この記事の要点
- 看護師が現場で言ってしまった失敗を振り返る記録
- 励ましやアドバイスが、子どもを黙らせることがある
- 「わかるよ」は、わかっていないと伝わると逆効果
- 何も言わずそこにいることが、最大の支えになる場面がある
- 専門職も間違える。言い直せる関係のほうが大事
- はじめに|「プロなのに」と思われるかもしれませんが
- 第1章|私が言ってはいけなかった3つの一言
- 第2章|なぜ言ってしまったのか(プロの盲点)
- 第3章|その一言で子どもが見せた表情
- 第4章|子どもに届く「共感」の始まり方(失敗から学んだこと)
- 第5章|「何も言わない」ことが最大の支えになることもある
- 第6章|今、私が面談で大切にしている3つのこと
- 第7章|親御さんにも伝えたい、共感の基本姿勢
- 第8章|他にもあった「言ってはいけなかった言葉」
- 第9章|届く言葉の具体例
- 第10章|失敗を続ける勇気
- 届いた共感の瞬間4件
- 家族の方々から伺った声
- 共感を育てる日常の習慣
- よくある質問
- まとめ|失敗があったから、今がある
- 参考にした公的情報・一次情報
- 関連記事
- 著者プロフィール
- 免責事項
はじめに|「プロなのに」と思われるかもしれませんが
こんにちは。看護師の星野レンです。2018年4月から一般病棟で勤務し(2か月のブランクあり)、2021年4月から児童思春期精神科病棟に携わっています。子どもたちの「こころ」に関わる現場で働いてきました。
こう書くと「プロなんだから、子どもへの声かけも上手なんでしょうね」と思われるかもしれません。でも、正直に言います。私は、何度も、言ってはいけなかった一言を口にしてきました。励まそうとして、励ましにならなかった。寄り添おうとして、距離を感じさせてしまった。「共感」という言葉はよく聞きますが、実際にそれを言葉にするのは、本当に、本当に難しいのです。
今日はその失敗を、正直にお話ししようと思います。個人が特定されないように、いくつかのケースを混ぜて、年齢や状況はぼかして書きますが、本質は本当にあった出来事です。失敗を隠して「立派な看護師」を装うより、失敗を共有して同じ過ちを繰り返さない助けにする方が、現場として価値があると考えています。同じように悩む親御さん、教育関係者、支援職の方に、少しでも届けば嬉しいです。
第1章|私が言ってはいけなかった3つの一言
①「大丈夫だよ、きっと良くなるよ」(安易な励まし)
これが一番、よく言ってしまっていた言葉です。ある中学生の女の子が、「もう死にたい」とぽつりとつぶやいた夜がありました。夜勤中の私は、彼女のベッドサイドに座って、思わずこう言いました。「大丈夫、きっと良くなるよ」。彼女は、薄く笑って「うん」とだけ答えて、布団をかぶって背中を向けました。
あのとき、私は自分の言葉に満足していたような気がします。「ちゃんと励ませた」と。でも、今ならわかります。彼女が欲しかったのは「大丈夫」の保証ではなく、「大丈夫じゃない自分」をそのまま見てくれる人だったのです。「大丈夫」という言葉は、裏を返せば「これ以上、その話はしないで」というメッセージにもなってしまう。子どもは、それを敏感に感じ取ります。そして「あ、この人には本当の苦しみを話せない」と、心の扉を閉じます。
②「みんなも頑張っているから」(比較による励まし)
学校に行けない状態で入院してきた小学生の男の子に、私は昼食のテーブルで言ってしまったことがあります。「他の子も、がんばって食事してるよ。一緒にちょっとだけ食べてみようか」。悪気はありませんでした。周りの子と一緒に、という「安心感」を伝えたかったのです。
でも、彼はお箸を置いて、下を向いてしまいました。「他の子はできてるのに、自分はできない」——その一言で、彼の中にあった比較の痛みを、私は押し込んでしまったのです。「みんな」は、子どもにとって、しばしば優しい言葉の仮面をかぶった刃物になります。「みんな頑張っている」と言われると、子どもは「自分は頑張れていない」と感じる。励ましとして言った言葉が、本人の自己肯定感を削る結果になってしまうのです。
③「お母さんが落ち込んだら子どもがもっと…」(親を追い込む励まし)
これは、面談のときに、お母さんに向けて言ってしまった言葉です。お子さんの症状が重く、泣きながら話すお母さんに、私はこう言いました。「お母さん、あまり落ち込まないでくださいね。お母さんが落ち込んだら、お子さんがもっと不安になっちゃいますから」。言った瞬間、お母さんの表情が凍ったのを、今でも覚えています。
そうじゃなかった。お母さんは、落ち込むなと言われたかったのではなくて、「落ち込んでもいいですよ」と言われたかったのです。「あなたの不安は、この子の不安に影響します」と受け取られたら、もう親は自分の感情を出す場所を失ってしまいます。この一言は、励ましの仮面をかぶった、親への圧力でした。「あなたの感情さえコントロールしなさい」と求めるに等しい、本当に重い言葉だったと思います。
第2章|なぜ言ってしまったのか(プロの盲点)
「プロなのに、なぜそんな言葉を?」と思われるかもしれません。今、落ち着いて振り返ると、理由は3つあったと思っています。
①沈黙に耐えられなかった
子どもが黙ってしまうと、「何か言わなくちゃ」と焦ってしまう。沈黙は「何もない時間」のように感じられますが、実は本人の内側で多くの感情が動いている貴重な時間です。それを邪魔して、自分の不安を埋めるための言葉を発してしまう——これが、若手看護師の私の典型的なパターンでした。
②自分が何かしたかった
看護師としての「役に立ちたい」という気持ちが、前に出すぎていました。「何かしてあげたい」気持ちは尊いですが、相手の状態を理解する前の行動は、しばしばすれ違いを生みます。「役に立つ自分」を確認したい無意識の動機が、結果として相手を傷つけることがあるのです。
③悲しみの中に一緒に入るのが怖かった
「大丈夫」「きっと良くなる」は、私自身の不安を打ち消すための言葉でもありました。相手の暗い気持ちの中にそのまま居ることは、思っている以上にエネルギーを使います。これは、看護師だけの問題ではありません。親御さんが、先生が、大人が、子どもに「大丈夫だよ」と言ってしまう背景には、大人自身の不安があることが多いのです。「自分の不安と、相手のための言葉を区別する」——これが、共感の第一歩なのかもしれません。
第3章|その一言で子どもが見せた表情
「言ってはいけない一言」を口にしたとき、子どもはたいてい、怒りません。抗議もしません。ただ、ふっと目の焦点が外れるのです。視線が、一瞬宙を漂う。あるいは、目の前のものにじっと固定されて、動かなくなる。口元がかすかに動いて、何かを言いかけてやめる。表情筋が少し緩んで、無表情に近づく。
この「ふっと離れる瞬間」を、私は何度も見てきました。子どもは、がっかりしたとき、怒るのではなく、静かに心の扉を閉めるのです。この扉は、一度閉まると、開くのに時間がかかります。
大人の私たちは、「怒らないからまだ大丈夫」と勘違いしがちです。けれど、子どもの「沈黙の失望」こそが、最も深い影響を残します。怒りはまだエネルギーがある証拠ですが、沈黙は「もうこの人に話しても意味がない」という諦めです。
家庭でも同じことが起きています。お子さまが「うん」「そう」と短く返事をして、それ以上話さなくなる瞬間。視線が逸れて、自室に戻っていく瞬間。それらは、すべて「言葉が届かなかった」サインかもしれません。
第4章|子どもに届く「共感」の始まり方(失敗から学んだこと)
共感は、「同じ気持ちになること」ではなく「相手の気持ちを認めること」
以前の私は、共感とは「相手と同じ気持ちになる」ことだと思っていました。「わかるよ、つらいよね」と。でも、本当の共感は、たぶんそうではないのです。共感は、相手の気持ちが「そこにある」と認めること。それ以上でも、それ以下でもありません。
「つらいんだね」「そう思ったんだね」「今、話したくない気持ちなんだね」——。この、ただ「気持ちの存在を認める言葉」こそが、共感のはじまりなのだと、私は今、思っています。「分かる」と言うのは、実は越権行為になることがあります。本当には分からない部分があるのに「分かる」と言ってしまうと、本人が「いや、分かってないのに」と心を閉ざします。「分からないけれど、あなたの気持ちがそこにあることは認めている」というスタンスの方が、本人にとって誠実に響きます。
ポイントは「事実」ではなく「気持ち」を拾うこと
子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、つい私たちは「どうして?」「何かあった?」と、事実を聞きたがります。でも、そのときに必要なのは、事実確認ではなく、「行きたくない、って思ってるんだね」と、気持ちをそのまま受け取ることです。
- 「学校に行きたくない」→「行きたくない気持ちがあるんだね」
- 「もう無理」→「もう無理って思うくらい、しんどいんだね」
- 「誰もわかってくれない」→「わかってもらえてない、って感じてるんだね」
- 「死にたい」→「死にたいって思うくらい、つらいんだね」
- 「やる気が出ない」→「やる気が出ない自分にも、しんどさを感じているんだね」
オウム返しに近いですが、相手の気持ちの部分だけをそっと返す。これだけで、子どもは「自分の気持ちは、ここにあっていいんだ」と感じてくれることが多いです。これは「リフレクション」という技法で、心理職の方々が日常的に使っているスキルです。完璧な技術は必要ありません。
「分かろうとする姿勢」を伝える
本当には分からない気持ちでも、「分かろうとしている」姿勢は伝えられます。「あなたの感じていること、もう少し教えてくれる?」「私には全部は分からないかもしれないけれど、聞かせてほしい」「分かりたいから、ゆっくり話して」——こういう言葉は、本人に「分かろうとしてくれている人がいる」という安心を届けます。
第5章|「何も言わない」ことが最大の支えになることもある
これは、ある先輩看護師に教わったことです。「レンさん、黙ってそばにいる、っていうのも看護なんだよ」。最初は意味がわかりませんでした。何もしないことが、仕事になるなんて。
でも、ある患者さんとの時間で、その意味がわかる瞬間がありました。泣き続けている小学校高学年の子の横で、私はどんな言葉も思いつかず、ただ黙ってベッドサイドの椅子に座っていました。20分くらいでしょうか。途中、何度か「何か言わなきゃ」と思いましたが、その衝動をぐっと我慢しました。泣き止んだ彼女は、ぽつりと言いました。「いてくれて、ありがとう」。
私は、何もしていません。ただ、そこにいただけです。でも、その子にとっては、「何も言わずに、そばにいてくれた大人がいた」という事実そのものが、言葉よりも深い共感だったのだと思います。
親御さんも、ぜひ覚えておいてください。子どもが落ち込んでいるとき、気の利いたことを言う必要はありません。むしろ、隣に座って、同じ方向を向いて、ただ時間を共有するだけで十分な支えになることがあります。テレビを一緒に見る、隣で本を読む、お茶を一緒に飲む、夕方の空を一緒に眺める——そんな何気ない時間が、本人にとっては「一人じゃない」という確かな実感になります。「沈黙の中で一緒にいる」ことは、立派なコミュニケーションです。
第6章|今、私が面談で大切にしている3つのこと
1. 最初の5分は「聞く」だけに使う
開口一番に「今日はどうですか?」と聞いたあと、最低でも5分は、こちらから意見もアドバイスも言わない時間を作ります。沈黙があっても、話題が飛んでも、こちらは「うん」「そうなんですね」「それで?」くらいしか言いません。すると、自分でも気づかなかった本音が、ふっと出てくることがあります。家族の中でも、この「最初の5分」の練習ができます。
2. 「で、どうするか」は、子ども自身に聞く
以前の私は、「こうしてみようか」「こう考えてみたら?」と、解決策を先に提案してしまっていました。でも今は、「これから、どうしたい?」「どうなったら、ちょっとラクになりそう?」と、子ども自身に聞くようにしています。自分で考えて、自分で言葉にした「やりたいこと」は、誰かから提案されたものよりも、はるかに力を持ちます。家庭でも、「お母さんはこう思うけれど、あなたはどうしたい?」と本人に問う姿勢が、主体性を育てます。
3. 自分の限界を正直に伝える
「私にはわからない気持ちかもしれないけれど、教えてくれてありがとう」「こういうとき、どう声をかければいいか、私もまだわからないんだ」。プロとして、すべてを受け止めきれるふりをしない。自分の限界を正直に出すことが、かえって相手に安心感を与えることが多いのです。「この人は、わかってるふりをしていない」——これが、信頼のはじまりになります。
家族として「親はいつも正しい」を装う必要はありません。「お母さん/お父さん、こういう時どう言えばいいか分からないんだ。一緒に考えてくれる?」と素直に伝える方が、お子さまに「親も人間」という安心感を与えます。完璧な親より、「揺らぐ親」の方が、子どもにとって本物の存在感があるのです。
第7章|親御さんにも伝えたい、共感の基本姿勢
「大丈夫」を安売りしない
本当に大丈夫かわからないときは、「大丈夫」と言わない。代わりに「一緒にいるよ」「そばにいるからね」と、事実だけを伝えるのも一つの方法です。「大丈夫だよ」と言うことで、親自身の不安を打ち消そうとしている部分はないか、自分の心を点検してみてください。本人にとっては、「保証」より「同伴」が、ずっと深い支えになります。
「みんな」を比較に使わない
「みんな頑張ってるよ」「お兄ちゃんはできてるよ」は、励ましに見えて、追い込みの言葉になりがちです。その子の話だけをする時間を、ぜひ持ってあげてください。「あなた自身を見ている」というメッセージこそが、本人を支えます。
親自身の「落ち込む権利」も大切に
お母さん・お父さんが落ち込むのは、自然なことです。自分の感情を押し殺して平気な顔をしても、子どもは意外と見抜きます。親自身が自分をケアすることが、結果的に子どものケアになります。親の感情を完全に隠すより、「お母さん/お父さんも、ちょっとつらい日がある」と素直に見せる方が自然です。同時に、その感情の処理は、子どもの前以外の場所で進めることが大切です。
第8章|他にもあった「言ってはいけなかった言葉」
3つの例以外にも、現場で繰り返した「言ってはいけなかった言葉」があります。教訓として共有します。
- 「気にしすぎだよ」——本人の感情を否定する言葉。気にしている事実は、その本人にとって本物です。「気にしすぎ」ではなく「気になるんだね」と認める方が、ずっと正確な反応です
- 「もっと自信を持って」——自信は、その場で湧くものではなく、経験と成功体験から育つもの。「あなたなりに頑張ってきたんだね」と、これまでのプロセスを認める言葉の方が、長期的に自信を育てます
- 「考えてもしょうがないよ」——本人は「自分の思考の価値を否定された」と感じます。考えること自体が、本人にとって意味のある営み。「考えるよね、つらいよね」と受け止める方が、本人の心の動きを尊重できます
- 「私はもっと大変だった」——自分の苦労を持ち出して、相手の苦しみを相対化する言葉。比較は、共感の真逆の行為です。本人の苦しみは、本人だけのものとして尊重されるべきです
- 「もっと話してくれればよかったのに」——本人が「話さなかった選択」を責める言葉になります。「今、話してくれてありがとう」が正解です。本人のタイミングで話してくれたことを、まず尊重してください
第9章|届く言葉の具体例
では、子どもに届く言葉とは、具体的にどんなものか。現場で「あ、この言葉は届いた」と感じた例を紹介します。
- 「教えてくれてありがとう」——本人が話してくれた事実そのものを、感謝で受け取る言葉。どんな話でも、まず「教えてくれてありがとう」と受け止めることで、本人は「話して良かった」と感じます
- 「そう感じているんだね」——本人の感情を、否定も肯定もせず、ただ「そこにある」と認める言葉。感情を持つこと自体を、許容するメッセージです
- 「一人にしないよ」「そばにいるよ」——抽象的な「大丈夫」ではなく、具体的な「一緒にいる」事実を伝える言葉。本人が最も恐れているのは「孤立」です
- 「あなたが大切」——「何かができるあなた」ではなく、「存在しているあなた」を肯定するメッセージ。条件付きの愛ではなく、無条件の愛を伝える、最も大切な言葉の一つです
- 「一緒に考えよう」——解決策を押し付けない、共に考える姿勢を示す言葉。「自分が決める」プロセスを尊重しつつ、「一人で考えなくていい」という安心を与えます
第10章|失敗を続ける勇気
本記事で「言ってはいけない言葉」をたくさん挙げましたが、これらを完全に避けることは、現実には難しいです。プロでも、何年経験しても、ふと言ってしまうことがあります。
「完璧な言葉」を探し続けると、何も言えなくなります。重要なのは、「言ってしまった後にどうするか」です。「あ、今の言葉、ダメだった」と気づいたら、「さっきの言い方、よくなかったね、ごめん」と素直に修復する。この修復のプロセスが、関係を育てます。
家族の関係において、「ミスをしない」より「ミスを修復できる」が、ずっと大切です。お子さまも、「親が完璧」より「親も間違う、間違ったら謝る」を見て育つことが、長期的に大きな価値を持ちます。一回の言葉で、関係が完全に壊れることはあまりありません。「今日はダメだった、明日は少し違うやり方を」と、毎日少しずつ調整していく姿勢が、長期的な信頼関係を作ります。
届いた共感の瞬間4件
「言ってはいけなかった言葉」がある一方で、「届いた言葉」「届いた沈黙」もあります。現場で経験した、心に残る瞬間を匿名で紹介します。
瞬間①|「いてくれて、ありがとう」
第5章で紹介した、20分間黙ってベッドサイドにいた話。あの「いてくれて、ありがとう」の一言は、私にとっての転機でした。何もしないこと、何も言わないことが、最大の共感になり得ると、初めて実感した瞬間。それまでは「言葉を探す」ことに必死だった私が、「言葉を手放す勇気」を学んだ夜でした。
瞬間②|「先生は、わかるって言わなかった」
退院前のお子さまが、こんな言葉をくれたことがあります。「先生(看護師)は、『わかるよ』って言わなかったから、信頼できた」。私が意識的に「わかる」を避けて、「教えてくれてありがとう」「そう感じているんだね」を使っていた時期でした。「わかる」と言わないことが、かえって信頼を生む。共感の逆説性を、本人から教わった瞬間でした。
瞬間③|「謝ってくれた看護師は初めて」
私が間違った言葉をかけてしまった後、「ごめん、さっきの言葉、よくなかったね」と謝った時、お子さまから「謝ってくれた看護師は初めて」と言われたことがあります。大人が謝る姿を、お子さまは新鮮に受け止めてくれました。「プロは謝らない」という思い込みを手放したことが、関係を深めた瞬間でした。
瞬間④|「私が言ったこと、覚えてくれてた」
数か月前に本人が小さく言った一言を、私が覚えていて、ある日の面談で触れた時、本人がはっとした表情をしました。「あの時、私が言ったこと、覚えてくれてたんだね」。本人の言葉を「ちゃんと聞いていた」という事実が、本人にとっての安心になりました。共感は、その瞬間だけでなく、時間を超えた記憶として届くこともあるのだと、学んだ瞬間でした。
家族の方々から伺った声
「最初は子どもに『大丈夫』と言い続けていた。でも、それが子どもを傷つけていると、看護師の方に教えてもらった。『大丈夫じゃないかもしれない、でも私はそばにいる』と言葉を変えたら、子どもが少しずつ話してくれるようになった」(中学生の母)。「夫が無口で、共感の言葉を出すのが苦手だった。でも、隣に座って一緒に過ごす時間を増やしただけで、子どもとの関係が変わった。言葉だけが共感じゃないと、夫婦で学んだ」(小学生の父)。
「自分が共感されずに育った。子どもにどう共感していいか、最初は分からなかった。カウンセリングで、自分自身の感情に共感する練習をして、初めて子どもにも共感できるようになった」(中学生の母)。「『分からないんだ、教えて』と素直に子どもに言ったら、初めて話してくれた。プロでも親でも、完璧を装わない方が、子どもには届くんだと実感した」(高校生の父)。
共感を育てる日常の習慣
共感力は、日常の習慣で少しずつ育つものです。家族として取り入れられる小さな習慣を紹介します。
- 日常の対話の中で気持ちを拾う——お子さまが「学校で○○があった」と話した時、まず「そうなんだね」「どう感じた?」と気持ちを拾う質問を。事実だけで会話を進めるのではなく、感情の部分を意識的に聞く習慣が、共感の基盤になります
- 自分自身の感情に気づく——一日の中で「今、自分はどんな感情を感じているか」を何度か確認する。自分の感情に名前を付ける習慣が、他者の感情への感度も高めます
- 言葉を選ぶ前の「間」を作る——お子さまが何かを言った後、すぐに反応せず、3秒ほど「間」を作る。その3秒の間に、本人の気持ちを想像し、適切な言葉を選ぶ余裕が生まれます
- 本人の言葉を繰り返す——「リフレクション」。「○○なんだ」「○○って思ったんだね」というシンプルな返し方が、本人に「ちゃんと聞いてもらえている」実感を届けます
- 沈黙を許容する——沈黙は「考えている時間」「気持ちを整理している時間」です。本人が次の言葉を発するまで、ゆっくり待つ姿勢が、深い対話を生みます
よくある質問
Q1.子どもが話してくれません
「話してくれない」ことを責めず、本人のタイミングを待つ姿勢が大切です。話さなくてもいい時間を共有することで、「話す必要のない関係」が築かれ、結果的に話したい時に話してくれるようになります。「話して」と求めることが、かえって本人の口を閉ざすことがあります。
Q2.「大丈夫」と言ってしまった、どうフォロー?
気づいたら、「さっき『大丈夫』って言ったけど、ほんとは大丈夫じゃないかもしれないよね。ごめん」と素直に修復してください。修復の言葉自体が、関係を育てます。完璧でないことを認める姿勢が、本人に「人は間違ってもいい」を教えます。
Q3.沈黙が怖いです
沈黙への耐性は、訓練で育ちます。最初は5秒、次に10秒、徐々に長い沈黙を許容できるようになっていきます。沈黙の中で、自分の呼吸を意識する、本人の表情を観察する、など、自分の意識を整える練習をしてみてください。
Q4.「あなたが大切」を言うのが照れくさい
照れくさい場合は、手紙やメッセージアプリで送る方法もあります。直接言えなくても、書く形で伝えれば、本人にとって同じ価値があります。
Q5.専門家のような対応はできません
専門家のような完璧な対応は、家族には求められていません。「親」としての関わり方で十分です。「分かろうとする姿勢」「沈黙を恐れない」「修復する力」——これらは、専門知識がなくてもできることです。
Q6.同じ失敗を繰り返してしまいます
繰り返すことは、自然です。私も現場に立ち続けている今でも、同じ失敗をします。重要なのは、「失敗に気づく」「修復する」の繰り返しです。完璧を目指すのではなく、少しずつ気づきが深まっていくプロセスを大切にしてください。
Q7.親自身の感情が抑えられない時
無理に抑える必要はありません。「今、私も感情が動いている」と認めて、いったん物理的に離れる(深呼吸する、別の部屋に行く)選択もあります。本人と一緒に感情が爆発するより、距離を取って整える方が、長期的には良い結果につながります。
Q8.子どもが「大丈夫」と言ってきた時
本人の「大丈夫」も、必ずしも本当の「大丈夫」とは限りません。「そう言ってくれてありがとう」と受け取りつつ、「本当に大丈夫じゃない時は、いつでも言ってね」と添えることで、安全弁を作っておきます。
Q9.言葉以外の共感はありますか?
言葉以外も、強力な共感の手段です。一緒に過ごす時間、手を握る、肩に手を置く、隣で同じものを見る、温かい食事を作る、お風呂の温度を整える——日常の中の細やかな行為が、言葉以上に伝わることがあります。言葉での共感が苦手な方は、こうした行動で示す方法があります。
Q10.反抗期の子への共感は?
反抗期は、本人が「自分らしさ」を探す重要な時期です。反抗そのものを否定せず、「あなたが反抗したくなる気持ちもあるんだね」と受け止める姿勢が大切です。距離を取りたい本人の気持ちを尊重しつつ、「いつでも戻ってきていい」という安心の場を維持してください。
Q11.共感しても変わらない時
共感は、即効性のあるものではありません。日々の積み重ねの中で、徐々に本人の心が開いていきます。「すぐに変わらない」と焦らず、長期戦の覚悟で続けてください。同時に、専門家への相談も視野に入れることで、より厚い支援が可能になります。
Q12.自分の親に共感されずに育ちました
自分が共感を経験していない場合、子どもへの共感が難しいことがあります。カウンセリングや書籍を通じて、自分自身の感情も整える時間を持ってください。自分にも共感する練習(「私もしんどかったね」と自分に語りかける)が、子どもへの共感の基盤になります。
今夜これだけ
今夜お子さんが話し始めたら、助言も励ましもせず、最後まで黙って聞いてみてください。何も言わずにそこにいるだけで届くことがあります。
まとめ|失敗があったから、今がある
最後に、もう一度。私は、プロの看護師でありながら、何度も、言ってはいけない一言を口にしてきました。「大丈夫だよ、きっと良くなるよ」「みんなも頑張っているから」「お母さんが落ち込んだら子どもがもっと…」。これらの言葉で、子どもの心の扉が静かに閉まっていくのを、何度も見ました。
でも、失敗があったから、気づけたこともあります。共感は、同じ気持ちになることではなく、相手の気持ちがそこにあると認めること。 何も言わずにそばにいることが、最大の支えになる瞬間があること。 自分の限界を正直に出したほうが、信頼が始まること。 これらは、教科書では学べませんでした。一つひとつの失敗と、そのときに見た子どもたちの静かな表情が、私に教えてくれたことです。
もし今、「うちの子に、何をどう言ってあげればいいかわからない」と悩んでいる方がいたら、どうか自分を責めないでください。完璧な言葉を探すより、「言ってしまった一言」を振り返って、次に生かすほうが、ずっと子どもに届きます。そして、家族だけで抱えきれないときは、スクールカウンセラーや心理士、児童精神科医といった専門家を頼ってください。共感し続けるためには、支える側であるあなた自身が、満たされていることも欠かせません。
私もまだまだ、修行中です。共感は、一日で育つものではありません。年単位、人生単位で育てていくものです。一緒に、少しずつ、子どもに届く言葉を探していけたら嬉しいです。本記事を読んでくださり、本当にありがとうございました。
参考にした公的情報・一次情報
記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。
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著者プロフィール
星野レン(ほしの れん)
2018年4月から看護師として勤務(2か月のブランクあり)。一般病棟勤務を経て、2021年4月から児童思春期精神科病棟に携わっています。「子どものこころの揺れに、言葉でどう寄り添うか」を日々模索中。当ブログでは、現場で出会った子どもたち・親御さんから学んだことを、個人が特定されない形で綴っています。失敗を語ることが、誰かの助けになることを信じて発信しています。
免責事項
本記事の内容は、筆者個人の看護師としての経験と学びに基づくものであり、医学的診断・治療を目的としたものではありません。記事中の事例は、個人が特定されないよう、複数のケースを組み合わせ、年齢・性別・状況等に変更を加えた上で構成しています。お子さまや親御さんご自身の状態について不安や心配がある場合は、小児科・児童精神科・スクールカウンセラー・公的な相談窓口など、専門家にご相談ください。本記事は、専門的な診療・相談の代わりになるものではありません。


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