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この記事の要点
- 回復は直線でなく、波を打ちながら進むのが普通です
- 登校日数だけでなく睡眠・食欲・表情・会話量も見ます
- 行けた日の頑張りすぎと、過剰な称賛の反動に注意します
- 食事や睡眠の崩れ、自傷や死にたい発言はすぐ受診します
- 1日1分の3項目メモで波を記録し、支援者と共有します
こんにちは。児童思春期精神科病棟で働く看護師の星野レンです。看護師歴8年、うち児童思春期精神科病棟で5年以上、不登校や登校しぶりのお子さんとご家族に関わってきました。私自身も父親として、わが子の調子の波に心が揺れる感覚は他人事ではありません。
今回は、保護者の方から本当によくいただく質問にお答えします。「先週は2日行けたのに、今週は1日も行けませんでした。また行けた週もあります。これは良くなっているんでしょうか、悪くなっているんでしょうか」。この問いに、現場の看護師としての視点からお答えしていきます。
「行けたり行けなかったり」は、回復の途中でよく見られる姿です
まず結論からお伝えします。「行けたり行けなかったり」という状態は、多くの場合、回復の過程で通る自然な姿です。全く動けなかった時期から見れば、「行けた日がある」こと自体が、エネルギーが少しずつ戻ってきているサインであることが少なくありません。
ただし、ここで大切な前提があります。「波がある=必ず良くなっている」と単純に言い切れるわけでもない、ということです。波の中身をどう見るか、どこに注意すべきか。それを知っておくと、親御さんの一喜一憂はかなり減らせます。この記事では、その「見方」を順番にお伝えします。
病棟で出会う親御さんの多くは、お子さんの調子が上がると期待し、下がると絶望する、というジェットコースターのような日々を過ごしています。それは愛情の深さの裏返しであって、決して責められることではありません。ただ、その揺れ方には出口があります。一緒に整理していきましょう。
回復は右肩上がりの直線ではなく「波を打ちながらの螺旋」です
私たちはつい、回復を「毎週少しずつ登校日数が増えていく右肩上がりのグラフ」でイメージしがちです。しかし現場で見てきた実際の回復は、そういう形をしていません。上がって、下がって、また上がる。行きつ戻りつしながら、長い目で見ると少しずつ上に向かっていく。螺旋階段を登るような形です。
螺旋階段は、横から見ると同じところをぐるぐる回っているように見えます。「また行けなくなった。振り出しに戻った」と感じる瞬間は、まさにこの「横から見ている」状態です。でも上から見れば、一周回って同じ位置に見えても、実際は一段高いところにいる。これが回復の実像に近いと私は感じています。
なぜ波を打つのかというと、お子さんは「行けた日」に想像以上のエネルギーを使っているからです。教室の音、視線、授業、休み時間の人間関係。私たち大人が思う何倍もの緊張の中で数時間を過ごし、電池を使い果たして帰ってきます。翌日や翌週に動けなくなるのは、怠けではなく充電の時間なのです。
ですから「2日行けた翌週に全滅」は、「後退」ではなく「2日分の消耗を回復している週」と読み替えることができます。もちろん全てのケースがそうとは限りませんが、少なくとも「全滅の週=悪化」と自動的に結びつける必要はない、ということをまず覚えておいてください。
「行けた日数」だけを指標にしないでください
親御さんが一喜一憂してしまう最大の原因は、「登校日数」というたった一つの物差しで良し悪しを測っていることにあります。日数は目に見えて数えやすいので、どうしてもそこに目が行きます。しかし回復のサインは、実は日数以外のところに先に現れることが多いのです。
病棟で私たちが観察しているのは、たとえばこんな点です。表情が柔らかくなったか。食事の量や食べる速さはどうか。夜眠れて朝起きられているか。家族との会話が増えたか。好きだったゲームや音楽、趣味への興味が戻ってきたか。笑う回数はどうか。これらは登校日数より先に動く「先行指標」です。
逆に言うと、登校日数は「遅れて動く指標」です。心のエネルギーがある程度たまってからでないと、日数には反映されません。表情や食欲が良くなっているのに日数が増えない時期は、「準備が進んでいる時期」です。ここで焦って背中を押すと、せっかくたまったエネルギーがこぼれてしまいます。
複数の指標で見ると、同じ「全滅の週」でも景色が変わります。「今週は一日も行けなかったけれど、夕飯は完食していたし、妹と久しぶりに笑いながらゲームをしていた」。これは決して悪い週ではありません。日数という一本の物差しを、五本くらいに増やしてあげてください。
親の一喜一憂は、想像以上に子どもに伝わっています
耳の痛い話かもしれませんが、大切なことなのでお伝えします。親御さんの一喜一憂は、言葉にしなくてもお子さんに伝わります。行けた朝の弾んだ声、行けなかった朝のため息、玄関で見送るときの表情。子どもたちは、親が思う何倍も敏感に親の感情を読み取っています。
すると何が起きるか。子どもの中で「学校に行く=親が喜ぶ」「行けない=親を悲しませる」という等式ができあがります。本来「自分のために行くかどうか」を考えるべき場面で、「親をがっかりさせないために行かなきゃ」という動機が混ざってくる。これは回復の妨げになりやすい構図です。
病棟でお子さんたちと話していると、「行けなかった日、お母さんの顔を見るのが一番つらい」という言葉を何度も聞いてきました。責めているわけではないのです。親御さんが悲しむこと自体が、子どもにとって「自分はダメだ」という証拠のように感じられてしまう。そういう仕組みがある、ということです。
だからこそ、この記事でお伝えしている「波は自然なもの」という知識が、親御さん自身のお守りになります。波の仕組みを知っていれば、下がった週にも「想定内」と構えられる。親の表情が安定すると、家の中の空気が安定し、それがお子さんの回復の土台になります。知識は最良の安定剤です。
「行けた日」にこそ潜む2つの落とし穴
意外に思われるかもしれませんが、注意が必要なのは「行けなかった日」より「行けた日」です。落とし穴は2つあります。1つ目は、お子さん自身の「頑張りすぎ」です。久しぶりの登校で、遅れを取り戻そうと一日中気を張り、友達にも先生にも良い顔をして、限界を超えて消耗してしまうケースです。
頑張りすぎた日の後には、大きな反動が来ます。翌日どころか一週間動けなくなることもあります。そして本人は「また行けなくなった自分」を責める。この自責が一番心をすり減らします。行けた日の夜は「よく頑張ったね、明日は休んでもいいからね」と、先に撤退路を用意してあげてください。
2つ目の落とし穴は、親側の「過剰な称賛」です。行けたことが嬉しくて、「すごいじゃない!」「その調子!」「明日も行けるね!」と盛り上がってしまう。気持ちは痛いほど分かります。しかしこの称賛は、お子さんにとって「次も行かないと失望される」というハードルに変わってしまうのです。
おすすめは「淡々と、でも温かく」です。「おかえり。疲れたでしょう」くらいの、行けた日も行けなかった日も大きく変わらない出迎え。評価ではなく、ねぎらい。「行けたこと」ではなく「帰ってきたこと」に声をかける。この一貫した態度が、お子さんにとって一番安心できる環境になります。
現場で出会った、ある親子の「波」の話
以前関わった中学生の女の子の話です。数ヶ月間ほとんど動けない時期を経て、ある週に3日登校できました。お母さんは涙を流して喜ばれました。ところが翌週は一日も行けず、布団から出られない日が続いた。お母さんは「元に戻ってしまった、いや前より悪い」と、診察の待ち時間に泣き崩れてしまいました。
でも、私たちスタッフの見立ては違いました。行けなかったその週、彼女は夜眠れていて、食事も摂れていて、面談では学校の友達の話を自分からしていたのです。数ヶ月前には見られなかった変化でした。「日数はゼロでも、中身は進んでいます」とお伝えし、お母さんと一緒に日数以外の記録をつけ始めました。
その後も波は何度も来ましたが、お母さんは「今週は下がる番かもね」と笑えるようになっていきました。親の構えが変わると、不思議なほど子どもの表情も緩みます。半年ほどかけて、彼女は自分のペースで登校の形を見つけていきました。波は最後までありました。でも、螺旋は確かに上っていたのです。
※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
ここは注意。悪化を疑うべきサイン
「波は自然なもの」とお伝えしてきましたが、すべての波を「様子見でいい」わけではありません。看護師として、これだけは見逃さないでほしいというサインをお伝えします。まず、食事と睡眠の崩れです。食事量が明らかに減り続ける、体重が落ちる、夜眠れず昼夜が逆転したまま戻らない、といった状態が続く場合です。
食事と睡眠は、心の状態を映す最も基本的なバロメーターです。登校の波と違って、生活の土台そのものの崩れは「エネルギーの充電」では説明がつきません。2週間以上続くようなら、登校日数がどうであれ、かかりつけの医師や専門機関に相談するタイミングだと考えてください。
さらに緊急度が高いのは、自傷の痕跡や、「消えたい」「死にたい」「自分なんていない方がいい」といった言葉です。これらは「様子を見る」対象ではありません。速やかに主治医や専門機関につないでください。まだ受診していない場合も、このサインが出たら医療につなぐことをためらわないでください。
「大げさにして本人が嫌がったら」と迷う親御さんは多いです。でも現場から言わせてください。早すぎた相談を後悔した親御さんに、私は会ったことがありません。遅れたことを悔やむ方には何人も会ってきました。迷ったら、相談する。それが正解です。診断や治療の判断は、必ず医師に委ねてください。
波を見える化する「1日1分・3項目メモ」のすすめ
一喜一憂から抜け出す具体的な道具として、記録をおすすめします。といっても、立派な日記は要りません。続かないからです。私が親御さんに提案しているのは、1日1分で終わる3項目のメモです。「睡眠」「食事」「表情・会話」の3つを、それぞれ○△×で付けるだけ。手帳の隅でもスマホのメモでも構いません。
たとえば「睡眠○(0時に寝て8時に起きた)、食事△(朝は食べず、夜は完食)、表情○(夕飯のとき部活の話で笑った)」という具合です。一言添えられれば十分、○△×だけの日があっても大丈夫です。登校したかどうかは、書いても書かなくても構いません。あえて主役にしないのがコツです。
この記録には2つの利点があります。1つは、週単位・月単位で見返したときに「日数は横ばいでも○が増えている」という長期の変化が見えること。渦中にいると分からない螺旋の上昇が、記録には映ります。もう1つは、記録することで親御さん自身の目線が「今日行けたか」から「今日の子どもの状態」へ移ることです。
落ち込んだ週にこそ、1ヶ月前のメモを見返してみてください。「あの頃は×ばかりだったのに、今は△と○が混ざっている」。その発見が、親御さんの心を支える確かな根拠になります。感情は揺れても、記録は揺れません。
学校や支援者との共有は「事実の記録」が武器になります
この3項目メモは、学校や医療機関との連携でも力を発揮します。担任の先生やスクールカウンセラー、主治医との面談で「最近どうですか」と聞かれたとき、記憶だけで話すと、どうしても直近のつらい出来事に引っ張られてしまいます。メモがあれば「ここ1ヶ月の睡眠は安定、食事は波あり」と事実で伝えられます。
学校側に伝えるときのポイントは、「行けない理由の説明」よりも「今の状態と、してほしい配慮」をセットで伝えることです。たとえば「エネルギーをためている時期なので、登校を促す電話は控えてほしい」「行けた日は特別扱いせず普通に迎えてほしい」など。メモという根拠があると、お願いにも説得力が生まれます。
教室への復帰だけがゴールではありません。保健室登校や別室登校、放課後だけの登校など、学校との相談次第で中間的な選択肢を作れることも多いです。詳しくは「保健室登校」という選択でまとめていますので、あわせてご覧ください。
医療機関では、メモはそのまま診察の資料になります。診察室での短い時間、お子さんは「別に」「普通」としか答えないことも多いものです。親御さんの3項目メモは、医師にとって家庭での様子を知る貴重な情報源になります。持参して見せるだけでいいので、ぜひ習慣にしてみてください。
親御さん自身の心を守ることも、支援の一部です
ここまで読んで、「分かってはいるけれど、感情が追いつかない」と感じた方もいると思います。それで普通です。子どもの波に親の心が揺れるのは、止めようがありません。目指すのは「揺れないこと」ではなく、「揺れても戻ってこられる場所を持つこと」です。
具体的には、まず「一喜一憂している自分」を責めないこと。次に、子どもの前で保てなかった表情は、後で取り繕えば十分だと知っておくこと。そして、親御さん自身の睡眠と食事を確保することです。看病する側が倒れたら共倒れです。これは病棟でご家族に必ずお伝えしていることです。
もう一つ、夫婦や家族の中で「観察係」を分担するのもおすすめです。一人で全部を見ようとすると、視野が狭くなり、心も消耗します。「平日の夜は私、週末はあなた」でもいい。抱え込みが続いているなと感じたら、親の疲れSOSチェックリスト10項目で、ご自身の状態も一度確認してみてください。
よくある質問
Q. 波が続いて何ヶ月にもなります。いつまで続くのでしょうか?
正直にお伝えすると、期間は本当にお子さんによって違います。数ヶ月で安定する子もいれば、年単位で波を繰り返しながら少しずつ形を見つけていく子もいます。大切なのは「いつ終わるか」より「波の底が浅くなっているか」「良い時期の中身が豊かになっているか」という変化の質を見ることです。3項目メモを数ヶ月単位で見返すと、渦中では見えない変化に気づけることが多いです。もし半年以上、底が深くなる一方だと感じるなら、支援の形を見直すサインかもしれません。一人で判断せず、主治医や支援機関に記録を持って相談してみてください。
Q. 行けた日に褒めてはいけないのですか?
褒めること自体が悪いわけではありません。問題になるのは「登校という結果」への大きな称賛が繰り返されることです。それは子どもにとって「次も行かないと」という圧力に変わりやすいのです。おすすめは、結果ではなく過程や本人の感覚に触れる言葉です。「今日はどうだった?」「疲れたでしょう、ゆっくりしな」。そして行けなかった日にも同じ温度で接すること。行けた日と行けなかった日の親の態度の差が小さいほど、子どもは安心して自分のペースで挑戦できます。心の中で喜ぶのは大いに結構です。表現をひかえめにする、というさじ加減です。
Q. 「明日は行く」と言った翌朝に行けません。嘘をついているのでしょうか?
嘘ではありません。夜の時点では本心から「行こう」と思っているのです。しかし朝になると、体が動かない。心のエネルギーは時間帯によっても大きく変動し、特に朝は不安が最も高まりやすい時間です。「言ったのに行かない」のではなく「行きたい気持ちと動けない体が同居している」状態だと理解してあげてください。前夜の宣言を翌朝に持ち出して問い詰めるのは避けたいところです。本人が一番、約束を守れなかった自分を責めています。朝の対応については「学校行きたくない」と言われたらも参考になさってください。
Q. 記録を本人に見られたら嫌がられませんか?
その配慮はとても大切です。「監視されている」と感じさせてしまうと逆効果なので、記録は本人の目につかない場所(親のスマホのメモなど)に、淡々とつけるのが基本です。内容も「評価」ではなく「観察した事実」だけにしてください。「今日もダメだった」ではなく「朝は起きられず、夜はカレーを完食」。もし見られてしまったときも、事実だけの記録なら傷つけにくいものです。お子さんが中学生以上で関係が安定しているなら、「心配しすぎないために付けてるんだ」と正直に話して、体調記録として一緒に付ける形に発展するケースもあります。
Q. 下の子や周囲から「ずるい」「甘やかし」と言われます。どう考えればいいですか?
ご家族内のこの問題は本当によく起こります。まず、不登校は甘えや怠けではなく、心のエネルギーが尽きた状態だという理解が土台になります。きょうだいには年齢に応じて「風邪で休むのと同じで、心が疲れて休んでいる」と説明し、同時にきょうだい自身にも個別の時間を意識的に作ってあげてください。親の注目が偏ることへの寂しさが「ずるい」の正体であることが多いからです。祖父母など周囲の大人には、学校や医師から言われている方針として伝えると角が立ちにくいです。詳しくは不登校は甘え?親が知っておくべき本当の理由をご覧ください。
今夜これだけ
今夜、スマホのメモに「睡眠・食事・表情」の3項目を○△×で付けてみてください。今日の登校の有無は、書かなくて大丈夫です。
まとめ
「行けたり行けなかったり」は、多くの場合、回復が止まっている姿ではなく、回復が進んでいる姿です。回復は右肩上がりの直線ではなく、波を打ちながら上っていく螺旋。下がる週は、上がった週の消耗を充電している時間です。登校日数という一本の物差しを手放し、睡眠・食事・表情・会話・興味という複数の窓から、お子さんを見てあげてください。
一方で、食事や睡眠の土台が崩れ続けるとき、自傷や「死にたい」という言葉が出たときは、波として様子を見るのではなく、速やかに主治医・専門機関へつないでください。迷ったら相談する。早すぎる相談に後悔はありません。
そして、揺れる自分を責めないでください。一喜一憂は、お子さんを大切に思っているからこそ起きる揺れです。知識と記録を味方につければ、揺れ幅は必ず小さくなっていきます。波のただ中にいるあなたのペースで、この記事が少しでもお守りになれば嬉しいです。
参考にした公的情報・一次情報
この記事の内容に関連する制度・相談先・健康情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。


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