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この記事の要点
- 本番より「練習期間」に消耗する子は珍しくない
- 背景は感覚・見通し・運動の苦手・勝敗不安の4タイプ
- 朝の腹痛・食欲低下・イライラは練習疲れのSOSサイン
- 「全部出る/全部休む」の二択にせず部分参加を検討する
- 先生への相談は「配慮してほしい場面」を具体的に1〜2個
9月に入ると、学校は一気に運動会・体育祭モードになります。そして、このタイミングで「急に朝起きられなくなった」「学校に行きたがらなくなった」という相談が増えます。保護者の方がよく口にされるのは、「本番は嫌がっていないのに、なぜか毎日ぐったりしている」という戸惑いです。
実は、運動会でつらいのは本番当日ではなく、その前の数週間の「練習期間」だという子が少なくありません。私は看護師歴8年、うち児童思春期精神科の病棟で5年以上働いていますが、9月と10月、そして春開催の学校では5月に、行事の練習期間をきっかけに調子を崩す子を毎年のように見てきました。
この記事では、なぜ本番よりも練習期間がしんどいのか、その背景にある4つのタイプと、家庭で気づけるサイン、そして「全部出るか、全部休むか」の二択ではない調整のしかたを、現場で見てきた事実をもとに整理します。
なぜ本番より「練習期間」のほうがつらいのか
本番は1日で終わりますが、練習は2〜4週間続きます。この「期間の長さ」が最初のポイントです。1日だけなら気力で乗り切れる負荷でも、毎日続くと回復が追いつかなくなります。大人でいえば、繁忙期が数週間続いて疲れが抜けなくなる状態に近いイメージです。
さらに、練習期間中は学校の環境そのものが変わります。いつもの時間割が崩れ、教室ではなく校庭や体育館で過ごす時間が増え、学年全体・全校での集団行動が求められます。ピストルや笛の音、応援練習の大声、炎天下の暑さ。こうした刺激が毎日、しかも予告なく降ってきます。
つまり練習期間とは、「刺激が多く、見通しが立たず、逃げ場が少ない状態が数週間続く」時期なのです。感覚の敏感さや不安の強さを持つ子にとって、これは短距離走ではなく消耗戦です。本番だけを見て「1日くらい頑張れるはず」と考えると、しんどさの正体を見誤ってしまいます。
もうひとつ見落とされがちなのが、「練習は評価され続ける時間」だという点です。行進がそろわないと全体でやり直しになる、ダンスの動きを間違えると目立つ、リレーの練習で順位が毎回はっきり出る。本番なら一度で終わる緊張場面が、練習では毎日繰り返されます。
練習期間に崩れやすい子の4タイプ
病棟や外来で出会ってきたお子さんたちを振り返ると、練習期間のしんどさには大きく4つの背景があります。ひとつだけの子もいれば、複数が重なっている子もいます。お子さんに当てはまるものがないか、照らし合わせながら読んでみてください。
タイプ1:音や暑さがつらい「感覚の敏感さ」
ピストルの音、笛の音、マイクのハウリング、応援練習の大声。聴覚が敏感な子にとって、これらは「うるさい」を通り越して痛みに近い刺激です。いつ鳴るかわからないピストルの音を警戒し続けるだけで、体は常に緊張状態になります。炎天下の暑さや、砂ぼこり、ゼッケンの肌触りがつらい子もいます。
感覚の敏感さは、本人が「そういうものだ」と思っていて言葉にしないことが多いのが特徴です。「なんで嫌なの?」と聞かれても「わからない」としか答えられず、わがままと誤解されやすい。家庭での感覚過敏への対応は別の記事で詳しくまとめていますので、心当たりがあれば併せて読んでみてください。
タイプ2:いつもと違う時間割がつらい「見通しへの不安」
練習期間中は、時間割が毎日のように変わります。「3時間目は算数のはずだったのに全体練習になった」「雨で予定が入れ替わった」。決まった流れがあるから安心して過ごせていた子にとって、この予測のつかなさは大きなストレスです。自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある子に多く見られますが、診断の有無にかかわらず、見通しが立たないと不安が強くなる子はいます。
このタイプの子は、練習そのものより「今日は何があるかわからない」という状態に消耗します。前日に翌日の予定がわかるだけで負担がぐっと減ることが多いので、後述する先生への相談で「予定の事前共有」をお願いする価値があります。
タイプ3:みんなの前で失敗が見える「運動の苦手さ」
ダンスの振りがなかなか覚えられない、行進で手足がそろわない、リレーでいつも抜かされる。運動の苦手さがある子にとって、練習は「自分の苦手が毎日、全員の前で可視化される時間」です。発達性協調運動症(DCD)といって、極端に不器用さが目立つ発達特性もありますが、そこまでいかなくても、体育が苦手な子にとって練習期間の負担は相当なものです。
「練習すればできるようになる」と励ましたくなる場面ですが、本人はすでに人一倍がんばってできていないことが多い。努力不足ではなく、体の動かし方の特性の問題です。ここで「もっと練習しなさい」と家庭でも追い打ちをかけると、子どもの逃げ場がなくなります。
タイプ4:「負けたらどうしよう」が頭から離れない「勝敗への不安」
まじめで責任感の強い子に多いのがこのタイプです。「自分がリレーで抜かされたらクラスが負ける」「応援団なのに声が出ないと思われたくない」。勝敗や役割のプレッシャーを、練習期間中ずっと背負い続けます。周りからは「一生懸命でえらい」と見えるぶん、限界までしんどさに気づかれにくいのが怖いところです。
ひといちばい敏感な気質(HSC)を持つ子は、勝敗そのものより「負けたときのクラスの空気」や「先生の落胆」を先回りして想像し、疲れてしまうことがあります。本人が「楽しい」と言っていても、夜に寝つけなくなっていたら要注意です。
家庭で出るSOSサイン——「行きたくない」の前に体に出る
子どもは「練習がつらい」と言葉で説明できないことが多く、しんどさはまず体と行動に出ます。練習期間中に次のようなサインがないか、少し気にかけてみてください。
- 朝、腹痛・頭痛・吐き気を訴える(休日には出ない)
- 夕食の量が減る、好物にも手をつけない
- 寝つきが悪くなる、夜中に起きる、朝起きられない
- 帰宅後すぐ寝てしまう、口数が減る
- 些細なことでイライラする、きょうだいげんかが増える
- 爪かみ・チック・頻尿など、以前あった癖が復活する
ポイントは「練習期間に入ってから変わったかどうか」です。もともとの様子と比べて変化があるなら、それは性格の問題ではなく負荷が容量を超えかけているサインと考えたほうが安全です。特に食事と睡眠の変化は、病棟でも子どもの状態を測る基本の指標にしています。
※本記事に登場するエピソードは、個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
入院していた小学校中学年の男の子は、退院後の生活を整える面談のなかで、毎年秋になると調子を崩していたことがわかりました。ご家族は「涼しくなる時期に弱いのかも」と季節のせいだと思っていたのですが、本人とカレンダーを見ながら振り返ると、崩れ始めるのは決まって運動会の練習が始まる週。ピストルの音が「体がビクッとして、そのあとずっと心臓がドキドキする」レベルでつらかったこと、それを誰にも言えず「お腹が痛い」とだけ訴えていたことが、初めて言葉になりました。音への敏感さに名前がついたことで、ご家族の関わりも学校への伝え方も変わっていきました。
「休ませる」判断の軸——全部出るか全部休むかの二択にしない
「練習がつらいなら休ませたほうがいいのか、それでは逃げ癖がつくのか」。この相談は本当に多いです。私が現場でお伝えしているのは、「全部出る」か「全部休む」かの二択で考えないこと。その間には、部分参加・見学参加・時間短縮など、たくさんの段階があります。
判断の軸として使いやすいのは、次の3つです。
- 食事と睡眠が保てているか——崩れていたら負荷を減らす段階
- 回復に一晩で足りているか——朝に疲れが残るなら容量オーバー
- 本人が「嫌な場面」を特定できるか——特定できるなら部分調整が可能
食事と睡眠が保てていて、愚痴を言いながらも通えているなら、家庭で回復を支えながら見守る選択肢があります。逆に、食べられない・眠れない・朝に体の症状が出る状態が数日続いているなら、それは「がんばりが足りない」のではなく、すでに容量を超えています。負荷を減らすことが先で、休ませることは逃げではなく治療的な判断です。
心配なのは、しんどさを見せずに完走してしまい、運動会が終わった直後にバタッと倒れるように不登校になるパターンです。行事後の燃え尽きは、行事中に休ませてもらえなかった子に起こりやすい。「本番に出られたからOK」ではなく、練習期間中の消耗にこそ目を向けてほしいのです。
なお、体の症状が強い場合や、気分の落ち込み・不安が数週間続く場合は、家庭と学校の調整だけで抱え込まず、小児科や児童精神科など医師への相談を必ず選択肢に入れてください。行事のストレスは、背景にある不安症状や発達特性に気づくきっかけになることも多いからです。
先生への相談のしかた——部分参加の交渉例
学校への相談は、「運動会の練習がつらいみたいなんです」という漠然とした伝え方だと、「がんばらせましょう」で終わってしまいがちです。コツは、つらい場面を特定して、具体的な調整案とセットで伝えること。先生も、何をどうすればいいかがわかれば動きやすくなります。
交渉の例をいくつか挙げます。すべてを求めるのではなく、お子さんに合うものを1〜2個に絞って相談するのが現実的です。
- 「ピストルの音が苦手なので、スタート係の近くに立たない配置にしてもらえますか」
- 「全体練習は参加しますが、応援練習の間は見学(記録係など役割つき)にできますか」
- 「翌日の練習予定を連絡帳で前日に教えてもらえますか」
- 「暑さに弱いので、練習の合間に保健室や日陰で休む許可をもらえますか」
- 「ダンスの振り付け動画を家で見られるようにしてもらえますか」
ここで大事なのが、「見学も参加のひとつ」という考え方です。列の外から練習を見て流れを覚える、係として記録をとる、放送や道具の準備を手伝う。体を動かすことだけが参加ではありません。見学という形でその場にいられれば、本番へのつながりも保てますし、「自分だけ何もしていない」という疎外感も減らせます。
外来でフォローしていた中学生の女の子は、体育祭の全体練習が始まってから朝起きられなくなり、「もう全部休みたい」と話していました。よく聞くと、つらいのは競技ではなく、炎天下で長時間並んで待つ開会式の練習と、大声を強いられる応援練習の2つ。保護者の方が担任の先生に「この2場面だけ見学にして、競技の練習は出ます」と絞って相談したところ、先生も「そこだけなら」とすぐ調整してくれました。彼女は結局、本番は全部出たいと自分から言い、当日を楽しんで終えました。全部休む必要はなかったし、全部我慢する必要もなかった。つらい場面を特定できたことがすべての分かれ目でした。
診断名がある場合の学校への伝え方や、診断がなくても配慮をお願いする言い方については、学校への病気の伝え方をまとめた記事も参考になるはずです。
家庭でできる回復の工夫——練習期間は「充電優先」で回す
練習期間中の家庭の役割は、シンプルにいえば「充電ステーション」です。学校で放電してくる分、家では回復を最優先に回します。特別なことより、次のような当たり前の調整が効きます。
- 習い事や塾を練習期間だけ減らす・休む(負荷の総量を下げる)
- 就寝時刻を守ることを最優先にし、宿題は先生に相談して減らしてもらう
- 帰宅後30分〜1時間は「何もしない時間」として口出ししない
- 夕食は本人の好きなもの多めでいい。食べられることを優先
- 「今日どうだった?」と聞きすぎない。話し始めたら聞く
とくにお伝えしたいのが「聞きすぎない」です。心配だとつい「練習大丈夫だった?」と毎日確認したくなりますが、子どもにとっては帰宅後もまた運動会のことを考えさせられる時間になります。家が「運動会のことを忘れられる場所」であることが、いちばんの回復支援になることも多いのです。
音に敏感な子であれば、家の中の音環境を静かめに整える、テレビの音量を下げる、といった調整も回復を助けます。学校でつらい音を浴び続けている分、家では聴覚も休ませてあげるイメージです。
そして、本番当日については「出られたら花丸、出られなくても練習をがんばった事実は消えない」というスタンスでいてください。当日に熱を出す、直前に行けなくなる——それも十分起こりえます。そのときに「ここまでがんばったのにもったいない」と言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、「よくここまでやったね」で締められると、この行事は子どもにとって失敗体験にならずに済みます。
今夜これだけ
今夜の夕食のとき、お子さんの食べる量がいつも通りかだけ、そっと確認してみてください。減っていたら、それが練習疲れの最初のサインかもしれません。
看護師視点のまとめ——練習期間のしんどさは「わがまま」ではない
運動会の練習期間は、感覚・見通し・運動・勝敗という4方向の負荷が、数週間にわたって毎日かかり続ける時期です。本番の1日だけを見て「それくらい」と判断せず、練習期間全体を消耗戦としてとらえる。これが今日いちばんお伝えしたかったことです。
病棟で出会う子どもたちの多くは、「つらい」と言えないまま限界までがんばった子たちです。行事のたびに体調を崩すお子さんは、根性が足りないのではなく、負荷の調整弁を持っていないだけ。その調整弁を、大人が一緒に作ってあげてほしいのです。部分参加も見学も立派な参加ですし、休ませる判断は逃げではありません。
食事と睡眠が崩れたら負荷を減らす。つらい場面を特定して、先生には具体案で相談する。家は充電ステーションに徹する。この3つを押さえておけば、運動会シーズンは「乗り切るだけの季節」ではなく、お子さんの特性を知り、学校と協力関係を作る機会にもなります。体の症状や落ち込みが続くときは、ためらわず小児科・児童精神科の医師に相談してください。
参考にした公的情報・一次情報
この記事の内容に関連する制度・相談先・健康情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。


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