「ただの怠けだと思ってた」と泣いたお母さん|うつ病だった高校生Iさんの話【児童精神科看護師の体験談】

窓辺の食卓で背を向けて一人で食事をとる思春期の子。食欲や気力が落ちている様子のイメージ 児童思春期精神科の現場から

この記事の要点

  • うつ病だった高校生と、「怠け」と誤解していた母親の記録
  • 思春期のうつは、大人と違って気分より行動に出る
  • 「やる気がない」は意欲の低下という中心症状
  • 好きなことにも関心を示さないのが重要なサイン
  • 2週間以上続く場合は、受診を検討する

これは、児童思春期精神科の病棟で出会った、ある高校生のお子さまを通して教えてもらった話です。本人とご家族の特定を避けるため細部は変え、現場で繰り返し出会った複数のケースを再構成した「典型像」として描いています。

今日お伝えするのは、「ただの怠け」だと数年間誤解されてきた、うつ病のIさん(仮)と過ごした時間のことです。診断がつくまで何年もかかり、その間ご家族と本人の関係はぎくしゃくし、本人自身も「自分はダメだ」と長く苦しんでいたケースです。

「やる気がない」じゃなかった、Iさんの本当の状態

Iさんは中学2年から「朝起きられない」「学校に行きたがらない」「ぼんやりして無気力」と言われ続けてきました。当初は「怠け」「反抗期」「甘え」と片付けられ、家庭でも学校でも本人の苦しさが理解されていませんでした。お母さまも「もっと頑張りなさい」「早く起きなさい」と叱り続け、関係は徐々に冷え切っていきました。

高校進学後、症状は加速。食事が摂れず、起き上がれず、何にも興味が湧かない日が増えました。授業中はぼんやりしてノートも取れず、テストの点数も急降下。最終的に強い希死念慮の発言があり、ご家族が異変に気づいて受診——そこで「うつ病」との診断を受けました。

Iさん本人が後で語ってくれた言葉が、印象的でした。「中2の春くらいから、自分の中で何かが変わった気がしてた。起きるのが本当に辛い、何も楽しくない、頭が動かない。でも、自分でも『これは怠けなのかも』って思って、誰にも言えなかった」。本人自身も、自分の状態を「怠け」と解釈してしまっていた——これが、思春期うつ病の最も悲しい側面の一つです。本人さえ気づけない病気を、ご家族が察知するのはどれほど難しいか。「気づけなかった自分を責めるべきではない」理由が、ここにあります。

「ただの怠けだと思ってた」と泣いたお母さん

診断後の面会で、お母様が涙を流しながら言いました。

「2年も3年も、ただの怠けだと思って叱り続けていたんです。本当はずっと病気で苦しんでいたのに、私が一番分かってあげられなかった」

うつ病の思春期発症は、「反抗期」「怠け」「甘え」と誤解されやすいのが大きな問題です。本人も自分の状態を言語化できず、ご家族も気づきにくい。気づいた時には、何年も経っているケースも珍しくありません。

私は何度かお伝えしました。「気づかなかったことは、責められません。思春期のうつ病は、専門家でも見分けが難しいものです。気づいた今から、一緒に治療を進めていきましょう」。それでもお母さまの自責は簡単には消えず、ご自身もカウンセリングを受け始めたほどでした。

「親の罪悪感」が本人の前で繰り返されると、本人はさらに「自分のせいでお母さんが苦しんでいる」と自責が深まります。だからこそ、ご家族の自責の処理は、本人とは別の場所(カウンセラー、家族会、配偶者)で進めることが大切です。

思春期うつ病とは——基本の理解

うつ病は、気分・思考・行動・身体に幅広く影響する精神疾患です。一時的な落ち込みや疲れとは違い、2週間以上続く症状が日常生活に影響を与える状態を指します。

思春期のうつ病の有病率は、調査により幅がありますが、中学生〜高校生で5〜10%程度とされています。決して「珍しい病気」ではなく、クラスに2〜3人いる程度の頻度で発症しうる、ありふれた病気です。

原因は単一ではなく、生物学的要因(脳内の神経伝達物質のバランス、遺伝的素因)、心理的要因(ストレス、トラウマ、認知パターン)、社会的要因(家庭環境、学校環境、人間関係)が複雑に絡んで発症します。「育て方が悪い」「気の持ちようだ」では片付けられない、脳の病気としての側面が確かにあります。

遺伝的素因について補足すると、「親がうつだから子もうつになる」と単純化はできませんが、家族内で発症リスクが高まる傾向はあります。ご家族にうつの方がいらっしゃる場合、お子さまの状態に早めに気づける利点もあります。「うちは家系的にうつになりやすいかも」と頭の片隅に置いておくだけで、サインへの感度が上がります。

うつ病の思春期サイン

  • 朝起きられない(怠けではなく、覚醒の障害)
  • 食欲の極端な変化(減少 or 過食)
  • 睡眠の質の悪化(眠れない or 寝過ぎる)
  • 興味・関心の喪失(好きだったことが楽しくない)
  • 体の重さ・身体症状の訴え
  • イライラ・反抗として現れることが多い(大人のような「憂うつ」顔は少ない)
  • 「消えたい」「生きてる意味がない」の発言
  • 集中力の低下、成績の急な下降
  • 友達と遊ばなくなる、SNSへの引きこもり
  • 泣きやすくなる、感情のコントロールが効かない
  • 身体症状(頭痛、腹痛、めまい)の頻発

特に大人のうつ病と違うのは、「憂うつそうな顔」ではなく「イライラ・反抗・無気力」として表に出ること。これが「反抗期」と誤解される原因です。

「ふつうの落ち込み」との違いを見分ける目安は、「2週間以上続いている」「日常生活に支障が出ている」「気晴らしや時間で回復しない」「複数の症状が重なっている」の4点です。

大人のうつ病との違い

  • 気分症状の現れ方——大人は「悲しい」「絶望的」と言語化できることが多い。思春期は「イライラする」「ムカつく」など攻撃的な言葉で表現され、本人自身が「自分がうつだ」と気づきにくい
  • 身体症状の比重——思春期は頭痛、腹痛、めまい、倦怠感が前面に出ることが多い。「学校に行こうとすると頭が痛くなる」など、身体の訴えが中心に
  • 反応性と日内変動——思春期は気分の波が激しい。午前中は動けないが夕方は比較的元気、好きなことには反応する——この「気分のムラ」が「怠け」と誤解されやすい
  • 行動への影響——学校に行けない、宿題ができない、成績が急に落ちる、友達と遊ばなくなる、ゲーム・SNSへの引きこもりが増える
  • 希死念慮の現れ方——大人は「死にたい」と直接表現することが多いが、思春期は「消えたい」「いなくなりたい」「眠ったまま起きたくない」など、間接的な表現が多い

思春期では、本人が「死にたい」と直接言わないため、ご家族がサインを見逃しがちです。「明日に期待がない」「未来が見えない」「自分の存在が無駄」というニュアンスの発言があれば、希死念慮の可能性を疑ってください。

この見極めは専門家でも難しい領域です。本人を長年見てきたご家族の方が、医師より気づきやすいこともあります。ご家族の直感を大事にしてください。「いつもと何かが違う」と感じたら、事前にメモを用意して医師に伝える材料にしてください。

他の精神疾患との見分け

  • 双極性障害——うつ状態と躁状態を繰り返す病気。最初はうつ症状で発症し、後から躁が出るパターンも多いです。治療薬が違うので、双極性の見立ては重要です
  • 適応障害——特定のストレス要因に反応してうつ症状が出る状態。「学校に行くと落ち込む、休日は元気」というパターンは、適応障害の可能性があります
  • 不安症(社交不安症など)——「外に出るのが怖い」が主訴で、その結果として無気力・抑うつが出る。不安への治療が中心になります
  • 身体疾患——甲状腺機能低下、鉄欠乏性貧血、慢性疲労症候群など。診断のために、内科的な検査も並行して行うことが必要です
  • 発達障害との並存——ASDやADHDの背景に、二次障害としてうつが乗っているケースも多いです。両方への対応が必要になります

ご家族としては「うつ病」と決めつけず、「専門家にしっかり見立ててもらう」というスタンスで受診してください。

看護師として、私が支えたこと

①生活リズムの土台作り

うつ病の回復は、身体から整えるのが基本。少しずつ起床時刻を一定にし、3食を決まった時間に提供し、軽い運動を導入しました。「気力で頑張る」のではなく、「生活の土台が回復したから、結果として気力が戻ってくる」——この順番が重要です。気合や根性で動かそうとすると、本人が「自分はダメだ」と感じる回路がさらに強化されてしまいます。

  • カーテンを開けて朝日を浴びる——光がセロトニンの分泌を促し、生体リズムを整えます
  • 食事は無理なく、少量ずつ——食欲がない時は、フルーツやヨーグルトなど軽いものから
  • 軽い運動を5〜10分——廊下を歩く、ストレッチをするだけでも効果があります
  • 夜のスマホを制限——21時以降は画面を見ない時間を作って、睡眠の質を整えます

これらは家庭でも応用できます。「ちゃんと起きて」「ちゃんと食べて」と言うのではなく、「朝のカーテンを開ける」「美味しそうな食事を出す」「夕食後に一緒に散歩する」——環境からの働きかけが、本人の体内時計を整えます。

②薬物療法への支援

思春期のうつに使われる代表的な薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。フルボキサミン、エスシタロプラム、セルトラリンなどが使われます。効果が出るまでに2〜6週間かかり、最初の数週間は副作用(吐き気、めまい、不眠など)が出やすいので、慎重な観察が必要です。

看護師としては、「朝の調子」「食欲」「睡眠」「気分の波」を毎日記録し、主治医に伝える役割でした。

薬への抵抗感を持つご家族は多いです。「子どもに薬なんて」「依存しないか」——これらは自然な心配です。でも、適切な治療を受けずに長期化したうつは、本人の人生にもっと大きな影響を残します。薬は「性格を変える」ものではなく、「うつ症状を軽くして治療を進めやすくする」もの。主治医に納得いくまで質問して、判断してください。

③「治療している」を本人にも家族にも伝える

うつ病は「気力で治る病気ではなく、医学的治療で治る病気」。これを本人にもご家族にも繰り返しお伝えしました。「あなたが弱いんじゃない、病気だから」「治療すれば必ず楽になる」というメッセージは、本人の自己否定を和らげる大切な薬になります。

「あなたが頑張れないのは、あなたの性格のせいではない。脳の不調が、頑張る力を奪っているだけ」と明確に伝えてもらえると、本人はホッとした表情を見せます。繰り返し伝えられることで、本人の中の「自分はダメだ」という思い込みが、徐々に揺らぎ始めるのです。

3ヶ月後の、Iさんの変化

入院から3ヶ月。Iさんは少しずつ朝に起きられるようになり、食事を摂れるようになり、本を読む時間が戻ってきました。退院前、Iさんが言いました。

「自分のことを『怠け』だって思ってたんです。お母さんも先生もそう言ってたから。『病気』って言われて、初めて自分を許せた気がする」

診断は「ラベル」ではなく、本人を救う鍵になることもある。「うつ病」と診断されることで、初めて「自分が頑張れなかったのは病気のせいだった」「自分はダメな人間じゃなかった」と、本人が自分を許せるようになる——これは、現場で何度も見てきた、診断の持つ救いの力です。

退院から半年後の外来で会ったIさんは、軽く笑顔も見せてくれるようになっていました。「中2の自分に、『あなたは怠けじゃない、病気だよ』って言ってあげたい」と話してくれました。お母さまも、カウンセリングを続け、地域の家族会にも参加。「私が元気でいることが、Iの支えになると、最近やっと信じられるようになった」——お母さま自身の歩みも、本人の回復と並行して進んでいました。

サインに気づくチェックリスト

これは診断ツールではありませんが、専門家に相談すべきかどうかの目安として使えます。

  • 朝起きるのが極端に辛そうで、午前中はぼんやりしている
  • 食欲が極端に減った、または増えた(体重の変化も)
  • 夜眠れない、または寝過ぎる
  • 以前好きだったこと(ゲーム、動画、好きな食べ物)に興味が薄い
  • イライラ・反抗が以前より明らかに増えている
  • 頭痛・腹痛・めまい・倦怠感を頻繁に訴える
  • 集中力が落ち、宿題やテストの成績が急に下がった
  • 友達と遊ばなくなった、SNSへの引きこもりが増えた
  • 「死にたい」「消えたい」「いなくなりたい」と発言した
  • 泣きやすくなった、感情のコントロールが効かない
  • 身だしなみに気を遣わなくなった/表情が乏しくなった

これらのうち3つ以上が2週間以上続いている場合は、児童精神科・小児科への相談を検討してください。「念のため」のスタンスで構いません。早期受診が、回復までの時間を短くします。

特に「死にたい」「消えたい」の発言があった場合は、他のサインの数に関わらず、すぐに専門家に連絡してください。緊急時の窓口(よりそいホットライン 0120-279-338、24時間無料)も活用できます。本人を一人にしない、危険物を遠ざける、可能なら一緒に医療機関へ——「最初の動き」が、後の経過を大きく変えます。

並存する症状への対応

  • 不登校との並存——うつが原因で学校に行けなくなる、または学校に行けないストレスでうつが深まる。1年半学校に行けなかった中学生Fさんの話もあわせてご覧ください
  • 自傷行為との並存——うつの苦しさを処理するために自傷を始めるケース。制服の長袖の下にあったDさんの傷もご参考に
  • オーバードーズ(OD)との並存——苦しさが極まり、市販薬の大量服薬に至るケース。市販薬の大量服薬で運ばれてきた高校生Gさんの話もご参照ください
  • 摂食障害との並存——食欲が極端に変化し、神経性やせ症や過食症に発展するケース
  • 不安症との並存——うつと不安は症状が重なる部分が多く、両方を抱えるケースが半数以上とも言われています

並存症状がある場合の治療では、優先順位を主治医と話し合います。「命に関わる症状(希死念慮、自傷、ODなど)から優先的に対応」「並行して進められる症状は同時に」——こうしたアプローチが現場での標準です。一つの病気だけ治して終わり、というケースの方が、むしろ少ないのが現実です。

心理療法という選択肢

  • 認知行動療法(CBT)——うつのパターンに陥った思考(「自分はダメ」「未来はない」)を徐々に修正していく療法。思春期にも適応されており、効果が確認されています
  • 対人関係療法(IPT)——人間関係の中で起こる出来事と、うつ症状の関連を整理する療法。何が症状を悪化させ、何が支えになっているかを一緒に考えます
  • マインドフルネスベースの療法——「今、ここ」に意識を向けるトレーニング。反芻思考(同じことをぐるぐる考えてしまう)を減らす効果があります
  • 家族療法——ご家族も含めて行うセッション。家族のコミュニケーションパターンを見直し、本人を支える環境を一緒に整えます。Iさんのケースでも大きな役割を果たしました

心理療法は、本人の主体的な取り組みがあって初めて効果が出ます。本人がやる気になる時期を待ち、無理に押し付けないことが大切です。最初の数回は「心理士と話してみる」だけで十分。ご家族としては、「今日のカウンセリング、どうだった?」と詮索せず、本人が話したくなったら話を聴く——というスタンスが、本人の主体性を尊重する関わりです。

うつ病の脳科学——「気合」では治らない理由

うつ病では、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが崩れていることが知られています。これらは気分・意欲・睡眠・食欲・集中力に関わる物質で、バランスが崩れると、本人がどれだけ「頑張ろう」と思っても、身体や心が言うことを聞きません。

また、脳の海馬という記憶や感情を司る部位が、うつ病で機能低下を起こすことも分かっています。これが「集中できない」「物事を覚えられない」「楽しさを感じられない」症状に繋がります。治療によって海馬の機能は回復していくので、「治っていないように見える時期」もあるけれど、長期的には改善が期待できます。

つまり、うつ病は「脳の病気」です。心の弱さや甘えではなく、脳の機能不調。風邪を引いて熱が出ているのに「気合で治せ」と言う人はいないように、うつ病に「気合で治せ」と言うのは無理筋なのです。

ストレスとの関係も補足します。長期間の強いストレスは、脳の神経伝達物質のバランスを崩しやすく、うつ病の引き金になります。「ストレスがあったからうつになった」のではなく、「ストレスがきっかけで、脳が病的な状態になった」と理解してください。原因と病気は別のものとして捉えることで、治療への向き合い方が変わります。

家族の関わり方の調整

  • 「頑張れ」を控える——すでに頑張ろうとして頑張れない状態です。代わりに「無理しないで」「今日は休んでていいよ」と、休む許可を伝えてください
  • 小さな「できた」を一緒に喜ぶ——「朝起きられた」「ご飯食べられた」は大きな達成です。「すごい」ではなく「お疲れさま」「えらかったね」と労う言葉
  • 「治って当たり前」と思わない——回復には数ヶ月〜数年かかります。「もう治った?」というプレッシャーは、回復を遅らせます
  • 「死にたい」を否定しない——「そんなこと言わないで」と封じるのではなく、「そう感じるほど辛いんだね」と受け止める。否定すると、本人は次から言葉にできなくなります
  • 自分の感情は別の場所で処理する——本人の前で「親が泣く」のは、本人の罪悪感を深めるので避けてください
  • 「治る」を信じる——ご家族が「もう治らないかも」と諦めると、その雰囲気が本人にも伝わります
  • 本人の小さな主体性を尊重する——本人が小さく動き出したら、過剰に喜ばず「いいね、行ってきな」とサラッと受け止める。親が大喜びすると、それがプレッシャーになって次は動きにくくなります

「家族の言葉かけ」NG集とOK集

  • NG:「気の持ちようだよ」/本人を否定するメッセージに → OK:「これは病気の症状だね、治療で良くなるよ」
  • NG:「頑張れ」「もっと頑張って」/すでに頑張っている本人を追い詰める → OK:「無理しないで、今日は休んでいいよ」
  • NG:「みんなも辛いよ」/苦しみを矮小化し、より閉じさせる → OK:「あなたが今、辛いのは分かるよ」
  • NG:「学校くらい行きなさい」/うつ病の本人にとって登校は大事業 → OK:「今日はどうする?無理せず決めていいよ」
  • NG:「私が悪かったの?」/親の自責を本人にぶつけると追い詰めます → OK:「これからは一緒に治していこう」
  • NG:「いつまでこんな状態なの?」/本人にも分からないことを問い、焦りを増やす → OK:「ゆっくり治していこう、急がなくていい」
  • NG:「もう大人なんだから」/責任を負わせる言葉 → OK:「いつでも頼っていいんだよ」

毎日完璧に実践できなくてもいいのです。「つい昔の言葉が出てしまった」日もあります。でも、翌日また新しい言葉を選び直せばいい——この継続が、本人にとっての家の安全性を育てます。

学校との連携

担任・養護教諭・スクールカウンセラーに伝える基本情報は、「うつ病で通院中」「主治医と治療を進めている」「現在は症状の波があり、学校での状態が変動しうる」。詳細を全教員に共有する必要はなく、必要最小限の情報を、必要な人に伝えるスタンスで。

  • 遅刻・早退の柔軟化(朝の症状が重い時の対応)
  • 保健室・別室での休憩を許可
  • 体育や部活の負荷軽減
  • 定期テストの別室受験や時間延長
  • 提出物の締め切り柔軟化
  • 修学旅行・遠足の参加・不参加の柔軟性
  • 緊急時の連絡先の共有

うつ病のお子さまは調子の良い日と悪い日の波が激しいので、「全日出席」を求めず、「波に応じて柔軟に参加」できる仕組みを学校と相談してください。長期化して学校復帰が難しい場合は、通信制高校、定時制、サポート校、フリースクールなど別の学びの場も検討を。「元の学校に戻る」だけがゴールではありません。

きょうだい・夫婦・祖父母への配慮

きょうだいへの説明は年齢に応じて。「お兄ちゃんは今、心の病気で治療中。ゆっくり休んで、お薬で治していくよ。あなたも何か困ったことがあったら教えてね」。そして「きょうだいだけの時間」を意識的に作ること。きょうだいに「ちゃんとしていて偉い」と言うのは、プレッシャーになるので避けます。きょうだいはきょうだいで、本人の埋め合わせをする必要はありません。

夫婦の温度差——「もっと厳しくしたら治る」と父親が言い、「無理させたら悪化する」と母親が言う。揃えておきたい最低限の方針は3つ。「うつは病気として治療する」「頑張れと言わない」「専門家の見立てを尊重する」。

祖父母世代との温度差——「私たちの時代はうつなんてなかった」という言葉が、ご家族を追い詰めます。「最近、心の病気で治療しているんです。専門家と連携しているので、見守ってもらえると助かります」程度のお願いベースで。理解が得られないときは無理に説得せず、「祖父母との関係修復」より「本人の治療と安全」を優先してください。

親自身のセルフケア

「気づけなかった自分への自責」「治療がいつ終わるか分からない不安」「本人の波に振り回される疲弊」「夫婦間の温度差」——これらが長期化すると、ご家族自身がうつになるリスクもあります。

セルフケアの基本は、「自分の生活リズム」「自分の楽しみ」「同じ立場の人との繋がり」「専門家とのカウンセリング」の4つ。「子どもがうつなのに、自分が楽しんでいいのか」という罪悪感を持つ方が多いですが、ご家族が無事でいることが、本人を支える土台です。「自分のケアは、子どもへの投資」と捉えてください。

ご家族自身がうつになってしまうケースも、現場ではよく見られます。これは決して恥ずかしいことではなく、ご家族自身も心療内科やカウンセリングで治療を受けることが大切です。ご家族のうつが治ると、本人への関わりも改善し、結果として本人の回復も加速します。

深夜に不安が強くなる方は、24時間対応の電話相談やチャット相談を予め知っておくと安心です。読書する余裕がない時期には、耳で聴く育児書を家事や移動中に流す方法もあります。

入院を考えるタイミングと退院後の生活設計

  • 強い希死念慮があり、自殺企図のリスクが高い
  • 食事が摂れない、極端な体重減少がある
  • 生活リズムが大きく崩れて、外来通院だけでは整わない
  • 家庭でのケアが困難(家族の疲弊、家庭環境のストレス)
  • 外来治療で十分な効果が得られない/薬物療法の調整が必要

入院は「家庭の失敗」ではなく、「集中的な治療と休養の場」です。本人にとっては「治療に集中できる場」、ご家族にとっては「介護負担から一時的に解放される場」——どちらにも意義があります。費用については、自立支援医療、子ども医療費助成、高額療養費制度など利用できる制度があり、病院の医療相談員(MSW)が案内してくれます。「お金の心配で入院を諦める」前に、まず相談してみる価値があります。

退院後の生活については、退院前に家族と医療者で次の点を確認しておくと安心です。具体的な期間や管理方法は、本人の状態に合わせて主治医と決めてください。

通院のスケジュール家での生活リズム学校との連携を確認します。学業の遅れを急いで取り戻すことより、安全に生活できることを優先します。

薬の管理は主治医の指示に従います。希死念慮などのリスクが残る時期の見守り方も、家族だけで判断せず医療者へ確認してください。

楽しみの時間と友人関係は本人のペースを尊重します。誰に何を伝えるかも、可能な範囲で本人と相談して決めます。

退院初期は、病院と家庭のギャップで本人が不安定になりがちです。「病院ではできていたのに、家ではできない」と焦りますが、これは想定内の経過です。焦らず、外来主治医と相談しながら進めてください。

長期的な見通しと再発予防

思春期うつ病は、治療や環境調整によって症状が和らぐ可能性のある病気です。回復までの期間や経過には個人差があります。ただ、再発のリスクが一定程度あり、長期的なフォローが大切です。

  • 薬の自己中断をしない——症状が落ち着いても、主治医の指示に従って一定期間(多くは6ヶ月〜1年)服薬を続けます
  • 生活リズムを維持する——朝起きて夜眠る、3食食べる、運動を続ける
  • ストレスへの対処法を持つ——心理療法で学んだスキルを継続して使うことで、波が来ても乗り越えやすくなります
  • 定期的なフォローアップ——再発の兆候を早期に捉えて対処できる体制を作っておきます
  • ライフイベントへの備え——進学、就職、引越し、家族の死別など、大きなイベントは再発リスクを高めます。事前に主治医と話し合いを

再発しても、それは「失敗」ではありません。「以前の経験を踏まえて、より早く対応できる」と捉えてください。前回どこに受診したか、効いた薬は何か——これらの記録を、お薬手帳や治療記録ノートで家族が共有しておくのが、現実的な備えです。

回復のステージは、①診断と治療開始(数週間〜数ヶ月)、②症状の軽減(数ヶ月〜半年)、③日常生活への復帰(半年〜1年)、④寛解と再発予防(1〜2年)、⑤自己理解と成長——という流れをたどります。途中で波が来て後戻りすることもありますが、それも回復の一部。「直線的に上がる」のではなく、「波打ちながら長期的に上がる」イメージで。

そして、うつ病の経験を経て、本人がそれまでより深い自己理解を持つことも、現場で何度も見てきました。「自分はどんな時に追い詰められるか」「どう対処すれば乗り越えられるか」「誰に頼れば助けてもらえるか」——これらは、うつ病以前にはなかった本人の財産です。

受診・相談の目安と緊急連絡先

  • 気分の落ち込み・無気力が2週間以上続く
  • 食事・睡眠・登校に支障
  • 「消えたい」「生きてる意味がない」の発言
  • 家族から見て「普段と全然違う」と感じる
  • 身体症状の訴えが続くが検査で異常がない
  • 成績の急な下降、友達との関係が極端に減る
  • 自傷行為や過量服薬の兆候

該当があれば児童精神科・小児科・心療内科へ。緊急性がある場合(強い希死念慮等)は救急受診も検討してください。初診まで1〜3ヶ月待ちのことが多いので、「まだ大丈夫」と感じる段階で予約だけしておくのが現実的です。

  • 救急(119):自殺企図・意識レベルの変化
  • いのちの電話:0570-783-556(10〜22時)/無料のフリーダイヤルは0120-783-556(毎日16〜21時、毎月10日は8時〜翌朝8時)
  • よりそいホットライン:0120-279-338(24時間、無料)
  • こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
  • チャイルドライン:0120-99-7777(18歳までの子ども向け)
  • 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310
  • あなたのいばしょチャット相談:webサイトから24時間チャット
  • 精神科救急情報センター:各都道府県に設置

よくある質問

Q1. 子どものうつのサインは

朝起きられない、食欲・睡眠の変化、無気力、興味の喪失、イライラ・反抗、身体症状、「消えたい」の発言——これらが2週間以上続くなら、うつの可能性を視野に。本人の様子の細かい変化を観察日記のように記録しておくと、医師に伝えやすくなります。

Q2. 受診を嫌がります

まずご家族だけで初診相談に行ってみてください。多くのクリニックで「家族相談」を受け付けています。ご家族の関わりが変わることで本人の状態が変化し、後に本人が受診を受け入れることもあります。

Q3. 薬が怖いです

主治医に「効果」「副作用」「服用期間」「やめる時の方法」を尋ねて、納得して始めることが大切。薬は「性格を変える」ものではなく、「うつ症状を軽くする」もの。心理療法と組み合わせることで、相乗効果が生まれます。

Q4. 学校はどうしますか

症状と本人の希望に応じて。無理に行かせず、波に合わせて柔軟に対応するのが現実的です。学校には「うつ病で治療中」と伝えて、合理的配慮をお願いしてください。

Q5. 「死にたい」と言われたら

「そんなこと言わないで」と封じない。「そう感じるほど辛いんだね」とまず受け止める。そして、できるだけ早く専門家に連絡を。緊急時は救急(119)、夜間でも繋がる相談窓口(よりそいホットライン 0120-279-338)を活用してください。

Q6. 親も辛いです

当然です。ご家族自身も、心療内科やカウンセリングで自分の心をケアしてください。「親が無事でいる」ことが、本人を長期的に支える前提です。

Q7. 治るのにどれくらいかかりますか

治療後の経過には大きな個人差があります。症状が軽くなるまでに時間がかかる場合や、調子の波を繰り返す場合もあります。期間を一律に決めつけず、主治医と経過を確認しながら支援を続けてください。

Q8. 再発しないか心配です

再発リスクはありますが、適切な再発予防(薬の継続、生活リズム、ストレス対処、定期フォロー)で、リスクを大きく下げられます。再発しても、以前の経験を踏まえて早く対応できるので、過度に恐れず、できる備えを続けてください。

今夜これだけ

今夜は「やる気がない」と見えている行動が、いつから続いているか思い返してみてください。二週間を超えているなら、受診を考えるタイミングです。

まとめ|「怠け」じゃなく「病気」かもしれない

Iさんが教えてくれたのは、「病気だと知ることが、本人を救うこともある」という事実でした。「怠け」「反抗期」と片付けられている時間は、本人が一番苦しんでいる時間でもあります。2週間以上続く変化は、ぜひ専門医に相談してください。診断がついて治療が始まることで、本人もご家族も「戦うべき相手」がはっきりします。

ご家族へお伝えしたいことを整理します。①「怠け」と「うつ」は見分けにくい——違いは、本人の中に「やりたい気持ちはあるが、体が動かない」という乖離があるかどうか。②受診を躊躇しない——「うちの子に限って」と先延ばしになりがちですが、症状が生活に影響している場合は、早めに専門家へ相談することが勧められます。③親の「ごめん」が回復の起点になることも——「気づいてなくて、ごめんね」「これからは一緒に治していこう」、それだけで本人の心の何かが緩み始めます。

Iさんは、その後、通信制高校に転校してマイペースで卒業し、専門学校で看護を学ぶ道を選びました。「自分が辛かった経験を、誰かの役に立てたい」というのが、進路選択の動機だったそうです。うつ病の経験を、人生の財産に変えた——退院から数年後、お母さまから届いた手紙の中の言葉です。

気づくのが遅かったとしても、責める必要はありません。今日からでも、ここからでも、回復への第一歩は踏み出せます。お子さまの様子をいつもより少し丁寧に観察してみる、「最近、調子どう?」と短く声をかけてみる、専門家への予約を取ってみる——どれか一つでも始められれば、それが回復への第一歩です。小さく始めて、続けてください。

参考にした公的情報・一次情報

記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。

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著者プロフィール

星野レン(ほしの れん)
2018年4月から看護師として勤務(2か月のブランクあり)。2021年4月から児童思春期精神科病棟に携わっています。感情障害、不登校、発達障害、思春期のメンタル不調を抱えるお子さまとご家族のケアに従事。現場で得た知見を、家庭で応用できる形で発信しています。本記事のような体験談は、特定のお子さまの単独エピソードではなく、現場で繰り返し出会ったパターンを再構成した「典型像」として描いています。ご家族が「うちの状況と重なる」「このセリフ、聞いたことがある」と感じる部分があれば、書いた意味があったと感じます。


免責事項

本記事は児童思春期精神科での臨床経験をもとにした体験談で、特定のお子さま・ご家族の事例を直接記したものではありません。複数の現場経験を再構成し、本人および関係者が特定できない形に配慮して執筆しています。医療的な診断・治療方針を示すものではありません。お子さまの状態に応じた最適な対応は、必ず主治医・専門家とご相談の上で決定してください。本記事の内容は一般的な情報であり、個別の症例に対する医療的アドバイスを構成するものではありません。希死念慮など緊急性のある状況には、必ず医療機関や緊急連絡先をご活用ください。薬剤名や治療法に関する情報は一般的な紹介であり、個別の処方については必ず主治医の指示に従ってください。

【医療に関する免責事項】

本記事は、児童思春期精神科での看護経験に基づいた一般的な情報提供を目的としています。医療行為・診断・治療の代わりとなるものではありません。お子さんの心身の状態にご不安がある場合は、必ず主治医・かかりつけ医・スクールカウンセラー・地域の相談窓口など、お子さまを直接見ることのできる専門家にご相談ください。詳細は免責事項をご確認ください。

🌙 つらいとき、ひとりで抱えないでください
お子さん本人も、親御さんも使える相談窓口です(無料・匿名OK)。
#いのちSOS:0120-061-338(24時間365日)
よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(24時間)
チャイルドライン(18歳まで):0120-99-7777(毎日16〜21時)
児童相談所相談専用ダイヤル:0120-189-783(24時間)/虐待の心配は189
命に関わる危険があるときは、ためらわず119番へ。
出典:厚生労働省「まもろうよ こころ」(2026年7月確認)
児童思春期精神科の現場から
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