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この記事の要点
- 避難訓練が苦手なのは「わがまま」ではなく特性の場合がある
- 災害映像の繰り返し視聴は子どもの不安を増幅させる
- 「大丈夫」で打ち切らず、怖さを認めてから情報を足す
- 防災準備を一緒にやると「コントロール感」が不安を下げる
- 生活に支障が出るほどの怖がりは専門機関に相談を
9月1日は防災の日です。この時期、多くの学校や園で避難訓練が行われ、テレビでも災害の特集が増えます。大人にとっては「年に一度の大事な行事」ですが、子どもの中には、この時期になると表情が硬くなる子がいます。サイレンの音に耳をふさぐ、訓練の前日から「学校に行きたくない」と言い出す、地震のニュースを見たあと夜眠れなくなる。そんな姿に、どう対応したらいいか迷っている親御さんは少なくありません。
私は看護師歴8年、うち児童思春期精神科病棟で5年以上勤務してきました。病棟でも避難訓練は定期的にあり、不安の強い子や感覚が敏感な子が訓練をどう乗り越えるか、事前の準備から当日の付き添いまで、たくさんのケースに関わってきました。家庭でも一人の父親として、子どもと防災の話をする難しさを実感しています。
この記事では、避難訓練や災害ニュースを怖がる子への説明のコツ、年齢別の伝え方、学校への配慮のお願いの仕方、そして防災準備そのものを「安心の材料」に変える方法まで、現場の経験をもとにお伝えします。
避難訓練が苦手な子は「わがまま」ではありません
避難訓練で泣いてしまう、参加を嫌がる、当日に体調を崩す。こうした姿は、周囲から「ふざけている」「甘えている」と誤解されがちです。しかし児童思春期の現場から見ると、避難訓練には、特定の子にとってつらい要素が集中しています。主なものは次の3つです。
- サイレン・緊急放送の音:聴覚が敏感な子にとって、あの音量と音質は「びっくりする」を超えて、痛みや恐怖に近い体験になることがあります
- 急な予定変更:見通しが立っていることで安心を保っている子は、授業が突然中断され、いつもと違う行動を求められること自体が強いストレスになります
- 「もしも」の想像が人一倍リアル:想像力が豊かな子ほど、「本当に地震が来たら」という場面を映像のように具体的に思い浮かべ、訓練なのに本物の恐怖を感じます
つまり、避難訓練が苦手なのは性格の問題でも育て方の問題でもなく、その子の感覚や認知の特性と、訓練という場の性質がぶつかっているだけ、というケースが多いのです。ここを「わがまま」と捉えるか「特性」と捉えるかで、その後の関わり方は大きく変わります。
病棟で関わった小学生の子で、避難訓練の予告が掲示された日から食欲が落ち、口数が減った子がいました。話を聴くと「サイレンの音が頭の中でずっと鳴っている感じがする」と教えてくれました。スタッフと相談してイヤーマフの使用と、訓練の流れを前日に一緒に紙に書いて確認することにしたところ、当日は看護師のそばで最後まで参加できました。終わったあとの「できた」という顔が印象的でした。
※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています
災害ニュースやSNS動画が子どもの心に与える影響
防災の日の前後は、テレビやネットで過去の災害映像が繰り返し流れます。ここで知っておいてほしいのが、「同じ映像の繰り返し視聴」が子どもに与える影響です。大人は「これは過去の映像の再放送だ」と整理できますが、幼い子どもは、同じ津波の映像を何度も見ると「何度も津波が起きている」と受け取ってしまうことがあります。
また、年齢が上がっても安心はできません。ショッキングな映像は、見るたびに心が強く反応します。繰り返し見れば「慣れる」のではなく、消化しきれない刺激だけが積み重なり、不安が増幅していきます。特にSNSの動画は自動再生とおすすめ機能によって、一度見ると似た映像が次々に流れてくる仕組みです。子どもが自分の意思で止めるのは、大人が思う以上に難しいのです。
そこで大切になるのが、見せ方のコントロールです。全面的に遮断する必要はありませんが、次のような工夫をおすすめします。
- 災害の映像はできるだけ大人と一緒に見る(一人で長時間見せない)
- 寝る前の時間帯は災害映像を避ける
- 同じ映像を何度も再生している様子があれば、そっと区切りを入れる
- 映像のあとに「これは前に起きたことで、今起きていることではないよ」と言葉で整理する
- SNSを使う年齢の子には、自動再生をオフにする方法を一緒に確認する
以前関わった中学生で、大きな地震の後、SNSで被害の動画を何時間も見続けて眠れなくなった子がいました。本人は「見たくないのに、見ないと余計不安になる」と話していました。これは不安の強い子によくある悪循環です。家族と相談して「情報はテレビの定時ニュースを一緒に見る」「夜9時以降はスマホをリビングに置く」というルールを本人も交えて決めたところ、数週間かけて睡眠が戻っていきました。
※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています
怖がる子への説明、3つの原則
子どもが「地震怖い」「訓練いやだ」と言ったとき、多くの大人は反射的に「大丈夫だよ」と返します。悪いことではないのですが、「大丈夫」だけで会話を打ち切ってしまうと、子どもは「怖い気持ちを話してはいけないんだ」と学んでしまいます。現場で私が意識しているのは、次の3つの原則です。
原則1:「大丈夫」で打ち切らない
「大丈夫」は会話の終わりではなく、始まりに使う言葉です。「大丈夫だよ。何が一番怖い?」と続ければ、子どもは怖さの中身を話せます。サイレンの音なのか、家族と離れることなのか、家が壊れる想像なのか。怖さの中身が分かって初めて、的を絞った説明ができます。
原則2:怖さを認めてから、情報を足す
順番が大切です。先に「怖いよね。びっくりするよね」と気持ちを受け止め、そのあとで「だからね、訓練で練習しておくんだよ」と情報を足します。気持ちを飛ばして正論だけを伝えると、子どもは「分かってもらえなかった」と感じ、それ以上聞く耳を持てなくなります。受け止めてから説明する。この順番だけで、同じ内容でも届き方が変わります。
原則3:「守る仕組みがある」ことを具体的に伝える
子どもの不安を和らげるのは、抽象的な励ましより具体的な事実です。「先生たちは子どもを守る練習を何回もしている」「学校の建物は地震に強く作られている」「消防士さんや救急隊の人が助けに来てくれる」「うちには非常用の水とごはんがある」。守る仕組みを一つひとつ言葉にして見せることが、「世界は怖いだけの場所ではない」という感覚につながります。
年齢別の伝え方——幼児・小学生・思春期
幼児:短く、具体的に、安心で終える
幼児期は、長い説明よりも「短い言葉+安心できる体験」の組み合わせが基本です。「大きい音が鳴ったら、先生のところに集まる練習だよ」のように、行動を一つだけ伝えます。そして会話の最後は必ず安心で締めます。「そのとき、パパとママは必ず迎えに行くからね」。言葉と一緒に抱っこや手をつなぐなどのスキンシップを添えると、体の感覚として安心が残ります。
小学生:仕組みの説明と「正直さ」が効く
小学生になると、「なぜ訓練をするのか」という理屈が理解できるようになります。「本番で体が勝手に動くように練習しておくんだよ。消防士さんも同じ練習をしている」といった仕組みの説明が安心につながります。一方で、「絶対に地震は来ないの?」のような答えにくい質問も増えます。ここで嘘をつくと信頼が揺らぎます。「来ないとは言えない。でも来たときのために準備している」と正直に答えるほうが、長い目で見て子どもを支えます。
思春期:対等に、情報の質を一緒に確かめる
思春期の子に幼児向けの説明をすると、かえって反発されます。この年代には「対等に扱う」ことが何よりの安心材料です。SNSには災害のデマや誇張された動画も流れるため、「どの情報源なら信頼できるか」を一緒に確認するのが実践的です。気象庁や自治体の公式情報をブックマークしておくのもよいでしょう。また、怖がっていることをからかわない・軽んじないことも重要です。「そんなの気にしすぎ」ではなく「気になるよな。何が一番引っかかってる?」と聞ける関係でいたいところです。
避難訓練の前に、家庭でできる準備
不安の強い子・感覚が敏感な子にとって、避難訓練の一番の敵は「不意打ち」です。家庭でできる準備の柱は、見通しを作ることです。学校からのお便りや連絡帳で訓練の日程が分かったら、前日までに「明日は避難訓練があるよ。サイレンが鳴って、机の下に入って、校庭に集まる練習だよ」と流れを言葉にして伝えます。絵や箇条書きにして見せると、より安心する子もいます。
音への敏感さが強い子には、イヤーマフや耳栓の使用を学校に相談する選択肢があります。「訓練に参加させないでほしい」ではなく「音を和らげる道具があれば参加できそうです」という伝え方なら、学校側も協力しやすくなります。実際、事前予告とイヤーマフの2つだけで参加できるようになる子は少なくありません。
学校への配慮のお願いは、具体的であるほど伝わります。次のような形が一つの目安です。
- 「音に敏感な特性があり、サイレンで動けなくなることがあります」と背景を短く説明する
- 「訓練の日程と流れを事前に教えていただけると、家庭で予告できます」とお願いする
- 「イヤーマフの使用を許可していただけますか」と道具の相談をする
- 「難しい場合、先生のそばで参加する形は可能でしょうか」と代替案を添える
「わがままを言っているのでは」とためらう親御さんは多いのですが、これは合理的な配慮のお願いであって、特別扱いの要求ではありません。連絡帳よりも、面談や電話など双方向で話せる場のほうが、細かいニュアンスまで共有できます。
防災準備を「安心の材料」に変える方法
不安の心理には、はっきりした法則が一つあります。「自分ではどうにもできない」と感じるほど不安は大きくなり、「自分にもできることがある」と感じられると不安は下がる、というものです。この「コントロール感」を育てる絶好の機会が、実は家庭の防災準備です。
おすすめは、防災リュックを子どもと一緒に作ることです。ポイントは、大人が全部用意して見せるのではなく、子どもに選ばせる部分を作ること。「懐中電灯はどっちの色にする?」「お菓子は何を入れる?」「このぬいぐるみも入れておく?」。自分で選んで詰めたリュックは、「怖いものへの備え」ではなく「自分を守ってくれる自分の道具」になります。
もう一つの柱が、家族の集合場所を決めることです。「もしバラバラのときに地震が来たら、〇〇公園の入り口に集まろう」と決めておく。これは実用的な防災対策であると同時に、子どもの頭の中にある「もしも」の見通しを具体化する助けになります。「地震が来たら家族と会えなくなるかもしれない」という漠然とした恐怖が、「地震が来ても、あそこに行けば家族に会える」という具体的な見通しに変わるのです。非常食をおやつとして一緒に試食してみる、年に一度リュックの中身を点検する日を決める、といった小さな習慣も、同じようにコントロール感を育てます。
「怖がり」が強すぎるとき——相談を考えるサイン
ここまで紹介した関わりで多くの子は落ち着いていきますが、中には家庭の工夫だけでは追いつかないケースもあります。次のようなサインが数週間以上続く場合は、専門機関への相談を考えるタイミングです。
- 親から離れられず、登校や登園そのものが難しくなっている(分離不安が強い)
- サイレンや揺れに対して、過呼吸・震え・固まるなどパニックのような反応が出る
- 眠れない、悪夢が続く、食欲が落ちるなど生活リズムが崩れている
- 災害と関係ない場面でも、常にびくびくして楽しめなくなっている
- 「死ぬのが怖い」という訴えが繰り返され、日常の活動を避けるようになっている
相談先としては、まず学校のスクールカウンセラーや自治体の教育相談・子育て相談窓口が入り口になります。反応が強い場合や長引く場合は、児童精神科やかかりつけの小児科に相談してください。診断や治療が必要かどうかの判断は、必ず医師に委ねてください。不安の強い子への関わり方は、子どもの不安症・分離不安への関わり方でも詳しく解説しています。
大切なのは、「相談に行くこと=深刻な事態」ではないという理解です。早めに相談したご家庭ほど、子どもの回復も早い印象があります。困りごとが小さいうちに専門家の知恵を借りるのは、賢い選択です。
9月1日前後は、子どもの心がもともと揺れやすい時期
もう一つ、頭の片隅に置いてほしいことがあります。防災の日がある9月初旬は、夏休みが終わり新学期が始まる時期と重なります。長い休みで緩んだ生活リズムを戻し、教室という緊張の場に再適応するだけでも、子どもの心には大きな負荷がかかっています。そこに避難訓練や災害報道が重なるのが、この時期なのです。
つまり、9月初めに子どもが不安定に見えるとき、その原因は防災関連だけとは限りません。新学期のしんどさが土台にあって、訓練やニュースが引き金になっている場合も多いのです。夏休み明けの子どもの心の揺れについては、姉妹記事の「9月の壁」——夏休み明けの子どもの心で詳しくまとめていますので、あわせて読んでいただくと全体像がつかめると思います。
この時期の防災の話題は、子どもの余力を見ながら進めるのがコツです。新学期の疲れが強く出ている子に、あれもこれもと防災の話を重ねる必要はありません。まずは生活リズムと安心感の回復を優先し、防災の話は「一緒にリュックを見てみようか」くらいの軽いところから始めれば十分です。
よくある質問
Q1. 避難訓練の日だけ学校を休ませてもいいのでしょうか?
お子さんの状態によっては、一時的な選択肢としてあり得ます。ただし「怖いから休む」を繰り返すと、回避によって不安がかえって強まり、訓練以外の場面にも広がることがあります。おすすめは、休ませる前に「参加のハードルを下げる工夫」を学校と相談することです。イヤーマフの使用、事前予告、先生のそばでの参加、途中退出の許可など、段階的な参加方法はいろいろあります。それでも難しいほど反応が強い場合は、無理をさせず、スクールカウンセラーや医療機関に相談しながら方針を決めていくのが安全です。
Q2. 地震のニュースは子どもに見せないほうがいいですか?
完全に遮断する必要はありませんが、「量」と「見方」の管理をおすすめします。幼児期は、ショッキングな映像は基本的に大人が先に内容を確認し、見せる場合も短く、必ず大人が隣で言葉を添えてください。小学生以上でも、同じ映像の繰り返し視聴と寝る前の視聴は避けたいところです。大切なのは、ニュースを見たあとに子どもの表情を確認し、「怖かった?」と声をかけて気持ちを言葉にする機会を作ることです。見せない工夫より、見たあとのフォローのほうが、長期的には子どもを守ります。
Q3. 「地震が来たら死ぬの?」と聞かれたら、どう答えればいいですか?
どきっとする質問ですが、聞けたこと自体が良いサインです。怖さを一人で抱えず、親に出せているからです。答え方の骨組みは「正直さ+守る仕組み」です。「絶対に死なないよ」という保証はできませんし、子どもも薄々それを知っています。「大きい地震はとても危ないこともある。だから、うちは机の下に隠れる練習をして、水とごはんも用意して、集まる場所も決めているんだよ」。危険を認めたうえで、備えを具体的に並べる。この答え方が、子どもの中に「怖いけど、やれることはやってある」という感覚を育てます。
Q4. サイレンのたびに泣いてしまいます。学校にはどう伝えればいいですか?
ポイントは「困っている状況」と「お願いしたい配慮」をセットで、具体的に伝えることです。例えば「音に敏感なところがあり、サイレンが鳴ると泣いて動けなくなります。訓練の日程を事前に教えていただけると家庭で心の準備ができます。イヤーマフの使用もご相談させてください」という形です。「泣くのでよろしくお願いします」だけでは、先生も何をすればいいか分かりません。可能であれば連絡帳だけでなく、面談や電話で直接話す場を作ると、学校側の事情もふまえた現実的な落としどころを一緒に探せます。
Q5. 防災の話をすると余計に怖がります。話さないほうがいいのでしょうか?
話題を避け続けると、子どもは「聞いてはいけないほど怖いことなんだ」と学んでしまい、不安はむしろ水面下で育ちます。おすすめは、話の入り口を「怖い話」から「準備の話」に変えることです。災害の被害の話ではなく、「非常食どれがおいしいか食べ比べしよう」「リュックに何入れる?」という手を動かす話から入ると、怖がりな子でも参加しやすくなります。話す時間帯も大切で、夜より日中、そして一度に長く話すより、数分の会話を何回かに分けるほうが負担が少なく済みます。
今夜これだけ
寝る前の穏やかな時間に、「もしものときは〇〇に集まろうね」と家族の集合場所を一つだけ決めて、子どもに伝えてみてください。
まとめ
避難訓練を怖がる子、災害ニュースで不安になる子は、わがままでも弱いわけでもありません。サイレンの音、急な予定変更、リアルすぎる「もしも」の想像。その子なりの理由が必ずあります。大人にできるのは、「大丈夫」で打ち切らずに怖さの中身を聴くこと、怖さを認めてから情報を足すこと、そして「守る仕組みがある」ことを具体的に見せることです。
防災準備は、やり方次第で子どもの不安を増やすことも、減らすこともできます。一緒にリュックを作る、集合場所を決める、非常食を試食する。「自分にもできることがある」という感覚は、防災の日だけでなく、この先のさまざまな不安に立ち向かう土台になります。そして、怖がりの程度が生活に支障をきたすレベルなら、ためらわず専門機関に相談してください。9月は子どもの心が揺れやすい季節です。完璧な対応を目指すより、「怖いって言っていいんだよ」と伝わる家庭の空気を、少しずつ作っていきましょう。
参考にした公的情報・一次情報
この記事の内容に関連する制度・相談先・健康情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。


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