子どもが嘘をつく・物を盗るとき|背景にある心理と家庭での対応【精神科看護師が解説】

リビングでうつむいて手を後ろに組む男の子と、責めずにしゃがんで目線を合わせる母親。嘘や物を隠したときの対応のイメージ 保護者向け

この記事の要点

  • 嘘や盗みは、成長の過程で起こることがある
  • 「うちの子に限って」と動じるのは自然な反応
  • 叱責より、なぜそうしたかを聞く順序が大事
  • 背景に不安・満たされない気持ちがあることが多い
  • 繰り返す・金額が大きい場合は専門機関へ相談を

我が子が嘘をついた、あるいは物を盗ってしまった——。その事実に気づいたとき、多くの親は強いショックを受けます。「うちの子に限って」「育て方が間違っていたのか」「このままだと将来、悪い道に進んでしまうのでは」。不安と動揺で、つい感情的に叱りつけてしまうこともあるでしょう。けれど、子どもの嘘や盗みには、その奥に伝えたい気持ちや満たされない思いが隠れていることがあります。

児童思春期精神科の現場でも、嘘や盗みをきっかけに相談につながる子どもは少なくありません。そして関わるなかで見えてくるのは、その行動そのものよりも、行動の背景にある心の状態に目を向けることの大切さです。この記事では、子どもの嘘・盗みの背景にある心理と、家庭でどう関わればよいのかを、できるだけ具体的にお伝えします。

嘘・盗みに動揺するのは、自然なこと

まず、お伝えしたいことがあります。我が子の嘘や盗みに直面して、動揺したり、怒りや悲しみを感じたりするのは、ごく自然な親の反応です。それだけ真剣に子どもの将来を考えている証拠であり、自分を責める必要はまったくありません。

ただ、その動揺のままに行動すると、対応を誤ってしまうことがあります。強い叱責や問い詰めは、その場では効果があるように見えても、子どもの心を閉ざし、かえって嘘や隠しごとを増やすことにつながりかねません。だからこそ、まずは親自身が一度深呼吸をして、気持ちを落ち着けることが大切です。怒りに任せて爆発させてしまうと、子どもは心を閉ざし、本当の気持ちを話せなくなります。「何かあったんだな」と捉える——この一拍が、その後の関わりを大きく変えます。

子どもの嘘や盗みは、ほとんどの場合、その子が「悪い子」だから起こるのではありません。何かに困っていたり、満たされない気持ちを抱えていたり、どうしていいか分からなかったりした結果として現れる行動です。表面的な行動を罰するのではなく、その奥にある心を理解しようとする姿勢が、解決への第一歩になります。

実際、嘘や盗みをきっかけに、親子の関係が見直され、より深まっていく例は少なくありません。子どもの行動に込められた本当の気持ちに気づき、関わり方を変えることで、子ども自身も「分かってもらえた」と感じ、変化していきます。ピンチは、関係を結び直すチャンスでもあるのです。

成長の過程としての「嘘」

意外に思われるかもしれませんが、子どもが嘘をつけるようになるのは、実は発達の証でもあります。嘘をつくには、「相手は自分とは違うことを考えている」「事実と違うことを言えば相手はそう信じる」という、高度な心の働きが必要です。これは「心の理論」と呼ばれる能力で、おおむね4歳前後から育ってきます。

つまり、子どもが初めて嘘をついたとき、それは「悪いこと」であると同時に、その子の知能や社会性が育っている証拠でもあるのです。もちろん嘘を推奨するわけではありませんが、「嘘をつく=悪い子」と短絡的に捉える必要はない、ということは知っておいてください。

もう一つ知っておきたいのは、嘘をつくこと自体は、人間誰しもがするものだという点です。大人だって、相手を気遣う社交辞令や、その場を丸く収めるための小さな嘘をつきます。大切なのは、嘘をゼロにすることではなく、嘘との付き合い方を教えていくこと。親の役割は、嘘を完全に封じることではなく、正直であることの心地よさを伝えていくことです。

心配のいらない嘘と、サインかもしれない嘘

心配のいらない嘘とは、空想を交えた話、その場の思いつき、ちょっとした見栄など、一時的で害の少ないものです。「昨日、恐竜を見たんだよ」といった空想や、「宿題やったよ」というその場しのぎの小さな嘘。これらは成長の過程でよく見られ、深刻に捉えすぎる必要はありません。

一方、注意して見たほうがよいのは、次のような場合です。

  • 嘘が頻繁で常習化している
  • 嘘をついてまで何かを隠そうとする
  • 嘘の内容が深刻
  • 嘘をついても罪悪感がないように見える

こうした嘘の背景には、強いストレスや不安、満たされない思い、あるいは助けを求める気持ちが隠れていることがあります。見極めのポイントは、嘘の「回数」と「背景」。嘘が生活の一部のようになっている場合は、その子が何かに困っているサインかもしれません。

頻度を見るときは、その子の生活全体の様子もあわせて見てみてください。元気に過ごせているか、食欲や睡眠は安定しているか、笑顔はあるか。嘘が増えていて、なおかつ全体的に元気がない場合は、心が疲れているサインかもしれません。まずは、なぜその嘘が必要だったのかを考える。その背景が見えてくると、責めるのではなく、支える関わりへと自然に切り替わっていきます。

年齢別に見る「嘘」の意味

幼児期(3〜6歳ごろ)の嘘は、多くが空想と現実の混同や、その場の願望の表れです。「やってない」「知らない」という嘘も、叱られたくない一心からで、悪意はほとんどありません。この時期は、嘘そのものより、正直に言える安心感を育てることが大切です。

学童期(小学生)になると、嘘はより意図的になります。怒られたくない、よく見られたい、約束を守れなかったことを隠したい。嘘の理由を理解しつつ、正直であることの大切さや、嘘がもたらす結果について、少しずつ伝えていく時期です。

思春期になると、嘘は自立や自己防衛の側面を帯びてきます。プライバシーを守りたい、干渉されたくない、という気持ちから、親に話さない・ごまかすことが増えます。これはある程度自然な発達ですが、深刻な問題を隠すための嘘には注意が必要です。頭ごなしに問い詰めるより、話せる関係を保つことが鍵になります。

年齢が上がるにつれて、対応も「教える」から「信頼を保つ」へと比重が移っていきます。どの年齢でも共通するのは、嘘を通して子どもが何を伝えようとしているかを見ること。一般論と、目の前の我が子の両方を見ることで、より的確な関わりができるようになります。

なぜ子どもは嘘をつくのか

嘘の動機はさまざまですが、多くは「自分を守りたい」「認められたい」「困った状況から逃れたい」といった、ごく人間的な気持ちから来ています。

「怒られたくない」防衛の嘘

最も多いのがこのタイプです。正直に言えば叱られると分かっているから、とっさに「やってない」と嘘をついてしまう。裏を返せば「親に怒られたくない」「がっかりされたくない」という、親を大切に思う気持ちの表れでもあります。

この種の嘘が多い背景には、家庭の中で「失敗すると強く叱られる」という経験があることが少なくありません。皮肉なことに、嘘を厳しく罰するほど、子どもはより巧妙に嘘をつくようになります。

悪循環を断ち切るには、「正直に話しても大丈夫」という安心感を育てることが必要です。失敗を打ち明けたときに、頭ごなしに叱るのではなく、「正直に話してくれてありがとう」とまず受け止める。そのうえで、どうすればよかったかを一緒に考える。「正直に言えたこと」は認めたうえで、「やったこと」については冷静に向き合う。この二つを分けて扱うことで、子どもは正直でいることのほうが安心だと学んでいきます。

たとえば、子どもが花瓶を割って正直に話したとします。ここで「なんで割ったの!」と叱るのではなく、「正直に話してくれてありがとう。次は気をつけようね。一緒に片付けよう」と関わる。この積み重ねが、嘘の必要のない関係を育てます。

「認められたい」願望の嘘

実際にはやっていないことをやったと言う、できないことをできると言う。こうした嘘は、自分を大きく見せたい、注目されたいという気持ちの表れです。背景にはありのままの自分への自信のなさがあることが多く、とくにふだんあまり褒められていない子や、きょうだいと比べられている子に見られやすい傾向があります。

このタイプには、嘘を責めるよりも、その子のありのままを認める関わりが効果的です。「嘘でしょう」と否定するのではなく、「そう思われたかったんだね」と気持ちを汲みつつ、本当のあなたも素敵だよ、と伝える。また、「すごいね」という結果への評価だけでなく、「あなたがいてくれてうれしい」という存在への肯定を。誇張ではない、本当の良いところを具体的に認められると、子どもは嘘で自分を大きく見せる必要を感じなくなっていきます。

空想と現実が混ざる嘘(幼児期)

「お部屋に大きなライオンがいたの」といった話を、本当のことのように生き生きと語る。これは嘘というより、豊かな想像力の表れであり、発達上ごく自然なものです。この時期の子どもは、まだ空想と現実の境界が明確ではなく、本人には嘘をついている自覚がないことも多いので、これを「嘘つき」と叱るのは適切ではありません。

頭ごなしに否定せず、「へえ、ライオンがいたんだ、大きかった?」と話を聞きつつ、必要に応じて「お話の世界では楽しいね。でも本当のお部屋にはいないね」と、やんわり現実との違いを伝えていきます。幼児の空想の話は、その子の内面を知る手がかりにもなります。妖精と遊んだという話の裏に、友だちと遊びたい気持ちがあるかもしれません。

嘘をつかれたときのNG対応

  • 感情的に激しく叱りつける——子どもは恐怖で萎縮し、ますます正直に話せなくなります。嘘を厳しく罰するほど、嘘は巧妙になり、隠れていきます
  • 人格を否定する言葉——「嘘つき」「あなたは信用できない」。「自分は嘘つきなんだ」というレッテルを内面化すると、かえって嘘を繰り返すようになることも。行動は指摘しても、人格は否定しないことが鉄則です
  • 問い詰めて無理やり自白させる——証拠があるのに「やってない」と言い張る場合、本人も引っ込みがつかなくなっていることが多いのです
  • 過去の嘘を蒸し返す/「また嘘ついて」と決めつける——子どもは「どうせ信じてもらえない」と感じ、正直でいる意味を見失います

とはいえ、親も人間ですから、つい感情的になってしまうこともあります。完璧な対応を毎回できる必要はありません。もし強く叱りすぎたと感じたら、後で「さっきは言いすぎたね」と伝えればよいのです。間違いに気づいたときにやり直せること。その姿勢自体が、子どもに誠実さを教えます。また、小さな嘘なら「本当はどうだったのかな?」と軽く問いかける程度にとどめ、あえて深追いしないという選択もあります。すべての嘘を徹底的に追及する必要はないのです。

嘘への適切な対応

基本は、嘘を責めるのではなく、正直に話せる安心感を育てることです。子どもが本当のことを話したとき、たとえそれが悪い内容でも、「正直に話してくれてありがとう」とまず受け止める。

嘘に気づいたときも、問い詰めるのではなく、逃げ道を残した聞き方を心がけます。「もしかして、こうだったのかな?」と、子どもが正直に話しやすい雰囲気をつくる。そして、嘘の背景にある気持ちに目を向けます。「怒られたくなかったんだね」「すごいと思われたかったんだね」と、気持ちを汲んでもらえると、子どもは「分かってもらえた」と感じ、防衛のための嘘が減っていきます。

悪いことについては、叱るのではなく、「こうすると人を悲しませるよ」「次はどうしたらいいかな」と、一緒に考える姿勢で。罰するためではなく、学びのために向き合う。また、「あなたを信じている」という親の姿勢が伝わっていると、子どもはその信頼を裏切りたくないと感じます。疑いの目で監視するより、信頼を示すほうが、結果的に正直さを引き出します。そして正直になれたときには、「前は隠していたのに、今日は自分から話せたね」と、しっかり成長を認めてあげてください。

嘘を防ぐ家庭の土台

最も大切なのは、「失敗しても、正直に話せば受け止めてもらえる」という安心感です。失敗が安全に話せる家庭は、嘘の少ない家庭です。失敗を許さない家庭ほど、嘘が増えます。

また、親自身が正直であることも、子どもの手本になります。親が約束を守る、できないことはできないと言う、間違えたら素直に謝る。「嘘をつくな」と言いながら親が嘘をついていては、説得力がありません。

そして、ありのままの子どもを認める関わりが、嘘の根っこを減らします。日々の何気ない会話、一緒に食事をする時間、子どもの話に耳を傾ける姿勢——こうした積み重ねが、「ここでは本当の自分でいられる」という安心感を育てます。逆に、失敗が許されない雰囲気は、子どもを嘘に追い込みます。寛容さと安心が、正直な子どもを育てる土壌になるのです。

子どもが物を盗ってしまうとき

友だちの物を持ち帰った、お店の物を黙って取った、家のお金がなくなった。「うちの子が泥棒に」と、頭が真っ白になる方もいるでしょう。

けれど、ここでも大切なのは、慌てて「泥棒」「犯罪者」と決めつけないこと。子どもの盗みは、大人の窃盗とは意味が異なります。多くの場合、その背景には、ほしいという衝動を抑えられない未熟さや、満たされない心の状態が隠れています。

とくに幼い子どもは、「人の物」と「自分の物」の区別や、「お金を払って買う」という仕組みを、まだ十分に理解していないことがあります。「ほしいから持ってきた」という素朴な行動であることも少なくありません。

もちろん、盗みは正していかなければならない行動です。ただ、その正し方が問われます。厳しく罰するだけでは、根本的な背景は解決しません。また、盗みは一度きりで終わることも多いもの。適切に向き合えば、多くの子は二度と繰り返しません。過度に深刻化させず、しかし軽視もせず。落ち着いた対応が、子どもの立ち直りを支えます。

なぜ子どもは盗るのか

幼児期では、所有の概念が未熟で、ほしいものを衝動的に手に取ってしまうことがあります。「盗み」という意識すらないことが多く、丁寧に教えていく段階です。

学童期以降の盗みには、より複雑な背景があります。ほしい物が手に入らない不満、友だちが持っている物への羨望、スリルを求める気持ち、仲間からの圧力。とくに、ほしい気持ちを我慢する力(衝動のコントロール)がまだ育ちきっていないことも関係します。

そして、見逃せないのが心の満たされなさのサインとしての盗みです。寂しさ、愛情への渇望、ストレス、注目されたい気持ち。物がほしいのではなく、心が何かを求めているのです。

盗みの理由を考えるとき、本人に「なぜ盗ったの?」と聞いても、はっきり答えられないことが多いもの。本人も、自分の気持ちをうまく言葉にできていないからです。だからこそ、問い詰めるのではなく、その子の生活や心の状態全体から、背景を読み取っていく必要があります。最近寂しそうにしていないか、ストレスを抱えていないか、ほしい物を我慢していないか。そして理解できても、それを子どもに押しつけないこと。「寂しかったんでしょう」と決めつけられると、子どもは反発することもあります。理解は親の心の中に持ちつつ、「何か困っていることはない?」とそっと寄り添う。

「満たされなさ」のサインとしての盗み

十分な物を与えられているのに盗む、必要のない物を盗る、盗った物を使わずに隠している——こうした場合、物そのものより、心の何かが満たされていない可能性があります。

たとえば、下の子が生まれて親の関心がそちらに向いた、親が忙しくて構ってもらえない、家庭の中で緊張が続いている。そうした状況で、子どもは寂しさや不安を抱えます。盗みは、「自分を見てほしい」という叫びの場合があります。

この場合、盗みを罰するだけでは、根本的な解決にはなりません。最も効果的なのは、逆説的に聞こえるかもしれませんが、叱ることではなく、関わりを増やすこと。罰ではなく、愛情が処方箋になるのです。その子と一対一で過ごす時間をつくる、スキンシップを増やす、その子だけに注目する瞬間をつくる。とくにきょうだいがいる場合、上の子や手のかからない子は、注目が不足しがちです。

お金を盗ったときの考え方

背景には、ほしい物がある、友だちとの付き合いでお金が必要、ゲームの課金といった具体的な理由があることが多いです。まずは、何にお金を使ったのか、なぜ必要だったのかを理解することが大切。また、お金そのものより、お金で何かを埋めようとしていることもあります。友だちにおごって関心を引きたい、物を買って寂しさを紛らわせたい。

お金の盗みは、きちんと向き合うべき行動です。ただ、頭ごなしに罰するのではなく、なぜ必要だったのか、どうすればよかったのかを一緒に考える。そしてお小遣いの仕組みを見直すことも有効です。年齢に応じた適切な金額を、定期的に渡す。そして、お金の管理を少しずつ任せていく。自分で使えるお金があり、その使い方を学ぶ機会があると、お金を盗る必要性が減っていきます。ゲームの課金など現代ならではのトラブルも、頭ごなしに禁止するより、ルールを一緒に決め、お金の価値や使い方について話し合うことが根本的な解決につながります。

盗みへのNG対応

  • 「泥棒」「犯罪者」といったレッテル貼り——「自分は悪い人間だ」という思いを植えつけ、かえって立ち直りを難しくします
  • 感情的な叱責、体罰——恐怖で押さえつけても、根本的な背景は解決しません。むしろ「次はばれないようにしよう」と、より巧妙になることも
  • みんなの前で叱る——盗みは、子どもにとって恥ずかしい行動です。人前でさらされると、深く傷つき、自尊心を失います。叱る必要があるときは、必ず一対一で
  • 過去の盗みを何度も蒸し返す——一度の過ちを、その子の全人格の問題のように扱うのは適切ではありません
  • 「警察に連れて行くよ」といった脅し——恐怖で行動を抑えても、根本的な解決にはならず、親子の信頼関係を壊します
  • 逆に、見て見ぬふりをして放置する——叱りすぎず、かといって見過ごさず。冷静に、しかし真剣に向き合う

盗みへの適切な対応

まず事実を冷静に確認することから始まります。問い詰めて自白を迫るのではなく、「これはどうしたのかな」と穏やかに尋ねる。嘘と同様、正直に話せたことは、まず受け止めてあげてください。

次に、盗みがなぜいけないのかを、子どもに分かるように伝えます。「取られた人がどんな気持ちになるか」「物はお金を払って手に入れるもの」といった基本を、年齢に応じて説明します。

そして可能であれば、盗った物を返す、謝るといった、責任をとる経験をさせます。これは罰ではなく、自分の行動の結果に向き合い、修復する大切な学びです。親が一緒に付き添い、「勇気がいるけど、一緒に謝りに行こう」と支えてあげてください。子どもを責め立てながら無理やり謝らせるのではなく、寄り添う姿勢で。やり遂げたら「よく謝れたね」と認める。この経験が、責任をとる力と自尊心の両方を育てます。

同時に、盗みの背景にある気持ちにも目を向けます。行動を正すことと、心を満たすこと。この両方が、再発を防ぐ鍵になります。そして解決した後は、その出来事を蒸し返さないこと。いつまでも「あのとき盗んだ」と持ち出すと、子どもは立ち直れません。過去ではなく、これからを一緒に見ていく姿勢が、子どもの再出発を支えます。

「正直に話せた」を、何より大切にする

嘘にも盗みにも共通する、最も大切な関わりの一つが、「正直に話せたこと」を何よりも大切にする姿勢です。子どもが、叱られるかもしれないことを正直に打ち明けたとき、その勇気を認めることが、誠実さを育てる土台になります。

もし、正直に話したのに激しく叱られたら、子どもは「正直に言って損をした」と学んでしまいます。すると次からは、嘘で隠すようになります。正直でいることが報われる経験を積ませることは、長い目で見て、嘘や隠しごとを減らすための大切な関わりの一つなのです。

これは「悪いことをしても許す」という意味ではありません。悪いことには向き合いつつ、正直であろうとした姿勢は認める。この一見矛盾するように見える関わりこそが、子どもの中に「正直でいよう」という気持ちを育てます。

そして、この関わりは嘘や盗みの場面だけでなく、日常のあらゆる場面で積み重ねられます。子どもが失敗を打ち明けたとき、困りごとを相談してきたとき。そのたびに、まず話してくれたことを歓迎する。幼い頃からの「正直に話せた」経験の積み重ねが、思春期にいじめや進路の悩みを抱えたとき、「この親には話せる」という命綱になるのです。

繰り返す嘘・盗みが教えてくれること

一度や二度なら、成長の過程として見守れます。けれど、何度も繰り返される場合は、その子が抱える、より深い困りごとのサインかもしれません。繰り返しは、「これだけのことをしても、私の困りごとに気づいてほしい」という、強い訴えである可能性があります。

背景には、満たされない愛情、強いストレス、家庭や学校での困難、自己肯定感の低さなど、さまざまな要因が考えられます。表面的な行動を止めようとするだけでは、根本的な困りごとが解決されず、形を変えて問題が続いてしまうことがあります。

親は「何度言っても分からない」と無力感を抱きがちですが、繰り返すのは、まだその子の根本的な困りごとが解決されていないから。子どもを責めるのではなく、「まだ満たされていない何かがあるのだ」と捉え直すことで、関わりの方向性が見えてきます。そして繰り返す問題に親だけで向き合い続けるのは、心身ともに大きな負担です。早めに専門家を頼ってください。

発達特性が関係することもある

たとえば衝動性が強い特性のある子は、ほしいと思った瞬間に手が出てしまい、後先を考えるのが苦手なことがあります。これは「わざと」ではなく、衝動を抑える力の発達がゆっくりなために起こります。また、状況を読むのが苦手な特性のある子は、その場しのぎの嘘をついてしまい、後でつじつまが合わなくなることも。悪意があるのではなく、見通しを立てたり、相手の気持ちを想像したりすることが苦手なために起こる場合があるのです。

こうした特性が背景にある場合、一般的なしつけや叱責だけでは、なかなか改善しません。むしろ、本人も「またやってしまった」と困っていることが少なくありません。特性を理解せずに叱り続けると、自己肯定感を大きく傷つけてしまう恐れがあります。

対応の基本は、「叱る」より「環境を整える・工夫する」ことに移ります。衝動性が強い子なら、ほしい物が目に入りにくいようにする、お金の管理を一緒に行うといった工夫です。そして何より、「あなたが悪いのではなく、苦手なことがあるだけ」というメッセージを伝え、できたことを認める。理解と肯定が、その子の成長を支える土台になります。

家庭環境を、やさしく振り返る

これは親を責めるためではありません。子どもの心の状態に影響する要因を、客観的に見てみる、という意味です。

たとえば、最近、家庭の中に変化や緊張はなかったでしょうか。きょうだいの誕生、引っ越し、親の仕事の忙しさ、夫婦間の緊張など。子どもは、こうした変化に敏感に反応し、不安や寂しさを抱えることがあります。また、日頃、子どもと十分に関わる時間が持てているでしょうか。子どもの話をゆっくり聞く時間、一緒に過ごす時間。

気づくことがあれば、できる範囲で関わりを見直してみてください。完璧を目指す必要はありません。そして、振り返って自分を責めすぎないこと。大切なのは、これからどう関わるかです。焦って一度にすべてを変えようとする必要もありません。子どもとの時間を5分増やす、寝る前に一言声をかける。小さな変化の積み重ねが、やがて大きな安心となって、子どもの心を満たしていきます。

専門家に相談する目安と、相談先

  • 嘘や盗みが頻繁で長期間続く
  • 叱っても罪悪感がないように見える
  • 他にも気がかりな行動がある/本人も困っている様子がある
  • 家庭の関わりを見直しても改善しない

こうした場合、背景に、発達特性や、家庭では気づきにくい強いストレス、心の不調が隠れていることがあります。「これくらいで相談していいのか」と迷うかもしれませんが、迷うこと自体が相談を考えるサインです。深刻になる前の相談のほうが、対応の選択肢も多く、解決もスムーズです。

相談の際は、これまでの経過をメモにまとめておくと、状況が伝わりやすくなります。いつ頃から、どんな行動が、どのくらいの頻度であるのか。家庭でどう対応してきたか。記録は、子どもを理解する手がかりにもなります。「相談したら大げさにされるのでは」と不安になるかもしれませんが、専門家は状況に応じて、必要な支援を一緒に考えてくれる存在です。無理に大ごとにされることはありません。

相談先はいくつかあります。学齢期なら、まず学校のスクールカウンセラーや担任の先生。地域の子ども家庭支援センターや保健センターでは、保健師や心理の専門家が無料で相談に応じてくれます。発達特性や心の不調が疑われる場合は、児童精神科や小児科、児童相談所も選択肢に。また、児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」で近くの児童相談所につながります。匿名で相談できるところも多く、「こんなことで電話していいのかな」とためらう必要はありません。

今夜これだけ

今夜は問いつめず、「困っていることがあったら聞くよ」とだけ伝えてみてください。理由を話せるのは、責められないと分かってからです。

まとめ:嘘も盗みも「心の声」

子どもの嘘や盗みは、親にとって本当にショックで、つらい出来事です。けれど、その行動の奥には、伝えたい気持ちや満たされない思いが隠れていることがあります。嘘も盗みも、その子の「心の声」なのです。表面的な行動を罰するだけでは、その声は届きません。

大切なのは、「なぜこの子はこうしたのだろう」と背景を理解しようとすること。怒られたくない、認められたい、寂しい、満たされない——その気持ちに目を向け、心を満たす関わりをすることが、根本的な解決につながります。そして、正直に話せたことを何より大切にする姿勢が、誠実さを育てます。

もちろん、悪いことは悪いと、きちんと向き合う必要があります。ただ、その向き合い方が問われます。罰するためではなく、学びのために。叱るためではなく、支えるために。一度や二度の過ちで、その子の将来が決まるわけではありません。

最後にもう一度お伝えしたいことがあります。子どもの嘘や盗みは、その子が「悪い子」だから起こるのではありません。何かに困り、助けを求める、不器用な心の表現なのです。そして、こうした出来事を乗り越えた親子は、より深い信頼で結ばれていきます。「どんなことがあっても、この親は自分を見捨てない」——そう感じられた子どもは、安心して成長していけます。今は大変な時期かもしれませんが、これは親子の絆を深める機会でもあるのです。お子さんとあなたが、穏やかな毎日を過ごせますように。

参考にした公的情報・一次情報

記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。

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【医療に関する免責事項】

本記事は、児童思春期精神科での看護経験に基づいた一般的な情報提供を目的としています。医療行為・診断・治療の代わりとなるものではありません。お子さんの心身の状態にご不安がある場合は、必ず主治医・かかりつけ医・スクールカウンセラー・地域の相談窓口など、お子さまを直接見ることのできる専門家にご相談ください。詳細は免責事項をご確認ください。

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チャイルドライン(18歳まで):0120-99-7777(毎日16〜21時)
児童相談所相談専用ダイヤル:0120-189-783(24時間)/虐待の心配は189
命に関わる危険があるときは、ためらわず119番へ。
出典:厚生労働省「まもろうよ こころ」(2026年7月確認)
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