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この記事の要点
- 多くの児童精神科や相談窓口は、親だけの相談を受け付けています
- 受け付けの扱いは機関ごとに違うため、予約の電話で必ず確認しましょう
- 親の関わりが変わるだけで、子どもが変わることは現場でよくあります
- 騙して連れて行くのは逆効果。誘い方は「あなたが心配」を軸に
- 自傷・死にたい気持ち・食べられない時は、本人の同意より受診を優先
こんにちは。児童思春期精神科病棟で働く看護師の星野レンです。看護師歴は8年、そのうち児童思春期精神科で5年以上、子どもたちとご家族に関わってきました。私自身も父親として、子どもの心配ごとに向き合う親の側の気持ちを日々実感しています。
今回はQ&A形式で、外来の予約電話でも本当によくいただく質問にお答えします。「子どもの様子が心配で受診させたい。でも本人が『行かない』と言う。親だけで受診や相談はできますか?」という質問です。
先に結論をお伝えすると、多くの機関で「親だけの相談」は可能です。そして、親だけで相談することには、想像以上に大きな意味があります。この記事では、その理由と具体的な進め方、本人への声のかけ方、そして「例外的に急ぐべきとき」まで、順番に整理していきます。
結論:親だけの相談は、多くの機関で可能です
児童精神科・児童思春期外来の多くは、初回や継続の相談を「保護者のみ」で受け付けています。自治体の教育相談やスクールカウンセラー、児童相談所も同様で、むしろ「まずは保護者の方だけでどうぞ」と案内している窓口も少なくありません。子どもの相談の入り口は、本人が来ることが必須条件ではないのです。
ただし、ここは大事な注意点ですが、扱いは機関によって異なります。「初診は本人同伴が必須」という病院もあれば、「保護者のみの相談枠」を別に設けている病院もあります。医療機関か公的な相談窓口かでも仕組みが違います。ですから、予約の電話をかけるときに「本人が受診を嫌がっているのですが、親だけでも相談できますか」と最初に確認するのが確実です。
この一言を伝えると、受け付ける側も「本人不在の相談」として案内の仕方を切り替えてくれます。予約電話で何を聞かれるかは児童精神科の予約電話で何を聞かれるかの記事で詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
「本人が行かない」は、実はとても多いケース
まずお伝えしたいのは、「本人が受診を拒否する」のは珍しいことではない、ということです。思春期の子どもにとって、精神科やカウンセリングに行くことは「自分がおかしいと認めること」のように感じられがちです。「俺は病気じゃない」「行っても意味ない」という言葉の裏には、不安や恥ずかしさ、プライドが隠れています。
病棟で子どもたちの話を聞いていると、「最初は絶対行きたくなかった」と振り返る子がとても多いです。つまり、今「行かない」と言っている状態は、支援につながる前の通過点であって、行き止まりではありません。本人が動けないなら、まず動ける人(=親)から動く。これが児童思春期の支援では標準的な入り方です。
「本人を連れて行けないから相談もできない」と考えて、何ヶ月も一人で抱え込んでしまう親御さんを、私は何人も見てきました。その時間がもったいないのです。本人の同意が取れるのを待つのではなく、親の相談を先に始めてしまってよい。この記事で一番お伝えしたいことです。
親だけで相談する意味:家庭の関わりが変わると、子どもが変わる
「本人がいないのに相談して意味があるの?」と思われるかもしれません。あります。それも、かなり大きな意味が。
子どもの心の状態は、家庭でのやり取りと深く結びついています。親が専門家から「今のお子さんの状態の見立て」と「家庭でできる関わり方」を聞き、声のかけ方や距離の取り方を少し変える。それだけで子どもの表情が和らぎ、口数が増え、結果として本人が「行ってみてもいい」と言い出す。この流れは、現場では本当によく見る展開です。
親だけの相談で得られるものを具体的に挙げると、次のようになります。
- 子どもの状態についての専門的な見立て(緊急性の判断を含む)
- 家庭での声のかけ方・関わり方の具体的なアドバイス
- 本人を受診に誘うときの言い方の相談
- 学校や他機関との連携の橋渡し
- 親自身の不安や疲れを整理する場
最後の「親自身の整理」は軽く見られがちですが、とても重要です。親が不安でいっぱいのまま子どもに接すると、その緊張は必ず子どもに伝わります。親が相談の場を持って少し落ち着くだけで、家の空気が変わる。これも支援の一部です。
現場で見た変化:親の相談から始まったケース
以前、学校に行けなくなり部屋にこもりがちになった中学生のケースがありました。本人は「病院なんて絶対行かない」の一点張り。お母さんが一人で外来相談に通い始め、「登校を促す声かけを一旦やめる」「本人の好きな話題のときだけ会話を広げる」という方針を続けました。数ヶ月後、本人のほうから「母さんが行ってる病院ってどんなとこ?」と聞いてきて、まず親の診察に同席する形で来院。そこから本人の診察につながりました。
※本記事に登場するエピソードは、個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
このケースで動いたのは、最初から最後まで「親の関わり」だけです。本人に直接何かをしたわけではありません。それでも子どもは変わりました。家庭は子どもにとって一番長く過ごす環境ですから、そこが変わる影響力は、週1回の面接よりずっと大きいこともあるのです。
保険診療と自費相談の違いを知っておく
親だけで医療機関に相談する場合、費用の仕組みは知っておいたほうがよいポイントです。一般論として、保険診療は「患者本人の診療」に対して行われるものなので、本人が受診していない段階での親だけの相談は、保険診療として扱えない場合があります。その場合は自費の相談料(機関が独自に設定した料金)になることがあります。
一方で、本人がすでに患者として登録されている場合の家族面接や、初診前の相談を独自の枠組みで安価に設定している病院など、実際の運用はさまざまです。金額も枠組みも機関・自治体によって異なりますので、予約時に「親だけの相談の場合、費用はどうなりますか」と必ずご確認ください。
もし費用面が心配なら、まず無料の窓口から入る方法もあります。自治体の教育相談やスクールカウンセラー、児童相談所は基本的に費用がかからずに相談できます(こちらも詳細は各自治体によって異なります。事前にご確認ください)。無料の窓口で状況を整理してから、必要に応じて医療につなぐという順番は、費用面でも心理的な負担の面でも入りやすい道です。
親だけで相談できる主な窓口
児童精神科・児童思春期外来
診断や治療の必要性を見立ててもらえる、いわば本丸です。保護者のみの相談枠を持つ病院も多い一方、初診は数ヶ月待ちということも珍しくありません。だからこそ「本人が行くと言ってから予約」ではなく、早めに電話をして「親だけでも相談できるか」「本人が来られるようになったらどう切り替わるか」を聞いておくことをおすすめします。受診の流れ全体は児童精神科の受診方法と、受診前に知っておきたいことにまとめています。
自治体の教育相談・子育て相談
各自治体には教育センターや子ども家庭支援の窓口があり、不登校や親子関係の相談を受けています。保護者のみの相談はごく一般的で、継続的に通うこともできます。心理士が担当することが多く、医療が必要かどうかの見立ての入り口としても機能します。名称や仕組みは自治体によって異なりますので、「お住まいの自治体名+教育相談」で調べてみてください。
スクールカウンセラー
学校に配置されているカウンセラーは、児童生徒本人だけでなく保護者の相談も受けています。学校の様子を踏まえて話せるのが強みで、担任や養護教諭との連携もしやすい立場です。本人が「カウンセラーには会いたくない」と言っていても、親が先に会って情報を共有しておく価値は十分あります。活用のコツは別記事で詳しく書いています。
児童相談所
児童相談所は虐待対応のイメージが強いかもしれませんが、本来は18歳未満の子どもに関するあらゆる相談を受ける機関です。養育の悩み、不登校、家庭内での激しい癇癪や暴力なども相談できます。保護者のみの相談ももちろん可能です。家庭内で手に負えない行動が続いているときには、選択肢として覚えておいてください。
本人に受診を切り出すときの言い方
親の相談が始まったら、次の課題は「本人にどう切り出すか」です。ここで大事な原則は一つ。「あなたを直したい」ではなく「あなたがつらそうで心配」を軸に話すことです。
子どもは「病院に行け」と言われると、「自分は親にとって問題なんだ」と受け取ります。そうではなく、困りごとの主語を本人に返すのです。「最近眠れてないみたいだけど、体しんどくない?」「眠れないのを相談できるところがあるんだけど、どう思う?」のように、本人が自覚している困りごと(眠れない・頭が痛い・イライラする)を入り口にすると、受け入れられやすくなります。
言い方の例をいくつか挙げます。
- 「あなたが悪いから行くんじゃなくて、しんどさを軽くする方法を一緒に探したい」
- 「お母さん(お父さん)が先に相談に行ってるんだ。すごく話しやすい先生だったよ」
- 「行くかどうかはあなたが決めていい。ただ、こういう場所があることだけ知っておいて」
- 「1回行ってみて合わなかったら、やめていいから」
共通しているのは、決定権を本人に残すことです。「行くかどうかは自分で決められる」と感じられると、子どもの構えは目に見えて緩みます。逆に、決定権を奪う誘い方は、次の見出しで説明するように大きなリスクがあります。
やってはいけない誘い方:騙して連れて行くのは最悪手です
「買い物に行くと言って病院に連れて行く」「健康診断だと嘘をつく」。お気持ちは痛いほどわかるのですが、これはやめてください。騙されて診察室に座らされた子どもは、診察どころではありません。医療への不信だけでなく、「親は自分を騙す」という傷が残ります。この傷は、その後の親子関係と治療の両方を長く邪魔します。
病棟でも、過去に騙されて受診させられた経験を持つ子は、医療者への警戒がなかなか解けません。「どうせ大人は口裏を合わせてる」という前提から関係を始めることになるからです。一度壊れた信頼を建て直すのは、最初から正直に誘うことの何倍も時間がかかります。
ほかにも避けたい誘い方があります。「行かないなら○○を取り上げる」と罰で脅す。「あなたのせいでお母さんも眠れない」と罪悪感で動かす。きょうだいや友達と比較する。どれも一時的には動くかもしれませんが、「受診=嫌なもの」という学習を強めるだけで、継続にはつながりません。
正直に、選択権を残して、繰り返し伝える。遠回りに見えて、これが一番の近道です。
本人が来られるようになるまでの段階
本人の受診は「行く/行かない」の二択ではなく、階段のように段階を踏んで近づいていくものだと考えてください。現場でよく見る流れはこうです。
- 段階1:親だけが相談に通う(本人には「行ってくるね」とだけ伝える)
- 段階2:本人が病院や相談先の存在を知り、話題にできるようになる
- 段階3:本人が付き添いで来て、待合室や車の中で待つ
- 段階4:診察室に入るが、話すのは親が中心。本人は聞いているだけでもOK
- 段階5:本人が自分の言葉で話し始める
ポイントは、段階3の「待合まで来たら十分」という感覚です。親御さんはつい「せっかく来たんだから診察室まで」と思ってしまいますが、そこで押すと次が無くなります。「今日は来られただけで大成功」と本人に伝えて帰る。この積み重ねが、次の段階への一番の推進力になります。
ある高校生のケースでは、初回は駐車場の車から降りられませんでした。2回目は待合室の隅に座り、3回目に「入るだけなら」と診察室へ。医師は本人に質問攻めにせず、「来てくれてありがとう。しんどかったら途中で出ていいからね」とだけ伝えました。その子は数回目から、ぽつぽつと自分の言葉で話すようになりました。
焦らないこと。後退したように見える週があっても、階段は下から積み上がっています。本人のペースを守ることが、結局は一番早いのです。
例外:本人の同意を待たずに医療へつなぐべきとき
ここまで「本人のペースを守る」とお伝えしてきましたが、例外があります。命と健康に関わるサインが出ているときは、本人の同意を待たず、速やかに医療につないでください。
- 自傷行為がある、または急に増えている
- 「死にたい」「消えたい」と口にする、遺書のようなものを書いている
- 食事がほとんど取れず、体重が明らかに減っている
- ほとんど眠れない状態が続き、言動がまとまらない
- 家族への暴力や物の破壊が、抑えられないレベルになっている
これらは「本人の気持ちの準備を待つ」段階を越えたサインです。かかりつけがあればそこへ、なければ地域の精神科救急の相談窓口や自治体の窓口に電話し、状況を伝えて指示を仰いでください。夜間・休日でも対応する仕組みが各地域にあります(体制は自治体によって異なります。事前に調べておくと安心です)。
このときの本人への伝え方も、嘘ではなく正直に。「あなたの命が心配だから、病院に行く。これは相談じゃなくて、親としての決定です」と伝えてください。緊急時に親が毅然と決断することは、騙すことともコントロールすることとも違います。子どもは後になって「あのとき止めてくれた」と振り返ることが多いのです。「死にたい」という言葉への対応は子どもが「死にたい」と言ったときの親の対応で詳しく書いています。
よくある質問
親だけの相談で、診断や薬の処方はしてもらえますか?
一般的に、診断や処方は医師が本人を診察して初めて行えるものです。親だけの相談で得られるのは、「話を聞く限りこういう状態が考えられる」という見立てや、家庭での関わり方の助言、受診につなげる作戦会議といった内容が中心になります。それでも十分に価値はあります。緊急性の判断をしてもらえるだけでも、親の不安はかなり整理されますし、いざ本人が来られたときに医師が背景を把握できているので、初回診察の質が変わります。診断書が必要な場合など個別の事情は、機関によって扱いが異なりますので予約時にご確認ください。
親だけで相談していることを、本人に隠したほうがいいですか?
隠さないことをおすすめします。こそこそ通って後から発覚すると、「裏で自分のことを話していた」という不信につながります。かといって大げさに宣言する必要もなく、「あなたのことで心配なことがあって、専門の人に相談に行ってるよ」と、聞かれたら答えられる程度のオープンさで十分です。実際、親が通っている姿を見て「そんなに心配してたのか」と感じたり、「どんなところか」と興味を持ったりして、本人の受診につながることはよくあります。親が先に相談に通うことは、隠すべきことではなく、堂々としてよいことです。
何度誘っても断られます。もう誘わないほうがいいのでしょうか?
毎日のように誘うのは逆効果ですが、完全にやめる必要もありません。おすすめは「間隔をあけて、軽く、選択肢として置いておく」誘い方です。例えば月に1回程度、「そういえば、前に話した相談の場所、気が向いたら言ってね」と短く触れるだけにする。本人の状態は変化しますから、先月ノーだったことが今月イエスになることは普通にあります。その間、親の相談は続けてください。誘う言葉のバリエーションや切り出すタイミング自体を、相談先の専門家と一緒に考えるのが、実は一番効率的です。
父親と母親で意見が割れています。どちらかだけの相談でもいいですか?
どちらか一方だけの相談でもまったく問題ありません。実際、最初は片方の親だけが通い始めるケースのほうが多いくらいです。「配偶者が受診に反対している」という悩み自体も、相談の場でよく扱われるテーマです。専門家から見立てを聞いた親が家庭でそれを共有するうちに、もう一方の親の見方が変わっていくことはよくあります。無理に夫婦の足並みを揃えてから動こうとすると、その調整だけで数ヶ月失われてしまいます。まず動ける人が動く。それで大丈夫です。途中から夫婦揃っての面談に切り替えることもできます。
本人が「親が行くのもやめて」と言います。どうすれば?
そう言われると迷いますよね。ただ、親が自分の心配ごとを専門家に相談することは、親自身の権利です。「あなたを無理に連れて行くことはしない。でも、お母さん(お父さん)自身が心配で苦しいから、相談には行かせてね」と、主語を親にして伝えてみてください。「自分が監視されている」のではなく「親が親自身のために行っている」と伝わると、抵抗が和らぐことが多いです。強い拒否の裏には「自分の悪口を言われている」という不安があることも多いので、「あなたを責める話はしていないよ」と添えるのも有効です。
今夜これだけ
お住まいの地域の相談先(児童精神科・自治体の教育相談)を一つ調べて、明日かける電話番号をメモしておきましょう。伝える一言は「本人が行きたがらないのですが、親だけでも相談できますか」で大丈夫です。
まとめ
「本人が行きたがらない。親だけで受診できる?」への答えは、「多くの機関で可能。ただし扱いは機関ごとに違うので、予約時に確認を」です。そして親だけの相談は、本人受診までの「つなぎ」ではなく、それ自体が立派な支援の始まりです。家庭の関わりが変わるだけで子どもが変わっていく場面を、私は病棟で何度も見てきました。
本人には正直に、決定権を残して、焦らず段階を踏む。ただし自傷や死にたい気持ち、食べられない状態などの緊急サインがあるときだけは、本人の同意より受診を優先する。この線引きを持っておけば、大きく道を誤ることはありません。
「本人が動かないから何もできない」ではなく、「親が動けるから、もう始められる」。今日がその一歩目になれば嬉しいです。
参考にした公的情報・一次情報
この記事の内容に関連する制度・相談先・健康情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。


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