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この記事の要点
- 感情カードは「気持ちに名前をつける」練習を遊びに変える道具
- 表情・言葉・色の3要素がそろったカードが使いやすい
- 紙とペンがあれば手作りでき、一緒に作る時間も練習になる
- 夕食後や寝る前の「きもちクイズ」1日1問で習慣化できる
- 尋問・正解探し・説教の道具にしないことが最大のコツ
「今日、学校どうだった?」と聞いても「別に」しか返ってこない。何か嫌なことがあったらしいのに言葉にならず、床に寝転んで泣き叫ぶ。あるいは「お腹が痛い」「頭が痛い」という体の訴えばかりが増えていく——。子どもが自分の気持ちを言葉にできない場面は、多くのご家庭で毎日のように起きています。
こんにちは、星野レンです。看護師歴8年、うち児童思春期精神科病棟で5年以上働いており、一人の父親でもあります。病棟では、気持ちを言葉にする練習の道具として「感情カード」を日常的に使っています。特別な教材ではなく、表情のイラストや気持ちの言葉が書かれた、シンプルなカードです。
この記事では、感情カードの選び方、手作りする場合の作り方、年齢別の遊び方の実例、日常への組み込み方、そしてうまくいかないときの対処と「やってはいけない使い方」まで、家庭でそのまま試せる形でまとめます。特定の商品をすすめる記事ではありませんので、安心して読み進めてください。
気持ちを言葉にできないのは「わがまま」ではありません
まず前提からお伝えします。子どもが気持ちを言えないのは、性格の問題でも、育て方の失敗でもありません。感情を表す言葉——「くやしい」「はずかしい」「うらやましい」「がっかり」——は、放っておいて自然に身につくものではなく、周りの大人とのやり取りの中で少しずつ手に入れていく「道具」だからです。
道具を持っていない子は、気持ちを別の形で表現するしかありません。それが癇癪であり、物に当たる行動であり、腹痛や頭痛といった身体症状です。つまり荒れた行動は「言葉の代わりの表現」であることが多いのです。癇癪への具体的な対応は癇癪(かんしゃく)を起こす子どもへの対応でも詳しく書いていますので、あわせて参考にしてください。
だとすれば、やるべきことは「泣かないの」「ちゃんと言いなさい」と表現の出口をふさぐことではなく、言葉という道具を渡すことです。その道具渡しを、勉強ではなく遊びとしてできるのが感情カードです。
感情カードとは|気持ちに名前をつけるための道具
感情カードとは、「うれしい」「かなしい」「おこってる」「びっくり」といった気持ちの名前と、それに対応する表情のイラストが描かれたカードのことです。市販の教材として売られているものもあれば、支援の現場で手作りされているものも多く、紙とペンさえあれば家庭でも作れます。
使い方の核心はとても単純で、「いま自分の中にあるモヤモヤに、いちばん近いカードを選ぶ」だけです。ゼロから「気持ちを言葉にしなさい」と言われると大人でも難しいものですが、目の前に選択肢が並んでいれば「これかな」と指をさすだけで済みます。この「話す」を「選ぶ」に変換できることが、カードの最大の強みです。
病棟でも、面接室で「今日の気分は?」と聞くより、カードを机に広げて「近いのどれ?」と聞くほうが、はるかに多くの子が答えてくれます。言葉にする前の段階に「選ぶ」というステップを一段はさむ。それだけで、気持ちの表現はぐっと楽になります。
カードを選ぶときの3つのポイント|表情・言葉・色
市販品を選ぶ場合も手作りする場合も、押さえたい要素は3つです。それは「表情イラスト」「気持ちの言葉」「色」です。この3つがそろっていると、発達段階や得意な認知の仕方が違う子どもでも、どれか一つを手がかりに選べます。
表情イラストはシンプルなものを
表情は、目と眉と口だけで気持ちが分かるくらいシンプルな絵が向いています。描き込みの多いキャラクター絵だと、子どもの注意が絵柄そのものに向いてしまい、肝心の「表情から気持ちを読む」練習になりにくいことがあります。丸い顔に眉・目・口だけ、で十分です。
言葉は子どもの生活語で
「憤怒」「憂鬱」のような硬い言葉ではなく、「ムカムカ」「もやもや」「ドキドキ」など、子どもが日常で使う言葉やオノマトペが書かれているものを選びます。ひらがな表記かどうかも年齢によっては大事な確認ポイントです。言葉が難しいと、カード自体が「勉強っぽいもの」になって敬遠されます。
色は気持ちの強さの手がかりになる
怒りは赤、悲しみは青、うれしさは黄色——というように、感情ごとに色分けされていると、まだ言葉が育っていない子でも「今日は赤っぽい」と色で気持ちを伝えられます。言葉より先に色でつかめる子は実際に多く、病棟でも「何色の気分?」という聞き方はよく使います。
手作りする場合の作り方|紙とペンで今夜作れます
感情カードは、買わなくても作れます。むしろ「子どもと一緒に作る工程」そのものが、感情の言葉を増やす練習になるため、手作りには手作りの良さがあります。材料は厚紙(名刺サイズくらいに切ったもの)と色ペンだけです。
- 厚紙を名刺〜トランプ大に切る(最初は8枚程度で十分)
- 片面に気持ちの言葉を書く(うれしい・かなしい・おこってる・こわい・びっくり・つかれた・はずかしい・わからない)
- もう片面か言葉の横に、その気持ちの顔を描く
- 感情ごとに枠の色を変える(怒り=赤、悲しみ=青など)
ポイントは、最初から何十種類も作らないことです。基本の8枚程度から始めて、生活の中で「この気持ち、カードにないね。作ろうか」と増やしていくほうが、子どもにとって「自分の道具」になります。「わからない」というカードを最初から入れておくのも大切で、これがあると子どもは安心して参加できます。
絵が苦手でも問題ありません。むしろ親の下手な絵は笑いの種になり、「感情の話=重い話」という空気を薄めてくれます。作る段階から、上手さより楽しさを優先してください。
年齢別の遊び方実例|5歳から思春期まで
感情カードは、遊び方を年齢に合わせて変えることで、幼児から思春期まで長く使えます。ここでは病棟や家庭で実際に使われている遊び方を、年齢帯ごとに紹介します。どれも「当てること」ではなく「気持ちの言葉に触れること」が目的です。
5〜7歳|「きもちかるた」と顔まね遊び
この年齢は、カードをかるたのように床に広げ、「プレゼントをもらったときの気持ちはどれだ?」と読み上げて取る遊びが入りやすいです。取ったら「どんなときにこの気持ちになる?」と一言だけ聞き、答えられなくても流します。カードの表情を親子で顔まねする遊びも人気で、表情と感情の結びつきを体で覚えられます。
小学校中学年〜高学年|「きもちクイズ」と度合いあそび
この年代には、日常の出来事をお題にしたクイズ形式が合います。「友だちに貸したゲームがなかなか返ってこないとき、どの気持ち?」のように場面を出し、家族それぞれがカードを選んで見せ合います。同じ場面でも人によって選ぶカードが違うことが分かるのが、この遊びのいちばんの学びです。慣れてきたら「その気持ちは10点満点で何点?」と強さを数字で表す遊びを足すと、感情の「度合い」の感覚が育ちます。
思春期|カードは机に置くだけでいい
中高生に「カードで遊ぼう」と誘うと、まず乗ってきません。この年代には、リビングの隅にカードをさりげなく置いておき、話をするときに「今どのへん?」と指せるようにしておく、くらいの距離感が現実的です。向かい合って質問するのではなく、並んで座って、カードという「第三の物」を間に挟む。視線が合わない分、口が動きやすくなります。本人が使わなくても、親が「お父さんは今日これだったわ」と自分の気持ちをカードで示す姿を見せるだけでも意味があります。
日常への組み込み方|夕食後・寝る前の「きもちクイズ」
感情カードは、イベントとして構えて使うより、生活の決まった場面に1分だけ組み込むほうが続きます。おすすめは夕食後か寝る前です。お腹が満たされて体がゆるんでいる時間は、気持ちの話がいちばん出やすい時間帯だからです。
やり方は「今日の気持ちに近いカード、1枚選んで」と聞くだけ。ここで重要なのは、親も必ず選んで答えることです。「お母さんは今日これ。レジでもたもたして、はずかしいだった」と親が自己開示すると、子どもは「気持ちを言っても大丈夫なんだ」と学びます。感情の言語化は、教えるものではなく、見せてうつすものです。
1日1問、1分で終える。答えたくない日はパスできる。この2つのルールを守ると、「きもちクイズ」は歯みがきのような習慣になります。長く続けるコツは、盛り上げようとしないこと。淡々と続くことに価値があります。
なぜ「名前をつける」だけで気持ちは落ち着くのか
「カードを選ぶだけで何が変わるの?」と思われるかもしれません。しかし、自分の中の得体の知れないモヤモヤに「くやしい、だ」と名前がつくと、気持ちはそれだけで一段扱いやすくなります。正体不明の敵と、名前の分かっている敵とでは、怖さがまるで違うのと同じです。
感情に名前をつけて言葉にすることは、心理の分野で「情動の言語化」と呼ばれ、気持ちの高ぶりを自分でなだめる「感情調整」の出発点と考えられています。つまり順番として、まず名前をつけられるようになり、その先に「じゃあどうするか」を考える力が育ちます。名前をつける練習を飛ばして「落ち着きなさい」だけを求めても、うまくいかないのはこのためです。
病棟で印象に残っている小学生がいます。入院当初はイライラが限界を超えるたびに物に当たっていた子でしたが、スタッフと一緒に感情カードで「ムカムカ」「もやもや」「がっかり」を区別する遊びを続けるうちに、あるとき職員のところへ来て「今、赤のちょっと手前」と自分から言えたのです。行動が全部なくなったわけではありません。それでも「爆発の前に言葉で知らせる」という新しい選択肢が、その子の中に一つ増えました。
※本記事に登場するエピソードは、個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
うまくいかないときの対処|乗ってこない・ふざける・「わからない」
感情カードを家庭に持ち込むと、たいてい3つの壁に当たります。「乗ってこない」「ふざける」「わからないと言う」です。どれも失敗ではなく、想定内の反応として対処法があります。
まず乗ってこない場合。子どもに参加を求めるのをやめて、親が一人で使ってください。「お父さん今日はこれだな、つかれた」と独り言のように毎晩カードを選ぶ。子どもは横目で見ています。数週間して子どもが「俺はこれ」と割り込んできたら成功です。誘われるより、混ざりたくなるほうが強い動機になります。
次に、ふざける場合。全部「うんち」みたいな答えにする、カードを投げる、変な顔だけして終わる——これは多くの場合、照れ隠しか、真面目に答えて否定されることへの防衛です。ふざけを叱ると遊び自体が終わるので、一度はふざけに乗って笑い、そのあと「で、ほんとはどれ?」と一回だけ聞いてみてください。それでもふざけるなら「今日はいいや」と引く。真剣さを要求しないことが、長期的にはいちばん近道です。
「わからない」と言う場合は、それを正直な回答として受け取ってください。実際、自分の気持ちが分からないのは子どもにとって普通のことです。「わからない」カードを堂々と選べるようにしておき、「わからないって言えたのがえらい」と扱います。そのうえで「体はどんな感じ?重い?ソワソワ?」と体の感覚から聞くと、答えられることがあります。気持ちより体感のほうが、子どもには近い言葉だからです。
病棟でも、面接のたびに「わかんない」で通していた中学生が、雑談しながらカードをトランプのように切って遊ぶだけの時間を何回か重ねたあと、ふと「これとこれの間くらい」と2枚を指した場面がありました。答えを求めない時間が、答えの出る土壌を作ることは珍しくありません。
やってはいけない3つの使い方
感情カードは道具なので、使い方を誤ると逆効果になります。避けたい使い方は3つです。第一に、尋問にしないこと。「で、なんでその気持ちになったの?誰が?いつ?」と詰めていくと、カードは取り調べの小道具になります。選んだカードについて聞くのは一言まで。あとは「そっか」で受け取って終わりにします。
第二に、正解を求めないこと。「それは悲しいじゃなくて悔しいでしょ」と親が答え合わせを始めると、子どもは「正しく答えないと怒られる遊び」だと学習し、二度とカードに触らなくなります。どのカードを選んでも正解です。親の見立てと違っても、「へえ、そっちなんだ」と面白がってください。
第三に、説教の道具にしないこと。「ほら、この前カードで『おこってる』選んだよね?だから言ったでしょ」と過去の回答を持ち出して叱る材料にすると、カードで正直に答えること自体がリスクになります。カードで出た気持ちは、何があっても叱責に使わない。この約束が守られている限り、カードは子どもにとって安全基地であり続けます。声かけ全般の考え方は子どもに届く「大丈夫?」の言い換え7選も参考になるはずです。
よくある質問
何歳から使えますか?
言葉でのやり取りが少しずつ増えてくる3〜4歳ごろから、「うれしい」「かなしい」「おこってる」の3枚だけで始められます。ただし年齢はあくまで目安で、大事なのは実際の反応です。表情の絵を見て顔まねをする、指をさすなど、何らかの形で関われていればその子にとって適齢です。逆に上限はなく、思春期でも大人でも使えます。私自身、疲れた日に「今日は青だな」と頭の中でカードを引くことがあります。年齢に合わせて枚数と遊び方を変える、と考えてください。
市販品と手作り、どちらがいいですか?
どちらでも効果に本質的な差はありません。市販品はイラストの質が安定していて、感情の種類が体系的にそろっている点が長所です。一方、手作りは「一緒に作る工程」自体が感情の言葉に触れる練習になり、子どもの生活語(その子だけの言い回し)をカードにできる点が強みです。迷うなら、まず紙8枚で手作りして反応を見て、子どもが気に入ったら市販品を買い足す順番をおすすめします。道具より、使う頻度と使い方のほうがずっと大事です。
子どもが「わからない」としか言いません。意味がありますか?
意味はあります。「わからない」と言えること自体が、実は大事な自己報告です。自分の内側を探して、該当する言葉が見つからなかったという報告なのですから、無視や拒否とは違います。まず「わからない」を正式な回答として認め、責めないでください。そのうえで、体の感覚(重い・ソワソワ・胸がぎゅっとする)から聞く、色で選んでもらう、親が先に自分の気持ちを開示する、の3つを試すと、少しずつ言葉が出てくることが多いです。数ヶ月単位で気長に構えてください。
発達障害のある子にも使えますか?
使えます。むしろ自閉スペクトラム症などで自分の感情をつかむことが苦手な子にとって、目で見て選べるカードは相性の良い道具で、療育の現場でも広く使われています。工夫としては、感情の種類を絞って始める、イラストと言葉と色を必ずセットにする、答えを急かさない、の3点が特に重要です。ただし、かんしゃくや不安が強く生活に支障が出ている場合は、カードだけで抱え込まず、かかりつけの医師や支援機関に必ず相談してください。カードは治療ではなく、日常の練習道具です。
親自身が気持ちを言葉にするのが苦手です
とても多いご相談で、恥じることではありません。私たち親の世代こそ「気持ちを言わない訓練」を受けて育っている面があるからです。むしろ好機と捉えて、親子で同時に練習してください。親が「これかな…いや、こっちかも」と迷いながらカードを選ぶ姿は、子どもにとって最高の教材です。気持ちの表現は完成形を見せるものではなく、試行錯誤を見せるものだからです。うまく言えない日は「今日は言葉にならない」もりっぱな回答として、親子で認め合ってください。
癇癪の真っ最中に使ってもいいですか?
おすすめしません。感情が爆発している最中は、脳が言葉を処理する余裕を失っている状態で、そこにカードを差し出しても「選べ」という要求が上乗せされるだけになります。カードの出番は、嵐が過ぎて落ち着いたあとの振り返りです。「さっきのはどのカードだった?」と穏やかな時間に一緒に眺めることで、次の嵐のときに「赤になりそう」と予告できる力が少しずつ育ちます。渦中の対応と平時の練習を分けて考えることが、感情の道具を育てる基本です。
今夜これだけ
寝る前に、あなた自身の今日の気持ちを一言だけ、子どもの前で口に出してみてください。「今日はちょっと、がっかりの日だったなあ」——それが感情カードの一枚目になります。
まとめ
感情カードは、気持ちを言えない子に「言いなさい」と迫る代わりに、「選べばいい」という一段やさしい階段を用意する道具です。表情・言葉・色の3要素を目安に選ぶか、紙8枚で手作りし、夕食後や寝る前の1分の「きもちクイズ」として生活に組み込む。親も一緒に答え、尋問・正解探し・説教には決して使わない。この形が守られていれば、カードは長く働いてくれます。
気持ちに名前をつけられることは、気持ちを自分でなだめる力の土台です。今日カードを1枚選べたことは、小さく見えて、確かな一歩です。焦らず、遊びとして、続けられる形で。そのペースで十分に育っていきます。
参考にした公的情報・一次情報
この記事の内容に関連する制度・相談先・健康情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。


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