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これは、児童思春期精神科の病棟で出会った、ある中学生のお子さまを通して教えてもらった話です。本人とご家族の特定を避けるため、年齢や性別、家庭背景の細部は変えてあります。また、特定のお子さまの単独エピソードではなく、現場で繰り返し出会った複数のケースを再構成した「典型像」として描いています。
今日お伝えするのは、1年半以上学校に行けず、家で母親とぶつかり続けていたFさん(仮)と過ごした時間のことです。「学校に行きたくない」という言葉の下に、本人すら気づきにくい「行きたい願い」が眠っていた——これが、Fさんから教わった大きな気づきでした。
この記事は、お子さまの不登校が長期化して途方に暮れているご家族、最近休みがちになってきて先の不安を抱えているご家族、何度も登校チャレンジに失敗して疲弊しているご家族に届くことを願って書きました。読み終わるころには、「学校に戻す」というゴールを少し脇に置いて、別の視点から本人の回復を見つめる手がかりが残るはずです。
- この記事を書いている私について
- 「もう何も話したくない」の入院初日
- 「学校に行きたくない」じゃなかった
- 不登校の心理的な段階
- 母娘で再会した、面会の日
- 看護師として、私が大切にしたこと
- 不登校の背景にある「見えにくい困りごと」
- 身体症状との関係——「サボり」と決めつけないで
- 学校との連携——担任とどう付き合うか
- 合理的配慮——学校にお願いできること
- ゲーム・スマホ依存との関係
- 退院後のFさんの選択
- 学校以外の「学びの場」を知っておく
- 進路設計——「学校に行けない=進路がない」ではない
- きょうだいへの配慮
- 夫婦・祖父母との温度差
- 親自身のセルフケア
- ご家族にお伝えしたいこと
- 受診・相談の目安
- 入院を考えるタイミング
- 自宅学習の組み立て方
- 親の言葉かけ——NGとOKの具体例
- 「親が変わると子が変わる」現場での実感
- 5年・10年スパンで見た不登校経験者の歩み
- 自己肯定感の修復に向けて
- まとめ|「行けない」の向こうに、本当の願いがある
- 同じ状況のご家族へ伝えたい3つのこと
- よくある質問(FAQ)
- 緊急連絡先
- 関連記事
- 著者プロフィール
- 免責事項
この記事を書いている私について
星野レンと申します。看護師歴8年、うち児童思春期精神科の病棟で5年勤務。不登校、発達障害、思春期のメンタル不調を抱えるお子さまとご家族のケアに従事してきました。不登校は、現場で出会う主訴の中でも特に多いテーマで、発達特性・うつ・不安・家庭環境・学校でのつまずきなど、背景は実に多様です。にもかかわらず、ご家族が抱える「学校に戻さなきゃ」というプレッシャーは共通していて、その焦りが本人を追い詰める構造にも、繰り返し出会ってきました。
「もう何も話したくない」の入院初日
Fさんが入院した初日、お母様は「話を聞いてくれる人なら誰でもいいから連れてきました」と疲れ切った表情で仰いました。Fさんはぐったりとうなだれ、初日は私の挨拶にもほとんど反応しませんでした。視線は床に落ち、こちらを見ようともしない。それでも、髪は染めず、ピアスもせず、おそらく入院当日まで母娘で揉めながらも準備してきたであろう、清潔な制服を着てきていました。
申し送りでは「中学2年から不登校が続き、最近は家でも自室にこもり、食事も部屋に運んでもらう生活。母親と顔を合わせると衝突する」とのこと。家族関係が悪循環の中で固まってしまっていた状態でした。入院前の半年間は、家の中で母娘がほとんど会話しない日が続いていたそうです。お母さまは「もう何をしてあげればいいのか、分からない」と、面談の最初に涙を流されました。
Fさんに振り返ってもらうと、不登校の始まりは中2の春。クラス替えで仲の良かった友達と離れ、新しいクラスに馴染めず、徐々に休みが増えた。学校に行けない日に「ごめん、頭痛い」とお母さまに伝えると、「ちゃんと薬飲んだ?」「明日は行く?」と心配されるたびに、「自分はダメだ」という気持ちが膨らんでいった——本人にとっては、家こそが「責められる場所」になっていきました。
「学校に行きたくない」じゃなかった
担当して2週間ほど経った頃、Fさんが少しずつ言葉を発してくれるようになりました。私が一番驚いたのは、こんな言葉でした。
「学校に行きたくないんじゃない。本当は、行きたい。でも、行けない自分がもう恥ずかしくて、教室に戻る方法が分からない」
不登校が長引いた子の多くが、口にする言葉です。「行きたくない」のではなく、「行きたい気持ちと、行けない現実の間で苦しんでいる」。これが、表面の「行きたくない」の下にあった本心でした。
Fさんはさらに話してくれました。「最初は『行きたくない』だった。でも、半年経った頃から、『行けない』に変わった。1年経つと、『行ったところで、もうみんな知らない人になってる』って思って、『行く意味も分からない』になった。今は、考えるだけで胸が苦しくなる」。これは、不登校が長期化する過程で、ほとんどのお子さまが経験する心理的な変化です。最初の「行きたくない」は感情の話、半年後の「行けない」は身体の話、1年後の「行く意味が分からない」はアイデンティティの話——時間が経つほど、根の深い問題になっていきます。
だからこそ、不登校の初期に「無理して行かせない」だけでなく、「行けない期間に何をして過ごすか」「本人の自尊心をどう守るか」を、家族と一緒に考えていくことが、長期化を防ぐ鍵になります。
不登校の心理的な段階
不登校の経過には、ある程度共通した段階があります。お子さまが今どの段階にいるかを理解すると、ご家族の対応が変わります。
第1段階:前駆期
朝の体調不良が増える、夜眠れない、学校の話題を避ける、宿題が進まない——不登校が始まる前のサイン期です。この段階では、まだ本人も「行きたくない」とは言わず、「お腹が痛い」「頭が痛い」など身体症状で訴えることが多いです。
家庭でできるのは、身体症状を「仮病」と決めつけないこと。実際に頭痛や腹痛が起きていることが多く、心理的なストレスが身体に出ているサインです。「学校行きたくないだけでしょ」と決めつけず、本人の感覚を尊重して、無理に登校を勧めない週があってもいい——この対応で、初期に登校を回復できるケースもあります。
第2段階:混乱期(初期不登校)
明確に「行きたくない」を口にし始め、欠席が増える時期。本人も「自分はどうなってしまうんだろう」と混乱し、ご家族も「これは一時的なの?」「長引くの?」と不安が高まる時期です。
この時期に大事なのは、「無理に行かせない」と「家を居心地のいい場所にする」の2点。家でも「学校どうするの?」と毎日聞かれると、本人にとって家もストレスの場になります。学校の話は週に一度、本人が話したいときだけ、というルールを家族で決めるのも一案です。
第3段階:安定期(中期不登校)
欠席が日常になり、本人もご家族も「学校に行かない」生活に慣れてきます。本人は家の中で自分なりの時間を過ごし、ゲーム・動画・読書などに没頭することが多いです。「家ではエネルギーが回復するけれど、外に出るとまだしんどい」状態。
この時期は、「学校復帰」を一旦ゴールから外して、生活リズムの維持と社会との細い接続を保つことに集中します。完全に閉じこもらせず、家族以外の人(祖父母、塾の先生、フリースクールのスタッフ、オンライン家庭教師など)と週に一度でもつながる経験を、細々と維持します。
第4段階:固着期(長期不登校)
不登校が1年以上続き、生活リズムが昼夜逆転、自室にこもる時間が増える、家族との会話も減る——Fさんがこの段階に近かったと思われます。本人は外の世界との接点を失い、家族はどう関わっていいか分からない状態。
この段階で大事なのは、「環境を変える」こと。家庭の中だけでは膠着していた状況を、入院、施設、留学、転居など、何らかの環境変化で動かす——という選択が、回復のきっかけになることがあります。Fさんの場合も、入院という環境変化が、ご家族・本人の両方にとってのリセットの機会になりました。
第5段階:再出発期
本人が「何かをしてみたい」と思える時期。完全に学校に戻る、フリースクールに通う、通信制高校に進学する、アルバイトを始める——選択は人それぞれですが、本人が自分の意志で動き出す時期です。
この時期の家族のサポートは、「本人の選択を尊重する」に尽きます。親が「もっと頑張れる」と背中を押すと、せっかくの自発性が壊れることがあります。本人のペースを信じて、「やってみたいって思えたんだね」「応援するよ」と、後ろからそっと支える役割に徹してください。
母娘で再会した、面会の日
入院後しばらく、Fさんは母親との面会を拒んでいました。家での衝突の記憶が新しく、顔を合わせるとまた何か言われるという緊張感がありました。「会いたい気持ちもあるけど、何を話していいか分からない」「お母さんに『学校どうする』って聞かれそうで怖い」——本人の言葉でした。
3週間目に初めて行われた面会。お母様は事前に心理士から「アドバイスや叱責はしないで」「本人の話をただ聞くだけ」と指導を受けていました。「どうして学校に行けないの」「これからどうするの」を言わない面会。代わりに、Fさんが好きだったお菓子、退院後の食事のリクエスト、テレビで見たニュース——「学校以外の話」だけをする面会です。
15分ほどの短い面会の終わり際、Fさんが小さく「ごめんね」と言いました。お母様は目を真っ赤にして「謝らなくていいの。お母さんもごめんね」と返しました。私は廊下からそっと見守りながら、心の中で泣いていました。1年半ぶりに、ようやく母娘が「責めずに会えた」瞬間でした。
その後の面会も、ルールは同じ。「学校・進路・将来の話はしない、それ以外の話だけ」。最初は不自然に感じられたこのルールが、母娘の関係を少しずつ修復していきました。Fさんは「お母さんが学校の話をしなくなって、初めて家のことを思い出せた」と話していました。
看護師として、私が大切にしたこと
①「学校に戻すこと」を目標にしない
不登校の入院で、私たち看護師が目標にすべきは「学校復帰」ではありません。それは結果として起こることであり、目指すのは「生活リズムの回復」「他者との関わりの回復」「自己肯定感の修復」。
Fさんの場合も、まず病棟内で看護師・他患者・心理士・OTスタッフと小さく関わることから始めました。学校という大きな選択肢の前に、「誰かと一緒にいて安心」を取り戻すことを大切にしました。最初は他患者と挨拶を交わすだけだったFさんが、徐々にOT(作業療法)の時間に他の入院中の中学生と工作をするようになり、夕食を一緒に食べる時間が苦痛じゃなくなり——という、小さなステップを積み重ねていきました。
②未来の話より、今日の話
「これからどうするの」「進路は」という問いは、本人を追い詰めます。私は「今日は何が食べたい?」「この本面白そう」「今日のおやつ何だっけ」と、今日の話・今この瞬間の話を意識的に増やしました。
今日が穏やかに過ぎることが積み重なって、初めて「未来」を考える余裕が生まれます。順序を間違えると、本人は閉じます。家庭でも応用できる視点です。「将来どうする」を毎日聞かれる家と、「今日のごはん何にしよう」を毎日聞ける家では、本人にとっての居心地が大きく違います。
③親子の関係修復のサポート
不登校が長引いた家庭では、親子の関係そのものが疲弊していることが多いです。お母様にも個別に時間を取り、ご自身の感情の整理、子育てへの罪悪感、夫婦の温度差などを話していただきました。
「親が休んでいい」「相談してもいい」という許可を、看護師から繰り返しお伝えする。それが家族関係を再構築する一歩になります。お母さま自身、長年「私がしっかりしなきゃ」と一人で抱えてこられた方でした。お父さまは仕事で忙しく、義両親は遠方。「自分の感情を出していい場所がなかった」と話されました。退院前のミーティングでは、お父さまにも参加してもらい、「お母さんが一人で抱えない仕組み」を家族で作る話し合いをしました。
不登校の背景にある「見えにくい困りごと」
不登校は単独の問題ではなく、その背景に「見えにくい困りごと」が潜んでいることがほとんどです。代表的なものを整理します。
発達特性(ASD・ADHD・LD)
本人は気づいていないけれど、ASD・ADHD・学習障害(LD)などの発達特性が背景にあるケースがあります。「集団生活がしんどい」「先生の話が頭に入らない」「字を読むのに極端に時間がかかる」「文字を書くのが苦痛」——こうした特性ゆえの困難が、学校生活を耐えがたいものにしていることがあります。
診断を受けるには、児童精神科や発達障害専門のクリニックで発達検査(WISC、KABC-Ⅱなど)を受けます。検査結果に基づいて、学校での合理的配慮、家庭での関わり方、必要なら療育・薬物療法など、具体的な支援策が見えてきます。
HSC(ひといちばい敏感な子)
感覚や感情が人より強く受け取られる気質。診断名ではなく「気質」の概念ですが、不登校の背景にHSC傾向があるケースは少なくありません。大人数の教室、給食のにおい、先生の大きな声、同級生の喧嘩——刺激の総量で疲れ切ってしまう、というパターンです。
HSCのお子さまへの対応は、「外で頑張った分、家で完全に休める環境」を整えること。家を完全な安全基地にして、外でのストレスを家でリセットできれば、不登校を防げることがあります。長期化したケースでも、刺激の少ない学びの場(フリースクール、通信制、家庭教師)に切り替えることで、本人が落ち着いて学べる環境を取り戻せます。
うつ病・不安症
思春期のうつ病は、大人のうつとは少し違うかたちで現れることがあります。「悲しい」より「イライラ」「眠れない」「やる気が出ない」「身体が重い」——これらが続くと、登校が困難になります。社交不安症(人前で話すのが極度に怖い)も、不登校の背景に潜むことがあります。
これらは適切な診断と治療で大きく改善します。本人が「ただの怠けだと思っていた」と話すケースが、現場では非常に多いです。「『ただの怠けだと思ってた』と泣いたお母さん|うつ病だった高校生Iさんの話」もあわせてご覧ください。
いじめ・人間関係のトラブル
顕在的ないじめ、SNSでの陰口、グループ内での孤立、先生との相性の悪さ——これらが不登校のきっかけになることもあります。本人がご家族に話せないまま、「学校に行きたくない」だけを訴えるケースが多いです。
ご家族としては、本人に「いじめられてる?」と直接尋ねるのは避けてください。多くの本人は否定します(恥ずかしさ、報復への恐れ、家族を心配させたくない、などの理由)。代わりに、「学校で困ったことがあったら、いつでも話していいよ」と窓口を開いておき、本人が話したくなるタイミングを待ってください。同時に、担任や学校に「何かあったか確認してほしい」と頼んでおくのも一案です。
身体症状との関係——「サボり」と決めつけないで
不登校のお子さまに頻繁に見られるのが、身体症状です。代表的なものを記します。
起立性調節障害(OD)——朝起きられない、立ちくらみ、午前中の不調が午後には軽快する。これは「サボり」ではなく、自律神経のバランスが崩れた状態です。中学生〜高校生の約10%が経験するとされています。小児科や循環器内科での評価と治療が必要です。
頭痛・腹痛——特に朝、登校前に集中して出る痛み。心理的なストレスが身体症状として出る「心身症」の一形態です。痛みは本物で、本人もコントロールできません。
睡眠障害——夜眠れず、朝起きられない。スマホの長時間使用と相まって、昼夜逆転が固定化することもあります。
食欲不振・過食——食欲のコントロールが乱れる。「給食が食べられない」「家でも食事をとらない」「逆に夜中に食べすぎる」など。
これらの身体症状を、ご家族が「気のせい」「サボり」「ずる休み」と決めつけないことが、信頼関係を保つ前提です。痛みは本物、しんどさは本物——その前提で、必要なら小児科で評価を受け、心身両面のサポートをしてください。
学校との連携——担任とどう付き合うか
不登校のお子さまをめぐる学校との連携は、ご家族にとって精神的に大きな負担です。電話に出るのが怖い、担任の対応に傷ついた、学校が変わってくれない——こうした悩みは現場でもよく聞きます。
連携の基本姿勢は、「責めない、情報を共有する、一緒に作戦を立てる」の3つ。「学校が悪い」というスタンスから入ると、現場の先生も身構えてしまいます。「本人がしんどがっている、家でも対応に苦慮している、学校と一緒に方法を考えたい」と、協力ベースで伝えると、現場が動きやすくなります。
具体的に伝えたい情報:「本人が今どんな状態か」「家庭ではどんな関わりをしているか」「医療機関にかかっていれば、診断と治療方針」「学校に求める配慮」。これらをA4一枚程度にまとめて、担任に渡すと共有が早いです。
担任の理解が十分でない場合は、無理に担任に頼らず、養護教諭・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター・教頭・校長と、複数のルートを確保してください。学校は組織なので、一人の先生で行き詰まっても、別の人が動いてくれることがあります。
そして、担任からの電話やプリントを「全部受け止めなきゃ」と思わないこと。電話に出るのが辛い時期は、留守電にして必要な部分だけ折り返す、メールでの連絡をお願いする、面談を月1回に絞る——というスタイルでも構いません。ご家族の心の余裕を守ることも、長期戦の重要なポイントです。
合理的配慮——学校にお願いできること
不登校が完全な「お休み」ではなく、「部分的に登校」「特定のことだけ参加」を目指す場合、学校に合理的配慮をお願いすることで、再登校のハードルが下がります。具体的な依頼事項を整理します。
- 保健室登校・別室登校:教室に入れなくても、保健室や別室で1日過ごす。出席日数にカウントされる。
- 遅刻・早退の自由化:登校できる時間帯だけ参加する。
- 給食を別場所で食べる:集団給食が苦手なお子さま向け。
- 特定の科目だけ参加:得意な科目だけ授業に出る、苦手な体育や音楽は別室で過ごす。
- 授業のオンライン参加:自宅からタブレットで授業を見る(コロナ以降、対応が進んだ学校が増えました)。
- 定期テストの別室受験:教室での受験が困難なお子さま向け。
- 提出物の柔軟化:締め切りの延長、宿題の量の調整。
- 修学旅行・遠足の不参加:強制せず、本人の意思を尊重する。
- 制服の代替:制服が苦痛なお子さまへの柔軟な対応。
これらは「特別扱いを求める」のではなく、「合理的な配慮」として、教育機会の確保のために認められているものです。学校の理解度や柔軟性によって対応に差はありますが、相談する価値はあります。文部科学省も「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知で、これらの柔軟な対応を学校に求めています。「うちの学校はそんなのやってくれない」と感じても、お住まいの教育委員会に「合理的配慮を学校にお願いしたいが、応じてもらえない」と相談するルートもあります。
ゲーム・スマホ依存との関係
不登校が長期化すると、ゲームやスマホへの没頭が増えるご家庭が多いです。「ゲームばかりやっている」「スマホ依存だ」と心配されるご家族も多いのですが、現場の見立てを少し共有します。
多くの場合、ゲーム・スマホは「不登校の原因」ではなく「不登校の結果」として増えています。外の世界とつながる手段が極端に減った状態で、唯一残された刺激が、画面の中の世界——という構造です。これを取り上げると、本人の唯一の楽しみと、唯一の社会との接点が同時になくなってしまいます。
とはいえ、生活リズムが完全に画面中心になり、昼夜逆転、食事も画面の前、家族との会話もゼロ、という状態は、本人にとっても望ましくありません。バランスの取り方を、本人と一緒に話し合うことが大切です。
具体的な工夫としては、「禁止」ではなく「ルール化」。本人と一緒に「朝食までは触らない」「夜23時以降は触らない」「食事中は離す」など、最低限のルールを話し合って決める。完璧を求めず、「100%守る」のではなく「80%守れたら良し」とするのが現実的です。
もし依存的に深刻化していて、本人もコントロールできない・ご家族もどうしようもないという状態なら、ゲーム依存の専門外来や、依存症対応の精神科クリニックへの相談を検討してください。
退院後のFさんの選択
Fさんは退院後、すぐに学校に戻ることはしませんでした。でも、地域のフリースクールに週2日通い始めることを選びました。同じような立場の友達ができ、自分のペースで学習を続けられる場所です。
1年後、お母様から手紙をいただきました。「あの子は通信制高校に進学しました。少しずつ、自分の道を歩いています」と書かれていました。手紙の終わりには、こう添えられていました。「学校に戻すことだけを考えていた頃の自分が、本人をどれほど追い詰めていたか、今ならよく分かります。あの子に合う道を、あの子のペースで——という発想に、入院を経て初めて辿り着けました」。
「学校に戻る」だけがゴールではない。その子に合った道を、その子のペースで見つけていくことが、本当の回復だと改めて感じた手紙でした。
学校以外の「学びの場」を知っておく
不登校のお子さまの居場所として、学校以外の選択肢を知っておくことは、ご家族にとって大きな安心になります。代表的な選択肢を整理します。
フリースクール
民間運営の学びの場。通学の頻度、カリキュラム、雰囲気が施設ごとに大きく異なります。「学校的なところ」から「居場所重視」まで幅があります。月額3〜5万円が相場。出席日数を学校の出席にカウントしてもらえるケースもあります。
適応指導教室(教育支援センター)
自治体が運営する公的な居場所。無料または低額で利用でき、学校の出席日数にカウントされます。担当の先生が学校と連携してくれるので、学校に戻りたい時期にも対応してくれます。
放課後等デイサービス
発達障害などの特性があるお子さま向け。療育的なプログラムや、小集団での活動が中心。受給者証が必要ですが、利用料は所得に応じた負担です。
オンライン家庭教師・オンラインフリースクール
家から出るのが難しいお子さま向け。画面越しで先生や仲間とつながれる仕組みです。コロナ禍以降、サービスが充実してきました。
通信制中学・高校
正規の教育課程として、家庭学習中心で卒業を目指せる仕組み。中学校卒業資格・高校卒業資格を取得できます。サポート校と組み合わせると、対面での指導も受けられます。
家庭教師・個別指導塾
マンツーマンの学習支援。学校に行けない期間の学業を補い、進路選択の選択肢を広げます。「家庭教師のグッド」など、不登校・発達特性のお子さま向けのサービスもあります。
これらの選択肢を「全部見学に行く」必要はありません。本人の状態と希望を尊重しながら、ご家族が「選択肢を知っている」状態でいることが、心理的な余裕を生みます。
進路設計——「学校に行けない=進路がない」ではない
不登校のお子さまを持つご家族の最大の不安は、「将来、進路はあるのか」だと思います。結論からお伝えすると、不登校経験者向けの進路は、想像以上に充実しています。
高校進学は、通信制・定時制・チャレンジスクール・高等専修学校など、多様な選択肢があります。出席日数や内申点を重視しない、入試の形式が多様、卒業後の進路サポートも整っている——「不登校を経験したからこそ理解してくれる学校」が、今は多くあります。
大学進学も、通信制大学、放送大学、海外大学のオンラインプログラムなど、不登校経験者にも開かれています。専門学校・職業訓練校・就労支援機関も、進路の選択肢に入ります。
大事なのは、「みんなと同じ進路」を強要しないこと。本人のペースに合う進路を、選択肢の中から本人と一緒に選んでいく。これが現代の進路設計のスタンダードです。詳しくは「通信制高校という選択肢」もご参考にしてみてください。進路選択は人生の一大決断ですが、「選び直しができる」という前提も大切です。最初に選んだ高校が合わなければ転校もできるし、大学進学を1〜2年遅らせても問題ありません。「正解の道」を選ぼうとして固まるより、「やってみて違ったら変える」という柔軟性を、ご家族の側にも持っておいてください。
きょうだいへの配慮
不登校のお子さまにきょうだいがいる場合、きょうだいへの影響にも気を配ってください。家庭の関心が不登校のお子さま中心になりがちで、きょうだいが「自分は無視されている」「両親は私には興味がない」と感じることがあります。
具体的な対応として、まず月に一度でも「きょうだいだけの特別な時間」を確保してください。お出かけ、好きな夕食、二人だけの会話の時間——「あなたの存在もちゃんと見ている」という行動でのメッセージを、意識的に増やします。
そして、きょうだいに「学校に行ってくれてありがとう」と言わないこと。これは善意で言われがちですが、きょうだいに「ちゃんとしていなきゃ」というプレッシャーを与えます。きょうだいはきょうだいで、自分の人生を生きていればよく、不登校のお子さまの「埋め合わせ」をする必要はありません。
不登校のお子さまについての説明も、年齢に応じて。小さなきょうだいなら「お兄ちゃん(お姉ちゃん)は今、心が疲れていてお休み中だよ」程度で十分。中学生以上のきょうだいには、「学校に行きづらい時期があって、休んでいる。あなたがどう思うか、いつでも話してね」と、対話の窓口を開いておきます。
夫婦・祖父母との温度差
不登校をめぐって、夫婦間で温度差が生まれることは、現場でしばしば聞きます。「お母さんが甘やかすから直らない」「お父さんが厳しすぎてプレッシャーを与えている」——どちらが正しいということではなく、方針の不一致そのものが本人のストレスを増やします。
夫婦で揃えておきたい最低限の方針は、次の3つ。「学校復帰を急がない」「将来の話で追い詰めない」「専門家に繋がる」。この3つだけ揃えば、細かい対応に違いがあっても、本人の混乱は最小限です。
祖父母世代との温度差も大きいです。「私たちの時代はみんな学校に行ったよ」「甘やかさないで」と言われると、ご家族はさらに追い詰められます。祖父母には、「現代の不登校は20万人以上いる」「学校以外の学びの選択肢が増えている」「専門家と一緒に進めている」と、データと方針を伝えて、お願いベースで協力を求めてください。
理解が得られないときは、無理に説得せず、祖父母と本人を会わせる時間を短くする・別室で過ごしてもらう、など物理的な工夫で乗り切ることも選択肢です。
親自身のセルフケア
不登校のお子さまを支えるご家族は、想像以上に消耗します。先の見えない不安、社会からのプレッシャー、本人とのぶつかり合い、夫婦の温度差、きょうだいへの罪悪感——これらが何年も続くと、ご家族自身のメンタルが先に倒れます。
セルフケアの基本は、「睡眠を守る」「同じ立場の親とつながる」「カウンセリングを使う」「外の世界を切らない」の4つ。中でも「同じ立場の親とつながる」は、孤立感を最も和らげる方法です。地域の不登校の親の会、オンラインのコミュニティ、SNSのアカウント——「自分だけじゃない」と感じる場所を、複数持ってください。
深夜に不安が強くなる方は、24時間対応の電話相談やチャット相談を予め知っておくと安心です。「深夜の不安を24時間相談できる窓口」もご参考に。読書の余裕がないときは、耳で聴く育児書を家事や移動中に流すという方法もあります。
ご家族にお伝えしたいこと
- 「行きたくない」の下に「行きたい気持ち」が眠っていることが多い
- 未来の話より今日の話を増やす
- 「学校復帰」を目標にしない(結果としてそうなることもある)
- フリースクール・通信制・適応指導教室など多様な道がある
- 親自身も休息と相談先を確保する
- 長期戦に備える(数ヶ月〜数年単位の覚悟)
- 身体症状を「サボり」と決めつけない
- ゲーム・スマホは「結果」であって「原因」ではないことが多い
受診・相談の目安
- 不登校が1ヶ月以上続く
- 身体症状(頭痛・腹痛・睡眠障害)が伴う
- 強い抑うつ・不安が見える
- 「消えたい」「生きてる意味がない」の発言
- 家族関係が悪化している
- 家にこもりきりで誰とも会わない状態が続いている
- 自傷行為が見られる
該当があれば児童精神科・小児科・スクールカウンセラーへ。地域の教育センター、フリースクール、適応指導教室なども、医療と並行して活用できる選択肢です。
初診の予約は1〜3ヶ月待ちが多いので、「まだ大丈夫」と思える段階で予約だけ取っておくのが現実的です。ご家族だけの相談から始められる医療機関も多いので、本人が嫌がる場合でも諦めないでください。
入院を考えるタイミング
不登校が長期化して、家庭での対応が限界に近づいたとき、児童精神科の入院を検討する場面があります。判断の目安は次のようなものです。
- 家庭内で家族との関係が悪化し、対話が成立しない
- 本人の生活リズムが大きく崩れている(昼夜逆転、食事の乱れ)
- 抑うつ・不安が強く、希死念慮が混ざる
- 自傷行為が出始めた
- 家族のメンタルが限界に近い
- 家庭外の人との接触が完全に絶たれている
入院は「家庭の失敗」ではなく、「家庭の機能を一旦休ませて、再構築するための場」です。Fさんのケースのように、入院を機に母娘の関係が修復し、退院後に新しい道が開けることは、現場でしばしば見てきました。
入院を勧められたとき、ご家族には複雑な感情が湧きます。「子どもを病院に置いていくのは可哀想」「親として失格な気がする」「世間体が悪い」——これらは自然な感情ですが、入院は「親の責任を肩代わりするもの」ではなく、「家族全体のリセットの場」と考えてみてください。実際、入院期間中にご家族が休めて、外来通院のリズムを整え直し、退院後の生活設計を見直す時間として、非常に意義深い経験になることが多いです。
入院は児童精神科の専門病棟が望ましいですが、地域によっては大人と一緒の病棟しかないこともあります。事前に主治医と相談し、可能な範囲で本人に合う環境を選んでください。短期入院から始まることが多く、いきなり数ヶ月の長期入院になるわけではありません。
自宅学習の組み立て方
不登校期の学習の遅れは、多くのご家族が心配される点です。ただ、長期的に見ると、「学校に行っていた友達」と「行っていなかった本人」の学力差は、本人がやる気になれば数ヶ月で取り戻せることが多いです。ここでは、無理のない自宅学習の組み立て方をお伝えします。
最低ラインの学習量——本人がしんどい時期は、1日30分でも、週に2〜3日でも構いません。「ゼロにしない」が最優先。学習習慣そのものが断絶すると、再開のハードルが高くなります。
科目の選び方——本人が得意な科目、好きな科目から。「全科目バランスよく」ではなく、「楽しめる科目で勉強の感覚を取り戻す」優先。読書、漫画、ドキュメンタリー動画、図鑑——「学習」の範囲を広く取って、本人の興味を活かしてください。
教材の選び方——学校のドリルが苦痛なら、市販の参考書、タブレット学習(スタディサプリ、すらら、進研ゼミなど)、YouTube教育チャンネル、家庭教師——本人が嫌悪感を持たない教材を選びます。マンツーマンが向くお子さま向けには、家庭教師サービスも有効です。「家庭教師のグッド」は不登校・発達特性のあるお子さまに対応しています。
進捗管理——「今日はこれだけ進んだ」「先月よりこれだけできるようになった」と、小さな成果を可視化します。学校のテストで競うのではなく、本人比でどれだけ伸びているかに焦点を当てます。学校の同級生が中学受験勉強や高校受験勉強で頑張っている話を見聞きすると、ご家族が焦りますが、その焦りを本人にぶつけないようにしてください。本人のペースは本人のもの。比較はストレスを増やすだけです。
親の言葉かけ——NGとOKの具体例
不登校のお子さまへの言葉かけで、避けたい表現と推奨する表現を、対比でご紹介します。「同じ意図でも、表現で結果が変わる」ことを、現場で何度も実感しています。
NG:「明日は行ける?」
毎日聞かれると、本人にとって登校が「義務」「責任」になり、苦痛が増します。OK:「今日は何して過ごす?」——今日の話に焦点を当てる。明日のことは明日考える。
NG:「みんな行ってるよ」
他の子と比較されると、本人の劣等感が深まります。OK:「あなたなりのペースでいいよ」——本人を本人として認める。
NG:「将来どうするの?」
将来の不安を煽る言葉は、本人の今を更に苦しくします。OK:「今、どんなことが気になってる?」——今の感情に寄り添う。
NG:「親としては悲しいよ」
親の感情を子どもに背負わせる言葉。本人の罪悪感を深めます。OK:「お母さん(お父さん)の感情はお母さんで処理するから、あなたは自分の感情に集中していいよ」——感情の境界線を引く。
NG:「学校行ってない時間で何かしなさい」
休んでいる時間まで「何か役立つこと」を求められると、休めません。OK:「今日はゆっくりしていいよ」——休む権利を保障する。
NG:「あなたが行けば家族みんなが楽になるのに」
本人を家族全体の重荷扱いする言葉。本人の存在価値を傷つけます。OK:「あなたがいてくれるだけで、ありがたいよ」——存在そのものを肯定する。
NG:「お父さん(お母さん)が困ってるよ」
夫婦間の対立を子どもに使わせない。本人を中立地帯に置く。OK:「私たちは一緒に考えているよ」——家族の連帯を伝える。
これらの言葉かけは、毎日のコミュニケーションの中で何度も使われます。意識的に置き換えていくことで、本人にとっての家の空気が変わります。1日や2日では効果が見えなくても、数週間〜数ヶ月続けると、本人の表情が変わってくることが多いです。
もちろん、毎日100%実践するのは現実的ではありません。疲れていて、つい昔の言葉が出てしまう日もあります。それは当たり前のこと。「翌日また、新しい関わり方を選び直せばいい」——これが、長期戦を続けるコツです。完璧主義を手放して、「毎日70点で続ける」ことを目指してください。
「親が変わると子が変わる」現場での実感
不登校の現場で何度も見てきた現象があります。「親の関わり方が変わると、本人の様子も変わる」——これは、ある種の臨床的な真実です。
Fさんのケースでも、お母さまが「学校復帰を急がない」「将来の話で追い詰めない」「責めない」と関わりを変えた数週間後から、本人の表情が変わり始めました。それまで自室から出てこなかった本人が、リビングで一緒に食事を取るようになり、テレビを一緒に見るようになり、徐々に外に出る時間が増えていきました。
これは「親のせいで不登校になった」という話ではありません。「親の関わりが本人の状態に大きな影響を与える」という当たり前の事実を、改めて確認するエピソードです。お子さまの不登校に直面したご家族が、最初に取り組めるのは「自分の関わり方を見直すこと」。これだけで、何かが動き始めることが、本当によくあります。
逆に言うと、ご家族が変わらないまま本人だけ変わることを期待するのは、現実的ではありません。本人だけ何かさせる、本人だけ何かに通わせる——という発想ではなく、「家族全体で関わり方を組み替える」という発想に立てたとき、回復が動き出します。
「家族が変わる」と聞くと大ごとに感じますが、実際にはほんの小さな変化からで十分です。「明日は行ける?」と毎日聞いていたのを週に一度に減らす、「将来どうするの?」を「今日のごはん何がいい?」に置き換える、寝る前に「お疲れさま」とだけ声をかける——こうした「ほんの一センチの変化」が積み重なると、家庭の空気が変わります。
家庭の空気が変わると、本人にとって家がストレスの場ではなく、回復の場になります。家でエネルギーを回復できるようになると、外に向かう力も少しずつ戻ってきます。「家を安全基地にする」——これが、現場で何度も確認してきた、不登校ケアの最も基本的な原則です。
5年・10年スパンで見た不登校経験者の歩み
不登校期にあるご家族にとって、最大の希望になるのが「先輩の歩み」です。何年か前に不登校だったお子さまが、今どうしているか——現場でフォローしてきた範囲で、典型的なパターンをお伝えします。
もちろん、お一人お一人の歩みは個別ですし、簡単に一般化できるものではありません。それでも、「不登校の先に何もない」のではなく、「不登校を経た先に、それぞれの人生が広がっている」ことは、現場の事実です。
パターン1:通信制高校→大学進学→就職——中学生で不登校になり、通信制高校に進学。スクーリングを最小限に抑えながら卒業し、大学に進学。大学では自分のペースで通学し、卒業後は一般企業に就職する、という流れ。Fさんはこのパターンに近そうです。
パターン2:高校中退→高卒認定→大学・専門学校——高校に入学したものの中退。高卒認定試験を取得して、大学や専門学校に進む。「学校というシステム」が合わなかった人が、自分に合う学びを見つけて開花するパターン。
パターン3:就労支援→アルバイト→正社員——進学を選ばず、若者サポートステーション、就労移行支援、職業訓練校などを使って、就労に向かうパターン。発達特性のある方の中には、就労支援を通じて自分に合う職場と巡り合うケースも多いです。
パターン4:起業・フリーランス——組織で働くのが苦手だった人が、自分の得意分野で起業したり、フリーランスとして働いたりするケース。プログラミング、デザイン、執筆、動画制作——リモートワーク主体の仕事は、不登校経験者にも開かれています。
パターン5:時間をかけて学び直す——20代、30代でようやく自分のペースを取り戻し、社会人として動き始めるパターン。「みんなと同じスピードで進むこと」を諦めると、自分のペースが見えてくることがあります。
大事なのは、「みんなと同じ歩みでなくていい」「人生は20代で決まらない」という長期的な視点を、ご家族が持っておくこと。10代の数年が、人生全体の中ではほんの一部であり、不登校経験は決して人生の終わりではありません。むしろ、「自分のペースを大切にする力」「他人と違うことへの耐性」「弱さに共感する力」——不登校を経験したからこそ育つ強みもあります。
現代の社会は、20年前と比べて、不登校経験者にも開かれた仕組みが整ってきました。リモートワーク、副業の許容、多様な雇用形態、起業のハードルの低下、SNSを通じた発信——「組織で毎日9時5時で働く」だけが選択肢ではなくなっています。お子さまが大人になる頃には、さらに選択肢が広がっているはずです。「今の枠組み」で将来を決めつけず、本人の特性に合う未来を、長い目で見据えてください。
自己肯定感の修復に向けて
不登校期に最も傷つきやすいのが、本人の自己肯定感です。「自分はダメだ」「友達ができない」「親に迷惑をかけている」「将来がない」——これらの自己否定が、回復をさらに難しくします。
家庭でできる自己肯定感の修復は、地味で長期的な取り組みです。即効性のある特効薬はありませんが、いくつかの基本姿勢があります。
1:「結果」ではなく「存在」を肯定する——「○○ができたからすごい」ではなく、「あなたがいてくれてうれしい」「今日も顔を見られてよかった」——条件のない肯定の言葉を増やします。
2:小さな「できた」を一緒に喜ぶ——「朝起きられた」「ご飯を食べられた」「お風呂に入れた」——大人にとっては当たり前に思えることでも、本人にとっては大きな一歩です。「すごいね」ではなく「お疲れさま」「えらいね」と労う言葉で。
3:得意を見つけて伸ばす——本人が好きなこと、得意なことに時間を使えるようにする。絵を描く、ゲームを極める、本を読む、料理を作る——「学校的な評価」とは別の軸で、自分が輝ける領域を持つことが、自己肯定感の柱になります。
4:家族以外の誰かとの関係を持つ——フリースクールのスタッフ、家庭教師、習い事の先生、ペット、推しのアイドル——「家族以外に、自分を肯定してくれる存在」が一人でもいると、孤立感が大きく和らぎます。
5:本人の「やってみたい」を尊重する——本人が「これをやってみたい」と言ったら、たとえ親から見て無謀でも、まず受け止める。「いいね、応援するよ」と一度肯定してから、現実的な調整を一緒に考える。「やる前から否定される経験」が、本人の意欲を最も削ります。
6:失敗しても責めない——フリースクールに通い始めたけれど続かなかった、習い事を始めたけれど数回でやめた、外出する予定だったけれど結局家を出られなかった——こうした「失敗」が続くのが回復期の常です。そのたびに責めると、次のチャレンジが怖くなります。「やってみたこと自体が立派」「次はやり方を変えてみよう」と、再挑戦を支える姿勢が大切です。
まとめ|「行けない」の向こうに、本当の願いがある
Fさんが教えてくれたのは、「行きたくない」の表面の言葉の下に、本人にしか分からない「行きたい」が眠っていることがあるという事実でした。
不登校のお子さまをご家族が支えるとき、表面の言葉だけで判断せず、その下にある「本当に望んでいること」「本人が苦しんでいること」に耳を澄ませる姿勢が大切です。
そのためには、家族だけで抱え込まず、専門家・学校・地域の支援を上手に使っていきましょう。回復には時間がかかりますが、必ず本人なりの道は見えてきます。「学校に戻る」を一旦脇に置いて、本人と一緒に「今日を穏やかに過ごす」「明日も穏やかに過ごせる」ことを目指す——その積み重ねが、いずれ本人の力で道を選ぶ瞬間につながっていきます。
Fさんが入院前に書いていた日記の最後の方に、こんな言葉があったと、退院後にお母さまが教えてくれました。「私は学校に行けない。でも、生きていたい。生きていれば、いつか自分のペースで歩ける日が来るかもしれない」。「行けない」と「生きていたい」が、本人の中で両立していた——この事実を、ご家族が信じ続けられるかどうかが、長期戦の鍵だと、私は思っています。
もし今、ご家庭で本人と向き合うのが辛い時期にあるなら、まずはご家族自身のケアから始めてください。配偶者と話す、同じ立場の親の会に行く、カウンセリングを受ける、深夜に話せる窓口を確保する——どれか一つでも始められれば、何かが動き始めます。本人を変える前に、ご家族の余裕を取り戻すこと。それが、結果として本人の回復への最短ルートになることが、現場で繰り返し見てきた事実です。
同じ状況のご家族へ伝えたい3つのこと
①「行けない」の向こうにある「願い」を見る
「学校に行けない」という現象だけを見ていると、「どうやって行かせるか」が課題になります。でも、「行けない」の向こうに「本当はこうしたい」「こうなりたい」という願いが隠れていることが多い。「行けない」を責めるのではなく、「本人が本当に望んでいること」に耳を傾ける姿勢が、本人の回復を支えます。本人もまだ言葉にできていないかもしれません。だからこそ、ご家族の方が先に「行けない自分も含めて、ここにいていい」というメッセージを発し続けることが、本人が自分の願いを言葉にする土台になります。
②「学校復帰」を唯一のゴールにしない
不登校が長期化するほど、「学校に戻す」ことを唯一のゴールにすると、本人も家族も追い詰められます。フリースクール、通信制、自宅学習、進路転換、選択肢はいくつもあります。「学校に戻る」ではなく「本人が納得して進める道を見つける」ことを、ゴールに据えると、見えてくる景色が変わります。「学校に戻れた子」だけが「成功」ではありません。「自分に合う道を見つけた子」もまた、立派な成功です。
③長期戦に備える
不登校の回復には、数ヶ月から数年かかることが普通です。「来週には学校に戻る」と短期で期待しないこと。「親が無理せず暮らせる家庭環境」を確保しながら、ゆっくりと本人のペースに付き合う発想が、長期戦を続ける鍵です。長期戦だからこそ、ご家族自身のセルフケアと、外部のサポート(同じ立場の親の会、医療機関、教育相談、フリースクール、家庭教師など)を上手に使ってください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 何年も学校に行けない
「○年で復帰しなきゃ」というラインはありません。本人のペースを尊重し、フリースクール・通信制・自宅学習など、別の学びの場で過ごす時期があっても大丈夫です。「学校に戻る」を目標にしていると焦りが募りますが、「本人に合う学びの場を見つける」を目標にすると、選択肢が広がります。
Q2. 受験や進路は?
不登校期があっても、高校・大学・専門学校への進学は可能です。通信制高校、定時制高校、サポート校など、不登校経験者に合う選択肢が多くあります。詳細は「通信制高校」記事もご参照ください。「みんなと同じ進路」を強要しないことが、本人の未来を広げます。
Q3. 親も限界の時
不登校の長期化は、親のメンタルも消耗させます。「親が倒れない」ことを優先して、配偶者・外部サービス・心療内科を遠慮なく使ってください。同じ立場の親の会に参加するのも、孤立感を減らす方法です。「自分のケアは子どもへの投資」と捉え直すと、セルフケアに罪悪感を持たずに済みます。
Q4. ゲームばかりで心配
多くの場合、ゲームは「不登校の結果」であって「原因」ではありません。取り上げると、本人の唯一の楽しみと社会との接点を同時に奪うことになります。「禁止」より「最低限のルール化」を、本人と一緒に決めてください。深刻に依存的になっている場合は、ゲーム依存の専門外来へ。
Q5. 朝起きられない、頭痛・腹痛がある
「サボり」ではない可能性が高いです。起立性調節障害、心身症、睡眠障害など、医学的な評価が必要なケースが多いので、まず小児科で診てもらってください。痛みは本物、しんどさは本物——その前提で、本人を疑わないことが信頼関係の基盤です。
Q6. 周りの親に言いづらい
周りの親に「うちの子、不登校で」と打ち明けるのは、現実的にはハードルが高いものです。すべての人に伝える必要はありません。理解してくれそうな友人、同じ立場の親の会、オンラインの匿名コミュニティなど、「安全に話せる場」を選んで使ってください。職場や近所には「事情があって学校を休みがち」程度の伝え方でも十分です。
Q7. 父親と母親の方針が違う
夫婦間の温度差は、現場でよく聞く悩みです。最低限「学校復帰を急がない」「将来の話で追い詰めない」「専門家に繋がる」の3点だけ揃えれば、細かい違いがあっても大丈夫。月に一度は、夫婦で「今月どうだったか」を話す時間を、本人がいないところで持ってください。
Q8. きょうだいへの影響は?
家族の関心が不登校のお子さまに集中しやすく、きょうだいが「自分は無視されている」と感じることがあります。月に一度の「きょうだいだけの時間」を確保し、きょうだいの存在もちゃんと見ているとメッセージを送ってください。きょうだいに「学校に行ってくれてありがとう」と言うのは、プレッシャーになるので避けます。
緊急連絡先
不登校の苦しさが極まり、本人が「死にたい」「消えたい」と訴えるとき、自傷が始まったとき、ご家族のメンタルも限界に近づいたとき——以下の窓口を活用してください。
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間、無料)
- いのちの電話:0570-783-556(10〜22時)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
- チャイルドライン:0120-99-7777(18歳までの子ども向け)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310
- あなたのいばしょチャット相談:webサイトから24時間チャット
- 不登校新聞・親の会の情報:自治体ホームページや「不登校 親の会 + お住まいの地域名」で検索
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著者プロフィール
星野レン(ほしの れん)
看護師歴8年、うち児童思春期精神科の病棟で5年勤務。不登校、発達障害、思春期のメンタル不調を抱えるお子さまとご家族のケアに従事。現場で得た知見を、家庭で応用できる形で発信しています。本記事のような体験談は、特定のお子さまの単独エピソードではなく、現場で繰り返し出会ったパターンを再構成した「典型像」として描いています。ご家族が「うちの状況に重なる」「このセリフ、聞いたことがある」と感じる部分があれば、書いた意味があったと感じます。
免責事項
本記事は児童思春期精神科での臨床経験をもとにした体験談で、特定のお子さま・ご家族の事例を直接記したものではありません。複数の現場経験を再構成し、本人および関係者が特定できない形に配慮して執筆しています。医療的な診断・治療方針を示すものではありません。お子さまの状態に応じた最適な対応は、必ず主治医・専門家とご相談の上で決定してください。本記事の内容は一般的な情報であり、個別の症例に対する医療的アドバイスを構成するものではありません。緊急性のある状況(希死念慮、自傷など)には、必ず医療機関や緊急連絡先をご活用ください。


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