この記事の要点
- 1年半学校に行けなかった中学生との関わりの記録
- 「学校に行きたくない」ではなかった、本当の願い
- 不登校には心理的な段階があり、急かすと戻る
- 母娘が再会した面会の日に起きた変化
- 登校を目標にしない関わりが回復につながった
これは、児童思春期精神科の病棟で出会った、ある中学生のお子さまを通して教えてもらった話です。本人とご家族の特定を避けるため、年齢や性別、家庭背景の細部は変えてあります。また、特定のお子さまの単独エピソードではなく、現場で繰り返し出会った複数のケースを再構成した「典型像」として描いています。
今日お伝えするのは、1年半以上学校に行けず、家で母親とぶつかり続けていたFさん(仮)と過ごした時間のことです。「学校に行きたくない」という言葉の下に、本人すら気づきにくい「行きたい願い」が眠っていた——これが、Fさんから教わった大きな気づきでした。
- 「もう何も話したくない」の入院初日
- 「学校に行きたくない」じゃなかった
- 不登校の心理的な段階
- 母娘で再会した、面会の日
- 看護師として、私が大切にしたこと
- 不登校の背景にある「見えにくい困りごと」
- 身体症状との関係——「サボり」と決めつけないで
- 学校との連携——担任とどう付き合うか
- 合理的配慮——学校にお願いできること
- ゲーム・スマホ依存との関係
- 退院後のFさんの選択
- 学校以外の「学びの場」を知っておく
- 進路設計——「学校に行けない=進路がない」ではない
- 自宅学習の組み立て方
- きょうだい・夫婦・祖父母との関係
- 親自身のセルフケア
- 受診・相談の目安と、入院を考えるタイミング
- 親の言葉かけ——NGとOKの具体例
- 「親が変わると子が変わる」現場での実感
- 5年・10年スパンで見た、その後の歩み
- 自己肯定感の修復に向けて
- よくある質問
- まとめ|「行けない」の向こうに、本当の願いがある
- 緊急連絡先
- 参考にした公的情報・一次情報
- 関連記事
- 著者プロフィール
- 免責事項
「もう何も話したくない」の入院初日
Fさんが入院した初日、お母様は「話を聞いてくれる人なら誰でもいいから連れてきました」と疲れ切った表情で仰いました。Fさんはぐったりとうなだれ、初日は私の挨拶にもほとんど反応しませんでした。視線は床に落ち、こちらを見ようともしない。それでも、髪は染めず、ピアスもせず、おそらく入院当日まで母娘で揉めながらも準備してきたであろう、清潔な制服を着てきていました。
申し送りでは「中学2年から不登校が続き、最近は家でも自室にこもり、食事も部屋に運んでもらう生活。母親と顔を合わせると衝突する」とのこと。入院前の半年間は、家の中で母娘がほとんど会話しない日が続いていたそうです。お母さまは「もう何をしてあげればいいのか、分からない」と、面談の最初に涙を流されました。
不登校の始まりは中2の春。クラス替えで仲の良かった友達と離れ、新しいクラスに馴染めず、徐々に休みが増えた。学校に行けない日に「ごめん、頭痛い」と伝えると、「ちゃんと薬飲んだ?」「明日は行く?」と心配されるたびに、「自分はダメだ」という気持ちが膨らんでいった——本人にとっては、家こそが「責められる場所」になっていきました。
「学校に行きたくない」じゃなかった
Fさんの場合は、担当して2週間ほど経った頃、少しずつ言葉を発してくれるようになりました。私が一番驚いたのは、こんな言葉でした。
「学校に行きたくないんじゃない。本当は、行きたい。でも、行けない自分がもう恥ずかしくて、教室に戻る方法が分からない」
不登校が長引いた子の多くが、口にする言葉です。「行きたくない」のではなく、「行きたい気持ちと、行けない現実の間で苦しんでいる」。
Fさんはさらに話してくれました。「最初は『行きたくない』だった。でも、半年経った頃から、『行けない』に変わった。1年経つと、『行ったところで、もうみんな知らない人になってる』って思って、『行く意味も分からない』になった。今は、考えるだけで胸が苦しくなる」。
最初の「行きたくない」は感情の話、半年後の「行けない」は身体の話、1年後の「行く意味が分からない」はアイデンティティの話——時間が経つほど、根の深い問題になっていきます。だからこそ、不登校の初期に「無理して行かせない」だけでなく、「行けない期間に何をして過ごすか」「本人の自尊心をどう守るか」を家族と一緒に考えていくことが、長期化を防ぐ鍵になります。
不登校の心理的な段階
不登校の経過には、ある程度共通した段階があります。お子さまが今どの段階にいるかを理解すると、ご家族の対応が変わります。
- 第1段階:前駆期——朝の体調不良が増える、夜眠れない、学校の話題を避ける。まだ「行きたくない」とは言わず、身体症状で訴えることが多い時期。身体症状を「仮病」と決めつけないことが大切で、無理に登校を勧めない週があってもいい。この対応で初期に回復できるケースもあります
- 第2段階:混乱期——明確に「行きたくない」と言い始め、欠席が増える。本人も混乱し、家族の不安も高まる時期。大事なのは「無理に行かせない」と「家を居心地のいい場所にする」の2点。学校の話は週に一度、本人が話したいときだけ、というルールを決めるのも一案です
- 第3段階:安定期——欠席が日常になり、本人も家族も慣れてくる。「家ではエネルギーが回復するけれど、外に出るとまだしんどい」状態。学校復帰を一旦ゴールから外し、生活リズムの維持と社会との細い接続に集中します。家族以外の人と週に一度でもつながる経験を、細々と維持してください
- 第4段階:固着期——1年以上続き、昼夜逆転、自室にこもる時間が増える。Fさんがこの段階に近かったと思われます。この段階で大事なのは「環境を変える」こと。入院、施設、転居など、何らかの環境変化が回復のきっかけになることがあります
- 第5段階:再出発期——本人が「何かをしてみたい」と思える時期。家族のサポートは「本人の選択を尊重する」に尽きます。親が「もっと頑張れる」と背中を押すと、せっかくの自発性が壊れることがあります
母娘で再会した、面会の日
入院後しばらく、Fさんは母親との面会を拒んでいました。「会いたい気持ちもあるけど、何を話していいか分からない」「お母さんに『学校どうする』って聞かれそうで怖い」——本人の言葉でした。
3週間目に初めて行われた面会。お母様は事前に心理士から「アドバイスや叱責はしないで」「本人の話をただ聞くだけ」と指導を受けていました。「どうして学校に行けないの」「これからどうするの」を言わない面会。代わりに、Fさんが好きだったお菓子、退院後の食事のリクエスト、テレビで見たニュース——「学校以外の話」だけをする面会です。
15分ほどの短い面会の終わり際、Fさんが小さく「ごめんね」と言いました。お母様は目を真っ赤にして「謝らなくていいの。お母さんもごめんね」と返しました。私は廊下からそっと見守りながら、心の中で泣いていました。1年半ぶりに、ようやく母娘が「責めずに会えた」瞬間でした。
その後の面会も、ルールは同じ。「学校・進路・将来の話はしない、それ以外の話だけ」。最初は不自然に感じられたこのルールが、母娘の関係を少しずつ修復していきました。Fさんは「お母さんが学校の話をしなくなって、初めて家のことを思い出せた」と話していました。
看護師として、私が大切にしたこと
①「学校に戻すこと」を目標にしない
不登校の入院で、私たち看護師が目標にすべきは「学校復帰」ではありません。それは結果として起こることであり、目指すのは「生活リズムの回復」「他者との関わりの回復」「自己肯定感の修復」。
Fさんの場合も、まず病棟内で看護師・他患者・心理士・OTスタッフと小さく関わることから始めました。最初は他患者と挨拶を交わすだけだったFさんが、徐々にOT(作業療法)の時間に他の入院中の中学生と工作をするようになり、夕食を一緒に食べる時間が苦痛じゃなくなり——という、小さなステップを積み重ねていきました。
②未来の話より、今日の話
「これからどうするの」「進路は」という問いは、本人を追い詰めます。私は「今日は何が食べたい?」「この本面白そう」と、今日の話・今この瞬間の話を意識的に増やしました。
今日が穏やかに過ぎることが積み重なって、初めて「未来」を考える余裕が生まれます。順序を間違えると、本人は閉じます。「将来どうする」を毎日聞かれる家と、「今日のごはん何にしよう」を毎日聞ける家では、本人にとっての居心地が大きく違います。
③親子の関係修復のサポート
不登校が長引いた家庭では、親子の関係そのものが疲弊していることが多いです。お母様にも個別に時間を取り、ご自身の感情の整理、子育てへの罪悪感、夫婦の温度差などを話していただきました。
お母さま自身、長年「私がしっかりしなきゃ」と一人で抱えてこられた方でした。「自分の感情を出していい場所がなかった」と話されました。退院前のミーティングでは、お父さまにも参加してもらい、「お母さんが一人で抱えない仕組み」を家族で作る話し合いをしました。
不登校の背景にある「見えにくい困りごと」
- 発達特性(ASD・ADHD・LD)——「集団生活がしんどい」「先生の話が頭に入らない」「字を読むのに極端に時間がかかる」。診断には児童精神科などで発達検査(WISC、KABC-Ⅱなど)を受けます。結果に基づいて、学校での合理的配慮、家庭での関わり方、必要なら療育・薬物療法など具体的な支援策が見えてきます
- HSC(ひといちばい敏感な子)——診断名ではなく気質の概念。大人数の教室、給食のにおい、先生の大きな声——刺激の総量で疲れ切ってしまうパターン。「外で頑張った分、家で完全に休める環境」を整えることが対応の基本です
- うつ病・不安症——思春期のうつは「悲しい」より「イライラ」「眠れない」「やる気が出ない」「身体が重い」として現れます。本人が「ただの怠けだと思っていた」と話すケースが非常に多い。「ただの怠けだと思ってた」と泣いたお母さん|うつ病だった高校生Iさんの話もあわせてご覧ください
- いじめ・人間関係のトラブル——本人に「いじめられてる?」と直接尋ねるのは避けてください。多くの本人は否定します(恥ずかしさ、報復への恐れ、家族を心配させたくない)。代わりに「学校で困ったことがあったら、いつでも話していいよ」と窓口を開いておき、本人が話したくなるタイミングを待つ。同時に担任に確認を頼んでおくのも一案です
身体症状との関係——「サボり」と決めつけないで
- 起立性調節障害(OD)——朝起きられない、立ちくらみ、午前中の不調が午後には軽快する。自律神経のバランスが崩れた状態で、中学生〜高校生の約10%が経験するとされています。小児科や循環器内科での評価と治療が必要です
- 頭痛・腹痛——特に朝、登校前に集中して出る痛み。心身症の一形態で、痛みは本物、本人もコントロールできません
- 睡眠障害——夜眠れず、朝起きられない。スマホの長時間使用と相まって、昼夜逆転が固定化することも
- 食欲不振・過食——「給食が食べられない」「家でも食事をとらない」「夜中に食べすぎる」など
これらをご家族が「気のせい」「サボり」「ずる休み」と決めつけないことが、信頼関係を保つ前提です。必要なら小児科で評価を受け、心身両面のサポートをしてください。
学校との連携——担任とどう付き合うか
連携の基本姿勢は、「責めない、情報を共有する、一緒に作戦を立てる」の3つ。「学校が悪い」というスタンスから入ると現場の先生も身構えます。「本人がしんどがっている、家でも対応に苦慮している、学校と一緒に方法を考えたい」と協力ベースで伝えると、現場が動きやすくなります。
具体的に伝えたい情報は「本人が今どんな状態か」「家庭ではどんな関わりをしているか」「医療機関にかかっていれば診断と治療方針」「学校に求める配慮」。これらをA4一枚程度にまとめて担任に渡すと共有が早いです。
担任の理解が十分でない場合は、無理に担任に頼らず、養護教諭・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター・教頭・校長と、複数のルートを確保してください。学校は組織なので、一人の先生で行き詰まっても、別の人が動いてくれることがあります。
そして、担任からの電話やプリントを「全部受け止めなきゃ」と思わないこと。電話に出るのが辛い時期は、留守電にして必要な部分だけ折り返す、メールでの連絡をお願いする、面談を月1回に絞る——というスタイルでも構いません。ご家族の心の余裕を守ることも、長期戦の重要なポイントです。
合理的配慮——学校にお願いできること
- 保健室登校・別室登校:教室に入れなくても、保健室や別室で1日過ごす。出席日数にカウントされる
- 遅刻・早退の自由化:登校できる時間帯だけ参加する
- 給食を別場所で食べる:集団給食が苦手なお子さま向け
- 特定の科目だけ参加:得意な科目だけ出る、苦手な体育や音楽は別室で過ごす
- 授業のオンライン参加:自宅からタブレットで授業を見る
- 定期テストの別室受験:教室での受験が困難なお子さま向け
- 提出物の柔軟化:締め切りの延長、宿題の量の調整
- 修学旅行・遠足の不参加:強制せず、本人の意思を尊重する
- 制服の代替:制服が苦痛なお子さまへの柔軟な対応
これらは「特別扱いを求める」のではなく、教育機会の確保のために認められている「合理的な配慮」です。文部科学省も「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知で、柔軟な対応を学校に求めています。「うちの学校はそんなのやってくれない」と感じても、お住まいの教育委員会に相談するルートもあります。
ゲーム・スマホ依存との関係
現場の見立てを共有します。多くの場合、ゲーム・スマホは「不登校の原因」ではなく「不登校の結果」として増えています。外の世界とつながる手段が極端に減った状態で、唯一残された刺激が画面の中の世界——という構造です。これを取り上げると、本人の唯一の楽しみと、唯一の社会との接点が同時になくなってしまいます。
とはいえ、生活リズムが完全に画面中心になる状態は本人にとっても望ましくありません。具体的な工夫は「禁止」ではなく「ルール化」。本人と一緒に「朝食までは触らない」「夜23時以降は触らない」「食事中は離す」など最低限のルールを決める。完璧を求めず、「100%守る」のではなく「80%守れたら良し」とするのが現実的です。
もし依存的に深刻化していて本人もコントロールできない状態なら、ゲーム依存の専門外来や、依存症対応の精神科クリニックへの相談を検討してください。
退院後のFさんの選択
Fさんは退院後、すぐに学校に戻ることはしませんでした。でも、地域のフリースクールに週2日通い始めることを選びました。同じような立場の友達ができ、自分のペースで学習を続けられる場所です。
1年後、お母様から手紙をいただきました。「あの子は通信制高校に進学しました。少しずつ、自分の道を歩いています」。手紙の終わりには、こう添えられていました。「学校に戻すことだけを考えていた頃の自分が、本人をどれほど追い詰めていたか、今ならよく分かります。あの子に合う道を、あの子のペースで——という発想に、入院を経て初めて辿り着けました」。
学校以外の「学びの場」を知っておく
- フリースクール——民間運営。「学校的なところ」から「居場所重視」まで幅があります。月額3〜5万円が相場。出席日数を学校の出席にカウントしてもらえるケースも
- 適応指導教室(教育支援センター)——自治体運営の公的な居場所。無料または低額で、学校の出席日数にカウントされます。担当の先生が学校と連携してくれます
- 放課後等デイサービス——発達特性のあるお子さま向け。受給者証が必要ですが、利用料は所得に応じた負担
- オンライン家庭教師・オンラインフリースクール——家から出るのが難しいお子さま向け。画面越しで先生や仲間とつながれます
- 通信制中学・高校——正規の教育課程として、家庭学習中心で卒業を目指せます。サポート校と組み合わせると対面指導も
- 家庭教師・個別指導塾——マンツーマンの学習支援。家庭教師のグッドなど、不登校・発達特性のお子さま向けのサービスもあります
これらを「全部見学に行く」必要はありません。ご家族が「選択肢を知っている」状態でいることが、心理的な余裕を生みます。
進路設計——「学校に行けない=進路がない」ではない
ご家族の最大の不安は「将来、進路はあるのか」だと思います。結論からお伝えすると、不登校経験者向けの進路は、想像以上に充実しています。
高校進学は、通信制・定時制・チャレンジスクール・高等専修学校など多様な選択肢があります。出席日数や内申点を重視しない、入試の形式が多様、卒業後の進路サポートも整っている——「不登校を経験したからこそ理解してくれる学校」が、今は多くあります。大学進学も、通信制大学、放送大学、海外大学のオンラインプログラムなど、開かれています。詳しくは通信制高校という選択肢もご参考に。
大事なのは「みんなと同じ進路」を強要しないこと。そして「選び直しができる」という前提も大切です。最初に選んだ高校が合わなければ転校もできるし、大学進学を1〜2年遅らせても問題ありません。「正解の道」を選ぼうとして固まるより、「やってみて違ったら変える」という柔軟性を、ご家族の側にも持っておいてください。
自宅学習の組み立て方
長期的に見ると、学力差は本人がやる気になれば数ヶ月で取り戻せることが多いです。無理のない組み立て方をお伝えします。
- 最低ラインの学習量——しんどい時期は1日30分でも、週2〜3日でも構いません。「ゼロにしない」が最優先。学習習慣そのものが断絶すると、再開のハードルが高くなります
- 科目の選び方——得意な科目、好きな科目から。読書、漫画、ドキュメンタリー動画、図鑑——「学習」の範囲を広く取って、本人の興味を活かしてください
- 教材の選び方——学校のドリルが苦痛なら、市販の参考書、タブレット学習、YouTube教育チャンネル、家庭教師など、本人が嫌悪感を持たない教材を
- 進捗管理——学校のテストで競うのではなく、本人比でどれだけ伸びているかに焦点を当てます。同級生の受験勉強の話を見聞きして焦っても、その焦りを本人にぶつけないでください
きょうだい・夫婦・祖父母との関係
きょうだいへの配慮——家庭の関心が不登校のお子さま中心になりがちで、きょうだいが「自分は無視されている」と感じることがあります。月に一度でも「きょうだいだけの特別な時間」を確保してください。そしてきょうだいに「学校に行ってくれてありがとう」と言わないこと。善意で言われがちですが、「ちゃんとしていなきゃ」というプレッシャーを与えます。説明は年齢に応じて——小さなきょうだいなら「今、心が疲れていてお休み中だよ」程度で十分です。
夫婦の温度差——「お母さんが甘やかすから直らない」「お父さんが厳しすぎる」。どちらが正しいということではなく、方針の不一致そのものが本人のストレスを増やします。揃えておきたい最低限の方針は3つ。「学校復帰を急がない」「将来の話で追い詰めない」「専門家に繋がる」。この3つだけ揃えば、細かい対応に違いがあっても本人の混乱は最小限です。
祖父母世代との温度差——「私たちの時代はみんな学校に行ったよ」と言われると、ご家族はさらに追い詰められます。「現代の不登校は20万人以上いる」「学校以外の学びの選択肢が増えている」「専門家と一緒に進めている」と、データと方針を伝えてお願いベースで協力を求めてください。理解が得られないときは、無理に説得せず会わせる時間を短くするなど物理的な工夫で乗り切ることも選択肢です。
親自身のセルフケア
先の見えない不安、社会からのプレッシャー、本人とのぶつかり合い、夫婦の温度差、きょうだいへの罪悪感——これらが何年も続くと、ご家族自身のメンタルが先に倒れます。
セルフケアの基本は「睡眠を守る」「同じ立場の親とつながる」「カウンセリングを使う」「外の世界を切らない」の4つ。中でも「同じ立場の親とつながる」は、孤立感を最も和らげる方法です。地域の不登校の親の会、オンラインのコミュニティ——「自分だけじゃない」と感じる場所を、複数持ってください。
深夜に不安が強くなる方は、24時間対応の電話相談やチャット相談を予め知っておくと安心です。読書の余裕がないときは、耳で聴く育児書を家事や移動中に流すという方法もあります。
受診・相談の目安と、入院を考えるタイミング
次のいずれかに該当すれば、児童精神科・小児科・スクールカウンセラーへ。
- 不登校が1ヶ月以上続く
- 身体症状(頭痛・腹痛・睡眠障害)が伴う
- 強い抑うつ・不安が見える
- 「消えたい」「生きてる意味がない」の発言
- 家族関係が悪化している
- 家にこもりきりで誰とも会わない状態が続いている
- 自傷行為が見られる
初診の予約は1〜3ヶ月待ちが多いので、「まだ大丈夫」と思える段階で予約だけ取っておくのが現実的です。ご家族だけの相談から始められる医療機関も多いので、本人が嫌がる場合でも諦めないでください。
家庭での対応が限界に近づいたとき、児童精神科の入院を検討する場面もあります。判断の目安は、家族との対話が成立しない/生活リズムが大きく崩れている/抑うつ・不安が強く希死念慮が混ざる/自傷行為が出始めた/家族のメンタルが限界/家庭外の人との接触が完全に絶たれているといった状態です。
入院は「家庭の失敗」ではなく、「家庭の機能を一旦休ませて、再構築するための場」です。「子どもを病院に置いていくのは可哀想」「親として失格な気がする」——これらは自然な感情ですが、入院期間中にご家族が休めて、退院後の生活設計を見直す時間として、非常に意義深い経験になることが多いです。短期入院から始まることが多く、いきなり数ヶ月の長期入院になるわけではありません。
親の言葉かけ——NGとOKの具体例
- NG:「明日は行ける?」/毎日聞かれると登校が「義務」になり苦痛が増します → OK:「今日は何して過ごす?」
- NG:「みんな行ってるよ」/比較は劣等感を深めます → OK:「あなたなりのペースでいいよ」
- NG:「将来どうするの?」/不安を煽る言葉は今を更に苦しくします → OK:「今、どんなことが気になってる?」
- NG:「親としては悲しいよ」/親の感情を子どもに背負わせ、罪悪感を深めます → OK:「私の感情は私で処理するから、あなたは自分の感情に集中していいよ」
- NG:「学校行ってない時間で何かしなさい」/休む時間まで役立つことを求められると休めません → OK:「今日はゆっくりしていいよ」
- NG:「あなたが行けば家族みんなが楽になるのに」/本人を重荷扱いし、存在価値を傷つけます → OK:「あなたがいてくれるだけで、ありがたいよ」
- NG:「お父さん(お母さん)が困ってるよ」/夫婦間の対立に子どもを使わない → OK:「私たちは一緒に考えているよ」
もちろん、毎日100%実践するのは現実的ではありません。疲れていて、つい昔の言葉が出てしまう日もあります。それは当たり前のこと。「翌日また、新しい関わり方を選び直せばいい」——完璧主義を手放して、「毎日70点で続ける」ことを目指してください。
「親が変わると子が変わる」現場での実感
Fさんのケースでも、お母さまが「学校復帰を急がない」「将来の話で追い詰めない」「責めない」と関わりを変えた数週間後から、本人の表情が変わり始めました。それまで自室から出てこなかった本人が、リビングで一緒に食事を取るようになり、テレビを一緒に見るようになり、徐々に外に出る時間が増えていきました。
これは「親のせいで不登校になった」という話ではありません。「親の関わりが本人の状態に大きな影響を与える」という当たり前の事実を、改めて確認するエピソードです。逆に言うと、ご家族が変わらないまま本人だけ変わることを期待するのは現実的ではありません。「家族全体で関わり方を組み替える」という発想に立てたとき、回復が動き出します。
「家族が変わる」と聞くと大ごとに感じますが、実際にはほんの小さな変化で十分です。「明日は行ける?」と毎日聞いていたのを週に一度に減らす、寝る前に「お疲れさま」とだけ声をかける——こうした「ほんの一センチの変化」が積み重なると、家庭の空気が変わります。家でエネルギーを回復できるようになると、外に向かう力も少しずつ戻ってくる。「家を安全基地にする」——これが、不登校ケアの最も基本的な原則です。
5年・10年スパンで見た、その後の歩み
お一人お一人の歩みは個別で、簡単に一般化できるものではありません。それでも、「不登校の先に何もない」のではなく、「不登校を経た先に、それぞれの人生が広がっている」ことは、現場の事実です。
- 通信制高校→大学進学→就職——スクーリングを最小限に抑えながら卒業し、大学では自分のペースで通学。Fさんはこのパターンに近そうです
- 高校中退→高卒認定→大学・専門学校——「学校というシステム」が合わなかった人が、自分に合う学びを見つけて開花するパターン
- 就労支援→アルバイト→正社員——若者サポートステーション、就労移行支援、職業訓練校などを使って就労に向かう。発達特性のある方が自分に合う職場と巡り合うケースも
- 起業・フリーランス——プログラミング、デザイン、執筆、動画制作。リモートワーク主体の仕事は、不登校経験者にも開かれています
- 時間をかけて学び直す——20代、30代でようやく自分のペースを取り戻すパターン。「みんなと同じスピードで進むこと」を諦めると、自分のペースが見えてくることがあります
大事なのは、「人生は20代で決まらない」という長期的な視点をご家族が持っておくこと。10代の数年は人生全体のほんの一部です。むしろ「自分のペースを大切にする力」「他人と違うことへの耐性」「弱さに共感する力」——不登校を経験したからこそ育つ強みもあります。「今の枠組み」で将来を決めつけず、本人の特性に合う未来を、長い目で見据えてください。
自己肯定感の修復に向けて
不登校期に最も傷つきやすいのが、本人の自己肯定感です。地味で長期的な取り組みですが、いくつかの基本姿勢があります。
- 「結果」ではなく「存在」を肯定する——「○○ができたからすごい」ではなく、「あなたがいてくれてうれしい」「今日も顔を見られてよかった」
- 小さな「できた」を一緒に喜ぶ——「朝起きられた」「ご飯を食べられた」。「すごいね」ではなく「お疲れさま」「えらいね」と労う言葉で
- 得意を見つけて伸ばす——絵、ゲーム、読書、料理。「学校的な評価」とは別の軸で自分が輝ける領域を持つことが、自己肯定感の柱になります
- 家族以外の誰かとの関係を持つ——フリースクールのスタッフ、家庭教師、習い事の先生、ペット、推し。「家族以外に、自分を肯定してくれる存在」が一人でもいると孤立感が和らぎます
- 本人の「やってみたい」を尊重する——たとえ親から見て無謀でも、まず受け止める。「やる前から否定される経験」が、本人の意欲を最も削ります
- 失敗しても責めない——通い始めたけれど続かなかった、外出の予定が結局家を出られなかった。こうした「失敗」が続くのが回復期の常です。「やってみたこと自体が立派」と、再挑戦を支える姿勢を
よくある質問
Q1. 何年も学校に行けません
「○年で復帰しなきゃ」というラインはありません。「学校に戻る」を目標にしていると焦りが募りますが、「本人に合う学びの場を見つける」を目標にすると、選択肢が広がります。
Q2. 受験や進路はどうなりますか
不登校期があっても、高校・大学・専門学校への進学は可能です。通信制高校、定時制高校、サポート校など、不登校経験者に合う選択肢が多くあります。「みんなと同じ進路」を強要しないことが、本人の未来を広げます。
Q3. 親のほうが限界です
「親が倒れない」ことを優先して、配偶者・外部サービス・心療内科を遠慮なく使ってください。「自分のケアは子どもへの投資」と捉え直すと、セルフケアに罪悪感を持たずに済みます。
Q4. ゲームばかりで心配です
多くの場合、ゲームは「不登校の結果」であって「原因」ではありません。取り上げると、本人の唯一の楽しみと社会との接点を同時に奪うことになります。「禁止」より「最低限のルール化」を、本人と一緒に決めてください。
Q5. 朝起きられない、頭痛・腹痛があります
「サボり」ではない可能性が高いです。起立性調節障害、心身症、睡眠障害など医学的な評価が必要なケースが多いので、まず小児科で診てもらってください。痛みは本物、しんどさは本物——その前提で、本人を疑わないことが信頼関係の基盤です。
Q6. 周りの親に言いづらいです
すべての人に伝える必要はありません。理解してくれそうな友人、同じ立場の親の会、オンラインの匿名コミュニティなど、「安全に話せる場」を選んで使ってください。職場や近所には「事情があって学校を休みがち」程度の伝え方でも十分です。
Q7. 父親と母親の方針が違います
最低限「学校復帰を急がない」「将来の話で追い詰めない」「専門家に繋がる」の3点だけ揃えれば、細かい違いがあっても大丈夫。月に一度は、夫婦で「今月どうだったか」を話す時間を、本人がいないところで持ってください。
Q8. きょうだいへの影響が心配です
月に一度の「きょうだいだけの時間」を確保し、存在もちゃんと見ているとメッセージを送ってください。きょうだいに「学校に行ってくれてありがとう」と言うのは、プレッシャーになるので避けます。
今夜これだけ
今夜は「明日は行けそう?」と聞かないでみてください。登校を目標から外した日のほうが、子どもは自分から動き出すことがあります。
まとめ|「行けない」の向こうに、本当の願いがある
Fさんが教えてくれたのは、「行きたくない」の表面の言葉の下に、本人にしか分からない「行きたい」が眠っていることがあるという事実でした。表面の言葉だけで判断せず、その下にある「本当に望んでいること」に耳を澄ませる姿勢が大切です。
そして、「学校復帰」を唯一のゴールにしないこと。フリースクール、通信制、自宅学習、進路転換——選択肢はいくつもあります。「学校に戻れた子」だけが成功ではありません。「自分に合う道を見つけた子」もまた、立派な成功です。回復には数ヶ月から数年かかるのが普通という前提で、長期戦に備えてください。
Fさんが入院前に書いていた日記の最後の方に、こんな言葉があったと、退院後にお母さまが教えてくれました。「私は学校に行けない。でも、生きていたい。生きていれば、いつか自分のペースで歩ける日が来るかもしれない」。「行けない」と「生きていたい」が、本人の中で両立していた——この事実を、ご家族が信じ続けられるかどうかが、長期戦の鍵だと、私は思っています。
もし今、本人と向き合うのが辛い時期にあるなら、まずはご家族自身のケアから始めてください。配偶者と話す、同じ立場の親の会に行く、カウンセリングを受ける、深夜に話せる窓口を確保する——どれか一つでも始められれば、何かが動き始めます。本人を変える前に、ご家族の余裕を取り戻すこと。それが結果として本人の回復への最短ルートになることを、現場で繰り返し見てきました。
緊急連絡先
不登校の苦しさが極まり、本人が「死にたい」「消えたい」と訴えるとき、自傷が始まったとき、ご家族のメンタルも限界に近づいたとき——以下の窓口を活用してください。
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間、無料)
- いのちの電話:0570-783-556(10〜22時)/無料のフリーダイヤルは0120-783-556(毎日16〜21時、毎月10日は8時〜翌朝8時)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
- チャイルドライン:0120-99-7777(18歳までの子ども向け)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310
- あなたのいばしょチャット相談:webサイトから24時間チャット
- 不登校新聞・親の会の情報:自治体ホームページや「不登校 親の会 + お住まいの地域名」で検索
参考にした公的情報・一次情報
記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。
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著者プロフィール
星野レン(ほしの れん)
2018年4月から看護師として勤務(2か月のブランクあり)。2021年4月から児童思春期精神科病棟に携わっています。不登校、発達障害、思春期のメンタル不調を抱えるお子さまとご家族のケアに従事。現場で得た知見を、家庭で応用できる形で発信しています。本記事のような体験談は、特定のお子さまの単独エピソードではなく、現場で繰り返し出会ったパターンを再構成した「典型像」として描いています。ご家族が「うちの状況に重なる」「このセリフ、聞いたことがある」と感じる部分があれば、書いた意味があったと感じます。
免責事項
本記事は児童思春期精神科での臨床経験をもとにした体験談で、特定のお子さま・ご家族の事例を直接記したものではありません。複数の現場経験を再構成し、本人および関係者が特定できない形に配慮して執筆しています。医療的な診断・治療方針を示すものではありません。お子さまの状態に応じた最適な対応は、必ず主治医・専門家とご相談の上で決定してください。本記事の内容は一般的な情報であり、個別の症例に対する医療的アドバイスを構成するものではありません。緊急性のある状況(希死念慮、自傷など)には、必ず医療機関や緊急連絡先をご活用ください。


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