話すのが苦手な子と筆談で向き合った話|児童精神科看護師が気づいた豊かな内面

子供への声掛け・接し方

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「学校では全然話さないらしい」
「家では普通に話すのに、外では声が出ない」
「人前で話すのが極端に苦手」

お子さんのこうした様子に、戸惑いや心配を感じている親御さんは少なくありません。「話さない子」の内側には、実は豊かで繊細な世界が広がっています。

私は児童思春期精神科の病棟で5年間、多くの子どもたちと出会ってきました。その中には、言葉を発することが難しい子たちもたくさんいました。今日は、ある一人の子との関わりを通して私が気づかされたことを、親御さんにお伝えしたいと思います。

「話さない」の背景にあるもの

子どもが話さない理由はさまざまです。

  • 場面緘黙(かんもく):家では話せるが、学校など特定の場面で声が出なくなる
  • 人見知り・不安の強さ:慣れない相手の前だと声が出せない
  • 発達特性:言葉でのやり取りそのものが苦手
  • トラウマや心の疲れ:過去の経験から話すことを避けている
  • 考えを言葉にするのに時間がかかる:急かされると止まってしまう

どの背景にも共通するのは、「話したくない」のではなく「話せない」ということ。本人が一番、歯がゆい思いを抱えているのです。

病棟で出会った、話せなかった子との関わり

最初は、何もわからなかった

ある時、病棟で話すことが難しい小学生のお子さんと関わる機会がありました。表情の変化も少なく、質問にも首を縦か横に振るだけ。こちらがどれだけ柔らかく声をかけても、言葉は返ってきませんでした。

正直に言うと、最初の数日は「今、どんな気持ちでいるのだろう」「私たちの関わり方は合っているのだろうか」と、手探りの中で戸惑っていました。その子の心の中が、まるで見えない扉の向こうにあるようだったのです。

筆談という選択肢

転機になったのは、筆談を試してみた時でした。ノートとペンを差し出して、「声じゃなくても、書いて教えてくれる?」と声をかけたところ、その子はゆっくりと鉛筆を握り、文字を書き始めてくれたのです。

最初の一言は、とても短いメッセージでした。でも、その数文字が差し出された瞬間、その子の心に小さな扉が開いたように感じました。

見えてきた、豊かな内面

筆談を続けていく中で、その子が本当にたくさんのことを考え、感じていたことが少しずつわかってきました。話さないからといって、内面が静かなわけではない。むしろ、言葉にならない分だけ、心の中には豊かで細やかな世界が広がっていることを、私はその子から教わったのです。

「この子は、こんなに深く考えていたんだ」
「本当はこれだけ、たくさん伝えたかったんだ」
そう気づくたびに、胸が熱くなりました。

話せない子との関わり方で、大切にしたいこと

① 言葉以外の表現手段を用意する

筆談、絵を描く、LINEやメッセージアプリ、表情カード、ジェスチャー。「声だけがコミュニケーションじゃない」という選択肢を持つことで、子どもの世界は大きく広がります。

② 急かさず、待つ

返事をもらうまでに時間がかかっても、焦らず待つこと。沈黙を埋めようとせず、そばにいる時間そのものを大切にします。

③ 「話せないこと」を責めない

「どうして話せないの?」「恥ずかしがらないで」と言うほど、子どもの喉はさらに固くなります。「話せなくても大丈夫。あなたの言葉を、待ってるよ」というメッセージが、何よりの安心感になります。

家庭でできる、話しやすさを育てる工夫

  • 答えなくていい話題を、親が独り言のように話す:返事を求められないと、子どもはリラックスしやすい
  • 並んで話す:正面で向き合うより、散歩や車内など横並びの方が話しやすい
  • 交換日記やメモを活用:声を出さなくても気持ちを伝えられるツール
  • 好きなことを通じて関わる:ゲーム、絵、本など、共通の話題から入る

専門機関への相談を検討したいとき

場面緘黙は、一人で乗り越えるのが難しい特性でもあります。以下のような様子があれば、早めに専門家に相談することを検討してみてください。

  • 学校で半年以上、話すことができない状態が続いている
  • 授業参加や友達関係に大きな支障が出ている
  • 家でも以前より口数が減ってきた
  • 子ども自身が「話せないこと」で苦しんでいる様子がある

相談先には、児童精神科、言語聴覚士、スクールカウンセラー、発達相談窓口などがあります。詳しくはカウンセリングの選び方もご参考ください。

おわりに|声がなくても、心はいつも語っている

話さない子どもを目の前にすると、「何を考えているのかわからない」と不安になることがあります。けれど、筆談で心を開いてくれたあの子から教わったのは、「話せない子どもたちの心の中にも、言葉にならないほど豊かな世界が確かにある」ということでした。

声が出ないのは、心が閉じているからではありません。表現する手段を見つけられていないだけです。親御さんが「声でなくてもいいよ」と示してあげることで、子どもの中にしまい込まれた世界は、少しずつ形になって姿を現してくれます。

今日も、言葉にならない気持ちを抱えているお子さんに、そっと手紙やメモを書いてみてください。返事が戻ってくるまで、少し時間がかかるかもしれません。でも、その静かなやり取りこそが、かけがえのない親子の対話になるはずです。

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