この記事の要点
- まず「話してくれてありがとう」と伝え、その日は一人にしない
- 否定・詰問・励まし・比較は、いずれも口を閉ざさせる
- 方法を口にする、物を人に譲る、急に明るくなるは緊急のサイン
- 刃物と薬は、その日のうちに手の届かない場所へ移す
- 親だけで抱えない。今日のうちに相談先へつながる
子どもから「死にたい」と言われたとき、頭が真っ白になります。何と返せばいいのか分からず、その場をやり過ごしてしまったことを、後から悔やんでいる方もいます。
児童思春期精神科の病棟で働く看護師の星野レンです。2018年4月から看護師として勤務し(2か月のブランクあり)、2021年4月から児童思春期精神科病棟で。希死念慮を訴えて入院・通院に至った子どもとご家族に関わってきました。まず、いますぐ必要なことからお伝えします。
いますぐの相談先
いま緊急性が高いと感じているなら、この記事を読み進める前に連絡してください。
- 救急要請:119(意識がもうろうとしている、大量に薬を飲んだ、出血が止まらない)
- 救急医療相談:#7119/子どもの救急は#8000(判断に迷うとき)
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
- いのちの電話(フリーダイヤル):0120-783-556(毎日16〜21時、毎月10日は8時〜翌朝8時・無料)/ナビダイヤル:0570-783-556(10〜22時)
- チャイルドライン:0120-99-7777(16〜21時・18歳まで・無料。本人がかけられます)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(24時間)
- お住まいの地域の精神科救急情報センター(夜間・休日も相談できます)
「大げさかもしれない」とためらう必要はありません。迷う段階で相談してよいのが、この領域の原則です。
緊急度をどう判断するか
| 緊急度 | 見られるサイン | 動き方 |
|---|---|---|
| 高 すぐ対応 | 具体的な方法を口にする/遺書らしきものがある/大切な物を人に譲ろうとする/自傷が始まった、強まっている/「楽になりたい」を繰り返す/眠れない・食べられない/急に明るくなる、落ち着いて見える/SNSで死をほのめかす投稿 | その場で救急要請、または精神科救急へ。夜間・休日も対応しています |
| 中 数日以内 | 「死にたい」の頻度が増えている/不眠や食欲不振が1週間以上/不登校や引きこもりが続く/表情がなくなる/言葉数が極端に減る/泣くことが増えた | 数日以内に児童精神科へ。予約時に「緊急性が高い」と伝える |
| 低 経過観察+相談 | 一度だけ口にした/その後は普通に過ごせている/食事と睡眠は取れている/学校にも行けている | すぐの受診でなくてよいが、早めにスクールカウンセラーや自治体窓口へ |
やってはいけない六つの反応
| つい言ってしまう言葉 | 子どもにどう届くか |
|---|---|
| 「そんなこと言わないで」(否定) | 「この気持ちは言ってはいけない」と受け取り、次から話さなくなる |
| 「なんで?何があったの?」(詰問) | 理由が言えず、「ちゃんとした理由もないのに」と自分を責める |
| 「頑張れば大丈夫」(励まし) | 限界まで頑張った結果なのに、「今のあなたでは駄目」と聞こえる |
| 「大げさだよ」「思春期だね」(軽く扱う) | 二度とその話をしなくなる。深刻な状態を見逃す |
| 「もっと辛い人もいる」(比較) | 自分の苦しさが正当なものでないと感じ、相談する気持ちを失う |
| 「家族はどうなるの」(罪悪感) | さらに罪悪感を背負い、追い詰められる |
親が最初にすべき五つのこと
① 深呼吸して落ち着く。親が動揺すると、子どもは「やっぱり言うべきではなかった」と後悔します。完璧に冷静になる必要はありません。「落ち着いて聞こう」と意識するだけで十分です。
② 「話してくれてありがとう」と伝える。言葉にしたこと自体が、勇気のいる行動です。この一言が「言ってよかった」という感覚を作り、次に相談してもらえる土台になります。
③ ただ聴く。解決しようとせず、聴くことに徹してください。遮らない、相槌を打つ、沈黙を急かさない。体の向きを子どものほうに向けるだけでも伝わります。
④ その日は一人にしない。言った直後がもっとも危険です。一緒に過ごす、隣の部屋にいる、何か理由をつけて近くにいる。「一緒にご飯食べようか」といった自然な誘いにしてください。監視されていると感じさせないことが大切です。
⑤ 専門機関につなぐ。親だけで対応するには限界があります。当日から翌日にかけて上の窓口へ、数日以内に児童精神科の予約を(電話で緊急性を伝えてください)。並行してスクールカウンセラーや自治体の窓口も使えます。
家庭の安全環境を整える
その日のうちにできる、いちばん実効性のある対応です。手段が手の届く場所にあるかどうかで、結果が変わることがあります。
- 刃物類は鍵のかかる場所へ移す
- 薬(市販薬・処方薬すべて)を一括して管理する
- ロープや紐類を視界から外す
- 高層階の場合、窓の開閉を制限する(補助錠など)
- SNSで希死念慮を煽る投稿や、自傷を肯定する場に触れていないか確認する
本人に隠れて行うより、「信用していないわけではないけれど、念のため」と伝えて一緒にやるほうが関係を損ねません。心配しているというメッセージとして届きます。
家族のなかで、誰がいつ様子を見るかを分担しておいてください。夜は無理に話しかけず、そばにいることを伝える程度で十分です。「監視」ではなく「見守り」の姿勢が伝わるかどうかが分かれ目になります。
「死にたい」が意味していること
この言葉は、必ずしも具体的な自殺の意図を指しているとは限りません。現場で子どもたちが後から語るのは、次のような内容です。
- この状況から消えてしまいたい(死にたいのではなく、終わらせたい)
- 誰にも分かってもらえない
- 自分には価値がないと感じる
- もう頑張れない、限界だ
- 助けてほしいけれど、言い方が分からない
だからといって「本気ではない」と受け取るのは危険です。意味が何であれ、対応は同じです。まず受け止め、一人にせず、専門家につなぐ。この順番は変わりません。
年代によって現れ方は変わります。小学生では「いなくなりたい」「消えたい」という表現が多く、体の不調として出ることもあります。中学生では友人関係やSNSが背景にあることが増え、高校生では進路や将来への絶望感が加わります。どの年代でも、言葉の強さと危険度は必ずしも比例しません。
自傷がある場合
自傷と希死念慮は、重なることも、別々のこともあります。自傷の多くは「死ぬため」ではなく「生きるため」に行われている、というのが現場の実感です。つらさを一時的に逃がす手段として使われています。
ただし、自傷がある子は将来的なリスクが高まることが知られています。「死ぬつもりはないと言っているから大丈夫」とは考えないでください。傷の深さで判断せず、頻度が増えているかどうかを見てください。
見つけたときの対応は子どもの自傷行為に気づいたときの記事と咄嗟の言葉のNG/OK集にまとめています。
受診と学校との連携
受診先は児童精神科が基本ですが、初診まで待たされることが多いため、電話の時点で「死にたいと言っている」と正確に伝えてください。緊急枠を用意している施設もあります。
体の症状が前面に出ている場合は、かかりつけの小児科から紹介してもらう流れも使えます。受診の進め方は児童精神科の受診方法にまとめています。
学校へ伝えるかどうかは迷うところですが、本人の安全に関わる情報は共有したほうが守れます。誰に伝えるかは選べます。担任だけでなく、養護教諭やスクールカウンセラーに伝えると、校内での見守り体制が組まれます。伝える範囲は本人と相談して決めてください。
性のあり方に悩んでいる場合
性自認や性的指向に関する悩みが、希死念慮の背景にあることがあります。当事者の若者は、そうでない層より自殺のリスクが高いことが複数の研究で示されています。
本人が打ち明けていなくても、「どんなあなたでも受け入れる」という姿勢を先に示しておくことが安心につながります。避けたいのは「男らしく/女らしくしなさい」「いつか結婚するでしょう」「気のせいだ」といった言葉です。異性愛を前提にした何気ない一言が、相談の道を閉ざします。
よりそいホットライン(0120-279-338)にはセクシュアルマイノリティ専門の窓口があります。各地の支援団体も相談を受けています。
回復していく過程
「死にたい」は、ある日消えるものではありません。現場で見てきた変化は、おおむね次のように進みます。
- 口にする頻度が減る(言わなくなったのではなく、思う回数が減る)
- 「死にたい」から「しんどい」に言葉が変わる
- 先の予定の話が出る(週末、来月、進路)
- 食事と睡眠が戻ってくる
- 好きだったことに、少しだけ手が伸びる
行きつ戻りつします。良くなったように見えて、また落ちる時期が来ます。それは後退ではなく、この経過に含まれる形です。「先の予定の話が出た」ことは、はっきりとした前進のサインとして受け取ってください。
親自身のケア
子どもから「死にたい」と言われた後、保護者の方も強い衝撃を受けています。眠れない、食べられない、常に不安が消えない。これは自然な反応です。
気をつけていただきたいのは、親が消耗しきった状態では見守りが続かないということです。この対応は数か月から年単位になることがあります。短距離走のつもりで走ると、必要な時期に力が残りません。
- 見守りを一人で背負わない。家族で分担する
- 眠れない状態が続くときは、保護者自身がかかりつけ医に相談する
- 上に挙げた窓口は、保護者が相談しても構いません
- 同じ立場の親が集まる場(家族会・親の会)を探す
疲れの度合いを確かめたいときは親の疲れSOSチェックリストを使ってみてください。
現場から|「言わなきゃよかった」と言った子
※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
高校1年の子が、母親に「死にたい」と伝えた夜のことです。母親は驚いて「そんなこと言わないで」と返し、そのまま泣き出してしまいました。
後日その子が病棟で言ったのは、「言わなきゃよかった」でした。お母さんを泣かせてしまった、自分のせいで家族を壊している、と。それ以降、家では一切その話をしなくなったそうです。
母親を責める話ではありません。あの場面で泣かずにいられる親のほうが少ないと思います。ただ、この経過には続きがあります。
母親が後日、「あのとき驚いて泣いてしまってごめん。でも、話してくれてよかった」と伝え直したのです。それから少しずつ、その子はまた話すようになりました。最初の反応を間違えても、伝え直せます。これは、現場でいちばんお伝えしたいことのひとつです。
よくある質問
Q1. 本気なのか、気を引きたいだけなのか分かりません
区別しようとしないでください。仮に気を引きたいのだとしても、そこまでの言葉を使わなければならない状態にあるということです。対応は同じです。
Q2. 「死にたい」と聞き返してよいのですか
具体的に尋ねることで自殺を促してしまう、ということはないと考えられています。むしろ、正面から聞いてもらえたことで安心する子が多くいます。「どのくらいそう思っている?」と落ち着いて尋ねて構いません。
Q3. 「誰にも言わないで」と言われました
安全に関わることは、約束できないと正直に伝えてください。「あなたを守るために、必要な人には伝える。誰に伝えるかは一緒に決めよう」という形なら、関係を保ちながら共有できます。
Q4. 受診を拒否されます
保護者だけで相談に行けます。状況を伝えれば、家庭での対応や本人を連れてくる方法について助言をもらえます。緊急性が高い場合は、その日のうちに救急を使う判断も必要です。
Q5. きょうだいにどう説明すればよいですか
年齢に応じて、隠さずに伝えてください。「お兄ちゃんは今つらい時期で、みんなで支えている」程度で十分です。何も知らされないほうが不安になります。ただし見守りの役割を負わせないでください。
Q6. 一度落ち着いたら、もう大丈夫ですか
波があります。落ち着いた時期に油断せず、通院を続けてください。とくに急に明るくなったときは注意が必要です。回復と区別がつきにくいため、この時期こそ見守りを続けてください。
今夜これだけ
今夜、家の中の薬をひとつの場所にまとめて、手の届かないところへ移してください。話をするのはその後で構いません。まず環境を変えることが、いちばん確実に効きます。
看護師視点でのまとめ
「死にたい」と言われたら、まず「話してくれてありがとう」と伝え、その日は一人にしない。否定も詰問も励ましも比較も、すべて口を閉ざさせます。理由を聞くのは後で構いません。
具体的な方法を口にする、物を人に譲ろうとする、急に明るくなる。これらは緊急のサインです。ためらわず救急や相談窓口を使ってください。刃物と薬を手の届かない場所に移すことは、今夜のうちにできます。
そして、最初の反応を間違えても伝え直せます。「あのときは驚いてしまったけれど、話してくれてよかった」。その一言で戻ってくる関係を、現場で何度も見てきました。一人で抱えず、専門機関を頼ってください。診断や治療の判断は必ず医師にご相談ください。
参考にした公的情報・一次情報
この記事の制度・医療情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。


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