自傷や希死念慮への対応は自傷への対応と「死にたい」と言われたときにまとめています。
回復の道のりと、親自身のこと
回復は直線ではありません。落ち着いたように見えて、行事の前や新学期に揺り戻すことがあります。解決した後こそ見守りが要ります。
現場で見てきた「戻ってくる形」に共通しているのは、安全が確保されたこと、家庭が責めない場であり続けたこと、そして本人のペースが尊重されたことです。学校に戻る形とは限りません。別の場所で自分のペースを取り戻す子もいます。
この期間、保護者の消耗も相当なものです。怒りと不安が同時に来て、眠れなくなります。ご自身の状態も点検してください(保護者の疲労チェック)。抱え込まず、相談先を複数持っておくことが、結果的に子どもを守ります。
よくある質問
Q1. 「いじり」との境界が分かりません
本人が苦痛を感じているかどうかが基準です。周囲が笑っていても、本人がつらいならいじめです。「うちの子が過敏なだけでは」と考える必要はありません。
Q2. 加害側の子と話すべきですか
保護者が直接接触するのは避けてください。感情的な対立に発展し、本題が進まなくなります。やり取りは学校を通してください。
Q3. 転校は逃げになりませんか
安全を確保するための正当な手段です。ただし、転校だけで解決するとは限らないので、心のケアと並行して考えてください。本人の希望を確認することも忘れずに。
Q4. きょうだいにどう説明しますか
年齢に応じて、「今しんどい時期だから家では静かにしよう」程度で構いません。詳細を共有する必要はありませんが、きょうだい自身も不安を抱えるので、別に話す時間を取ってください。
Q5. 証拠がまったくありません
証拠がなくても相談はできます。本人の訴えと、家庭で見えている変化(睡眠・食事・欠席)を時系列で示せば、学校は対応する義務があります。今日から記録を始めれば十分です。
Q6. 学校が「いじめではない」と言います
法律上の定義は「本人が心身の苦痛を感じている」ことです。この点を示したうえで、それでも対応が変わらないなら、教育委員会など設置者へ相談を上げてください。
今夜これだけ
今日の日付と、気づいたことを1行だけ書き留めてください。記録は今日から始められますし、それが後で一番強い材料になります。
看護師視点でのまとめ
いじめの対応でうまくいった家庭に共通していたのは、順番を守れたことです。まず聞く、次に記録する、それから学校に相談する。逆に、いきなり学校へ電話して感情をぶつけた場合、その後の関係づくりに時間がかかっていました。
そして何より、本人が「話しても大丈夫だった」と感じられたかどうかが後を分けます。解決までの道のりは長くても、家が安全な場所であり続ければ、子どもは戻ってきます。まずは今日、記録の1行から始めてください。
参考にした公的情報・一次情報
記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。


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