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この記事の要点
- 自傷は「死にたい」とは違い、つらさを逃がす手段のことが多い
- 叱責・取り上げ・約束させるは、いずれも逆効果
- 傷の深さで重さを判断しない。背景の苦しさを見る
- 刃物や薬を本人の目に触れない場所へ移す
- 様子を見ずに、医療機関や相談窓口へ相談する
子どもの腕や太ももに切り傷を見つけた瞬間、多くの保護者は血の気が引き、頭が真っ白になります。そして、親御さんの最初の数分の対応が、その後の親子関係と回復の道筋を大きく左右する——これは現場で何度も見てきたことです。
自傷行為は、本人にとって「生きるために必要な対処法」になっていることが多く、頭ごなしに否定したり「もうやめなさい」と禁止したりすると、本人は更に孤立し、症状が深刻化することもあります。本記事は『感情で動かない』ための備えとしてお読みください。緊急性のある状況にある方は、最後まで読む前に、すぐに下記の緊急連絡先にご連絡ください。
緊急時の連絡先(冒頭でお伝えします)
お子さまが現在、深く出血している、意識が遠のいている、「死にたい」と訴えている、自殺の具体的計画を持っているなどの緊急性がある場合は、迷わず以下にご連絡ください。
- 救急:119/警察:110
- いのちの電話:0570-783-556/無料のフリーダイヤルは0120-783-556(毎日16〜21時、毎月10日は8時〜翌朝8時)
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
- チャイルドライン:0120-99-7777(16〜21時、18歳まで)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
- 地域の精神科救急情報センター(各都道府県)
本記事の情報は、緊急対応の代わりにはなりません。
自傷行為の本当の意味
世間のイメージでは『リストカット=死にたい』と思われがちですが、多くの自傷行為は『死にたい』とは違う文脈で行われています。医学的にも、自傷行為(NSSI: Non-Suicidal Self-Injury)と自殺企図は区別される概念で、それぞれ別のアプローチが必要とされています。
担当経験の中でお子さまから伺った言葉があります。『死にたいから切ってるんじゃない。むしろ生きるために切ってる』。この言葉には、自傷の核心があります。
- ①感情調整——強い感情(怒り・悲しみ・不安)を身体の痛みに置き換えて鎮める
- ②解離状態からの回復——「何も感じない」状態から現実感を取り戻す
- ③自己懲罰——「ダメな自分」を罰する
「ストレス発散」と表現すると軽く聞こえますが、本人にとっては、これがないと自分を保てない、というほどの重い意味を持つ対処です。
ただし、『死ぬため』ではないからといって安心できるわけではありません。自傷が習慣化すると自殺リスクも上がる/誤って深く切りすぎる事故/感染症・傷跡の残存/他の対処法が育たないまま大人になる/抑うつ・不安障害の併発/「もっと強い刺激でないと効かない」という耐性形成——長期的・段階的なリスクがあります。だからこそ、発見されたら早期に専門家と繋がることが何より大切です。
自傷の脳科学的背景
自傷行為は「気持ちの問題」や「わがまま」ではなく、脳と身体の生理的反応が関わっている現象です。
- エンドルフィンの働き——身体に痛みが加わると脳内でエンドルフィン(脳内麻薬物質)が分泌され、鎮痛効果と多幸感をもたらします。自傷直後に「すっきりした」と感じるのは、これが原因の一つです
- 解離と現実感の問題——強いストレスやトラウマがあると「自分の身体が自分のものじゃない感じ」という解離が起きることがあります。身体に痛みを与えることで「自分はここにいる」と現実感を取り戻すために自傷する場合があります
- 前頭前野と感情調整——思春期の脳は感情調整を担う前頭前野がまだ発達途中。強い感情を言語化して整理する力が十分ではないため、身体的な行動に転換することがあります。年齢を重ねて前頭前野が成熟すると、自傷から脱却していくお子さまも多くいます
- 依存的なメカニズム——「自傷すれば楽になる」という学習が脳に刻まれます。これは「悪い習慣」ではなく、脳の学習機能による現象。だからこそ、自傷を「やめる」だけでは解決せず、「代わりの対処法」を育てる支援が必要なのです
なぜ子どもは自傷するのか
- 強い感情に耐えられない(思春期に多い感受性の強さ)/言葉で表現できない苦しみ
- 家庭・学校・友人関係でのストレス/過去のトラウマ・喪失体験
- 抑うつ、不安症、PTSDなどの精神疾患/発達特性による感覚の独特さ
- 家族関係の難しさ(過保護・厳しすぎる・無関心)/虐待の経験
- SNSやメディアでの自傷情報の影響/「同じ経験をしている友達」の存在
「なぜうちの子が」と原因を一つに探すより、本人の世界に何が起きているのかを、本人と一緒に理解しようとする姿勢が大切です。初回のきっかけは「友達がやっていた」「ネットで見て真似した」など偶発的なことも多く、発症のきっかけ自体が浅くても、繰り返される背景には深い心理的要因があることが多いのが特徴です。
「家族関係が原因」と単純化されがちですが、背景は複合的です。完璧な家庭環境でも自傷する子どもはいますし、複雑な家庭環境でも自傷しない子どももいます。家族関係は「リスク要因」の一つではあっても、「原因」ではありません。家族の自責に飲み込まれず、複合的な要因として理解する視点が大切です。
自傷のタイプ別の特徴
- リストカット(切る系)——最も知られているタイプ。手首、前腕、上腕、太もも、腹部などに集中することが多いです
- 掻きむしり・皮膚むしり——「皮膚むしり症」と呼ばれることもあり、強迫的な側面も。リストカットほど目立たないため、家族が気づきにくい
- 抜毛(髪を抜く)——「抜毛症」。脱毛が目立つと本人の自己肯定感に影響し、二次的に抑うつや社交不安を引き起こすことも
- 爪噛み・指吸い——年齢相応の習慣レベルから自傷レベルまで様々。深刻な場合は指先の感染症や変形を引き起こします
- 叩く・殴る・打ち付ける——チック症状の場合と、意図的な自傷の場合があり、区別が必要です
- 火傷——傷跡が残りやすく、感染リスクも高い。深い火傷は致命的なことも
- 過量服薬(OD)——致死的なリスクが高く、自殺企図との境界が曖昧なケースも。発覚時は速やかに医療機関への受診が必要です
- 摂食障害との関連——絶食、嘔吐、過食、過度な運動も、リストカットなどと同じ心理的背景を持つことが多いです
SNS時代の自傷文化
各種SNSに、自傷行為や精神的苦痛を共有する匿名アカウント(「自傷垢」「メンヘラ垢」)が多数存在します。同じ経験を持つ仲間とつながれる安心感がある一方、自傷行為の「写真投稿」「方法の共有」「競争的な行動」が起きるリスクもあります。「自傷垢を見ていたら自分もやりたくなった」というケースは珍しくありません。
SNS上では「いいね」の形で承認が得られ、自傷の投稿に共感が集まることで、本人にとって「自分が認められる場」となり、行動が強化されることがあります。リアルでは話せない苦しみを共有できる安心感の裏側に、行動が定着する仕組みがあるのです。
完全な遮断は現実的ではありませんが、どんなアカウントを見ているかに関心を持つ姿勢は大切です。頭ごなしの禁止ではなく、「どんなことを話している人たちなの?」「あなたはそこでどんな気持ちになる?」という対話を通じて、SNSとの距離感を一緒に考えていく姿勢が、長期的には効果的です。
担当経験から見たエピソード
※すべて本人およびご家族が特定できない形に改変し、複数のケースを合成しています。
中2女子・感情調整型——表面的には問題なく見えたお子さま。夏のプール授業をきっかけに、長袖で隠していた腕の大量のリストカット跡が発覚。「強い悲しみや怒りが湧いた時に切ると落ち着く」と話しました。家族は「なぜ気づかなかった」と自責に飲み込まれましたが、「自傷は本人なりの対処であり、家族の責任ではない」と理解できたことが転機に。DBT(弁証法的行動療法)で感情調整の代替手段を学び、半年で頻度が大きく減り、1年後にはほぼ消失しました。
高1男子・解離型——過去にいじめを経験し、「何も感じない」「自分が自分じゃない感じ」という解離症状を訴えていました。五感を使うグラウンディング技法(氷を握る、強い香りを嗅ぐ、冷水で顔を洗う)を学び、これが自傷の代わりとして機能するように。半年後には自傷頻度が大きく減りました。
中3女子・自己懲罰型と摂食障害の併存——「悪い自分を罰している」と話し、リストカットと過食嘔吐の両方を繰り返していました。CBT(認知行動療法)で「自分はダメ」という認知の歪みを少しずつ修正していく過程で、自傷と摂食障害の頻度が並行して減少。家族療法も並行し、家族からの言葉かけが本人の自己評価に大きく影響することを家族も理解しました。
小6女子・SNSをきっかけにした自傷——同年代の自傷の投稿に触発され、軽い気持ちで真似したことから始まり、徐々にエスカレート。SNSの完全遮断は避け、本人と話し合いながら「見ない」選択を一緒に育てました。本人の興味を別の活動に向ける支援、家族との時間を増やす工夫と組み合わせた事例です。
親が絶対に避けたい5つの対応
- NG①「なんで切ったの!」と激しく問い詰める——「自分はダメだ」「親をこんなに苦しませた」という二次的な罪悪感が、自傷を悪化させる原因になります。「気づいてあげられなくてごめんね」「話してくれてありがとう」から始めてください
- NG②「もう絶対やらないと約束しなさい」と禁止する——他の対処法がないので、隠れて続けるか、症状が深刻化するだけ。「やめる」のではなく「代わりの対処を一緒に育てる」アプローチが正解です
- NG③「私が悪かった」と自分を責める——家族の自責は、本人にとって新たな負担になります。「自分のせいで親を苦しめている」という罪悪感が、自傷を悪化させます。自責は家族同士やカウンセラーと共有し、本人の前では「一緒に乗り越えていこう」を
- NG④「他の子はそんなことしない」と比較する——「あなたはおかしい」「みんなと違う」というメッセージは、孤立感を深めます
- NG⑤「すぐに病院に行きなさい」と強制する——急に強制すると「異常者扱いされた」と感じて拒否します。「あなたが楽になるための場所があるよ」「一緒に行ってみない?」と、本人の選択を尊重しながら誘うアプローチを(緊急性がある場合は別です)
これらのNG対応は、どれも愛情から出てくる言葉です。だからこそ、言ってしまったあとで悔やむことになります。看護師である私自身、現場で同じ失敗を何度も重ねてきました。大切なのは、完璧な言葉を探すことではなく、言ってしまったあとに「さっきの言い方、よくなかったね」と言い直せることです。その具体例は「看護師として言ってはいけなかった一言|現場の失敗から学んだ「子どもに届く共感」のはじまり」にまとめています。
発覚時の最初の一歩
まず5秒間深呼吸し、自分の感情を整えてから、本人に向き合ってください。「動揺している自分」を本人に見せすぎないことが、初動の質を決めます。
- 「気づいてあげられなくてごめんね」
- 「話してくれてありがとう」(本人から打ち明けられた場合)
- 「あなたが大切だよ」/「一緒に考えよう」
- 「一人で抱え込まないでいい」/「あなたを責めるためじゃないよ」
傷の手当ては、表面的な浅い傷であれば清潔に洗い、消毒し、ガーゼで保護します。「傷の手当ては医療行為」として、感情的にならずに対応してください。手当てが落ち着いたら、本人と話す時間を。本人が話したがらない場合は、無理に聞き出さず、「いつでも話したい時に話してね」と伝えるだけでも十分です。沈黙を恐れず、本人のペースで。
すぐに病院に行くべき傷の状態
- 出血が止まらない(15分以上圧迫しても止まらない)
- 傷の深さが筋肉や腱に達している/傷口が大きく開いている(縫合が必要)/骨が見える
- 傷の周囲が広く青紫色になっている/痛みが強すぎて動けない
- 感染の兆候(熱・腫れ・赤み・膿)がある
- 意識が遠のく、呼吸が苦しい
家庭で対応できるのは、表面的な浅い切り傷、出血がすぐ止まる程度、感染の兆候がないもの。皮膚科や外科で傷の処置を受けた後、児童精神科や心療内科で心のケアを並行する流れが一般的です。地域に児童精神科が少ない場合は、小児科やかかりつけ医に紹介をお願いしてください。
専門家への繋ぎ方
自傷行為が発覚したら、迷わず児童精神科・小児科・心療内科を受診してください。「もう少し様子を見よう」と先延ばしにすると、症状が深刻化することがあります。初診の予約が取れない場合は、かかりつけ医に紹介状を書いてもらう流れも有効です。
本人が拒否する場合、まず保護者だけで初診相談を受ける選択肢があります。家族の対応のヒントを得ることができ、本人への接し方を変えることで症状が改善することもあります。緊急性がある場合(深い傷、希死念慮、自殺の具体的計画)は、本人の意思に関わらず医療機関に連れて行く判断が必要です。
受診の前に、自傷の発覚した日時・頻度・傷の状態/家族として気づいた変化(食欲、睡眠、表情、行動)/本人が話した言葉/家庭・学校・友人関係の状況/これまでの受診歴を整理しておくと、診察が効率的に進みます。メモを持参するのがおすすめです。
心理療法と薬物療法
- CBT(認知行動療法)——自傷の引き金となる感情・思考パターンを分析し、別の対処法を学ぶ。10〜20回のセッションで行われることが多いです
- DBT(弁証法的行動療法)——マインドフルネス、苦痛耐性、感情調整、対人関係スキルの4つのモジュール。自傷行為の治療において最もエビデンスのある療法の一つで、日本でも導入が広がっています
- 家族療法——家族のコミュニケーションパターン、感情表現、境界線などを、本人と家族が共に整理する場
- 薬物療法——自傷行為自体への直接的な薬はありませんが、併存する抑うつ・不安症・PTSDなどへの薬物療法が、二次的に自傷の頻度を減らすことがあります。心理療法と組み合わせて行うのが基本です
- 入院治療——深刻な自傷、希死念慮、家庭での対応の限界、生命の危険などが適応。安全な環境で集中的な治療を受けることで、症状が大きく改善することが期待できます
長期回復の5ステージ
- 第1段階:気づき・受診期——自傷が発覚し、医療につながる時期
- 第2段階:理解・代替模索期——自傷の意味を理解し、代わりの対処を探す時期
- 第3段階:管理・減少期——自傷が減り、新しい対処が育つ時期
- 第4段階:安定期——自傷をしないで過ごせる期間が増える時期
- 第5段階:自立期——自分なりの対処を確立し、長期安定する時期
この5段階は直線的ではなく、退行や再発を繰り返しながら進みます。「進んだと思ったらまた戻った」というのは自然な経過です。
「自傷が完全になくなる」のがゴールではなく、「本人が自傷以外の方法で自分を保てるようになる」「自傷をしても、すぐに専門家・家族に相談できる」状態が、現実的な回復像です。長期戦の覚悟で、本人と共に歩んでください。
学校との連携
「学校に知られたくない」という本人の気持ちは尊重されるべきです。一方、学校での緊急対応のために最低限の情報共有が必要なこともあります。本人と話し合い、誰にどこまで伝えるかを一緒に決めてください。担任ではなく養護教諭やスクールカウンセラーに限定して伝える、という選択もあります。
- 保健室への自由なアクセス(感情が高ぶった時の避難場所)
- 体育・水泳での見学や代替活動(傷を見られないため)
- 長袖の着用を認める(夏でも)
- 登下校時の見守り/定期的なスクールカウンセラーとの面談
- テスト時の別室受験/欠席・遅刻への柔軟な対応
学校で自傷行為があった場合、または希死念慮を訴えた場合の対応を、事前に学校と確認しておくことが大切です。家族への連絡、医療機関への連携、本人の安全確保など、具体的な手順を共有しておくと、いざという時にスムーズに動けます。
家族の心の旅路とセルフケア
- 第1段階|衝撃と否認——「うちの子に限って」と否認したい気持ちが強く出ます。冷静な判断ができない時期なので、感情のまま本人を責めないことが大切です
- 第2段階|怒りと自責——様々な対象への怒りや自責が湧きます。両方の感情を持つ自分を、責めないでください。これは自然な反応です
- 第3段階|理解と受容——「自傷は本人なりの対処」「家族の責任ではない」という認識が育っていきます
- 第4段階|長期戦への適応——家族自身のセルフケアを優先しつつ、回復を見守る姿勢を整えます
- 第5段階|新しい家族関係の構築——「以前と全く同じ家族」に戻るのは難しいかもしれませんが、「より深い理解と信頼で結ばれた家族」を共に作っていく時期です
自傷行為のあるお子さまを支える家族は、深い不安・自責感・疲労を抱えます。家族自身がカウンセリングを受ける、家族会に参加する、信頼できる人に話を聞いてもらう、などのセルフケアを優先してください。家族が倒れたら、本人の治療継続も困難になります。
家族会は精神保健福祉センター、家族会の連合体、オンラインコミュニティで情報を得られます。「同じ立場の家族の話を聞くだけで楽になった」と話されるご家族は多く、孤独に抱え込まないことが、家族の燃え尽きを防ぐ最大の予防策です。
当事者と家族からの声
本人の声——「家族に見つかった時、すごく怒られると思った。でも、お母さんが『気づいてあげられなくてごめんね』と言ってくれて、ものすごく救われた。あの一言がなければ、もっと深く絶望していたと思う」(中2女子)。「DBTで『苦痛耐性』のスキルを学んで、強い感情が来た時に自傷以外の方法で乗り切れるようになった。氷を握る、冷水で顔を洗う、好きな音楽を聴く、深呼吸する。最初は『切らないと収まらない』と思っていたけど、実は他の方法でも何とかなることが分かってきた」(高1女子)。
家族の声——「初めて傷を見つけた時、思わず『なんで!』と叫んでしまった。今思うと、あの瞬間が娘にとっていちばん辛かったと思う。すぐに『ごめんね』と謝って、抱きしめた」(中学生の母)。「夫婦で対応方針が割れた。家族療法に夫婦で参加して、ようやく対応が揃ってきた」(高校生の父)。「家族会で出会ったお母さんたちと、何度も励まし合った。『うちだけじゃない』と知れたことが、本当に救いだった」(中学生の母)。
よくある質問
Q1. 隠れて続けていそうですが、確認していいですか
無理に服をめくって確認するのは避けてください。信頼を損ない、より巧妙に隠すようになります。代わりに「最近どう?」と気持ちを聞く関わりを続け、本人が話せる関係を保つことを優先してください。
Q2. カッターやハサミを家から無くすべきですか
本人の目に触れる場所から移すのは有効です。ただし、完全に無くすことは不可能ですし、代わりの手段を探すこともあります。「物理的な距離を作る」と「代わりの対処を育てる」の両輪で考えてください。市販薬も同様に管理を。
Q3. きょうだいに話すべきですか
本人の同意を得たうえで、年齢に応じた説明を。「お姉ちゃんは今、心が疲れていて治療中。あなたは何も悪くないよ」程度で十分です。きょうだいに「見張り役」を担わせないことが重要です。
Q4. 完全に治る日はくるのでしょうか
多くのお子さまが、時間をかけて自傷から離れていきます。ただし「完全になくなる」ことだけをゴールにすると、再発時の落胆が大きくなります。「自傷以外の対処が育っている」「困った時に相談できる」状態を目標にしてください。
Q5. 何度も再発します。絶望的な気持ちです
再発は回復過程の一部です。「ゼロか百か」ではなく、頻度が減った、間隔が空いた、深さが浅くなった、相談できるようになった——こうした変化を回復として数えてください。ご家族の絶望感が強い時は、ご家族自身のケアを優先してください。
Q6. 傷跡を見せられました。どう反応すべき?
見せてくれたのは「知ってほしい」というサインです。過剰に驚かず、責めず、「見せてくれてありがとう」「痛かったね」と受け止めてください。傷の手当てが必要なら淡々と。その場で説教や約束の強要をしないことが、次に話してもらえるかを決めます。
Q7. 自傷の代わりになる対処法はありますか
氷を握る、輪ゴムを弾く、冷水で顔を洗う、強い香りを嗅ぐといった感覚刺激(グラウンディング技法)、深呼吸、激しい運動、殴っていいクッション、絵を描く、音楽を大音量で聴く、日記に書くなど。本人と一緒に「効いた方法」を探していくプロセス自体に意味があります。心理療法の中で系統的に学ぶのが理想です。
Q8. 友達への影響が心配です/子どもの友達も自傷していると分かりました
自傷は模倣が起きやすい行動です。傷を人に見せないこと、SNSに投稿しないことは、本人と話し合っておきたい話題です。友達の自傷を知った場合は、その子の保護者や学校に伝えるかどうかを、本人と一緒に考えてください。秘密を守ることが命を危険にさらす場合は、大人が動く必要があることも伝えます。
Q9. 親自身も自傷経験があります。伝えるべき?
伝える必要は必ずしもありません。伝える場合も「私も乗り越えたからあなたも」という文脈は避けてください。プレッシャーになります。「あなたの気持ちが少し分かる気がする」程度に留め、詳細な方法や体験は語らないのが安全です。ご自身の傷が疼く場合は、ご家族自身もカウンセリングを。
Q10. 主治医との相性が合わない時は
変えることは正当な選択です。ただし治療の中断が空かないよう、次の受診先を確保してから移るのが安全。本人が「この先生には話せる」と感じられるかどうかは、治療の成否を大きく左右します。
Q11. 傷跡は将来残りますか
深さによりますが、残ることはあります。ただし、傷跡を理由に本人を責めないでください。将来的には形成外科での治療、タトゥーで覆う、長袖で過ごすなど選択肢があります。「今は治療に集中し、傷跡のことは後から考えればいい」と伝えてあげてください。
Q12. 親自身も限界を感じています
それは当然の反応です。ご家族自身が心療内科やカウンセリングにかかることをためらわないでください。「自分を大切にすることが、子どもを支える土台」です。夜間の不安には、記事冒頭の相談窓口も活用できます。
今夜これだけ
今夜は問い詰めず、刃物や薬を本人の目に触れない場所へ静かに移してください。会話は明日でも間に合います。
まとめ|「責めない、見捨てない、共に歩む」
第一に、初動の質が、その後の経過を大きく左右します。「気づいてあげられなくてごめんね」「話してくれてありがとう」から始めてください。怒りや動揺を本人にぶつけず、まず受け止める姿勢を。
第二に、自傷は本人なりの「生きるための対処」だと理解してください。「死にたい」とは限らない、本人なりの切実な対処です。禁止や叱責ではなく、「代わりの対処を一緒に育てる」アプローチが必要です。
第三に、早めの専門家への相談をためらわないでください。「もう少し様子を見よう」と先延ばしにせず、児童精神科・小児科に相談を。「念のため」のつもりで受診しても問題ありません。
第四に、家族自身を大切にしてください。家族会、カウンセリング、信頼できる人とのつながりを。家族が倒れたら、本人を支えられません。
第五に、長期戦の覚悟を持ってください。回復は数か月から年単位の時間がかかり、再発を繰り返しながら徐々に前進する旅です。「いつ終わるか」より、「今、何ができるか」に焦点を当てて進んでください。
緊急性がある場合は、迷わず救急(119)、いのちの電話(0570-783-556/無料は0120-783-556)、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間・無料)にご連絡ください。お子さまの小さな変化を喜び、長期的な視点で見守る姿勢を、どうか持ち続けてください。
参考にした公的情報・一次情報
この記事の制度・医療情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。
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著者プロフィール
星野レン(ほしの れん)
2018年4月から看護師として勤務(2か月のブランクあり)。2021年4月から児童思春期精神科病棟に携わっています。自傷行為・不登校・発達障害・思春期のメンタル不調を抱えたお子さまとご家族のケアに従事。自傷行為を通じて「生きるため」の対処を必死に続けるお子さまたちの姿を、何度も目にしてきました。本記事が、ご家族の初動と長期的なケアの一助になることを、心から願っています。
免責事項
本記事は児童思春期精神科での臨床経験をもとにした一看護師の視点をまとめたものです。医療的な診断・治療方針を示すものではありません。自傷行為は専門的な評価と治療が必要な症状です。発覚した時点で、必ず児童精神科・小児科・心療内科などの専門医療機関を受診してください。緊急時(深刻な自傷・希死念慮・自殺企図など)は、迷わず救急医療(119)や各種相談窓口にご連絡ください。記事内のエピソードは本人およびご家族が特定できない形に配慮し、複数のケースを合成して紹介しています。薬物療法・心理療法の詳細は、必ず主治医および心理士・薬剤師にご相談ください。本記事の内容は2026年時点での一般的な知見に基づいており、最新の研究や治療法については主治医や専門医療機関での確認をお願いします。


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