いま命の危険がある場合
すでに自分を傷つけた、薬を多く飲んだ、意識や呼吸に異常があるなど、救急の対応が必要なときは119番へ連絡してください。今にも命を絶つ行動に移りそうなときも、話を最後まで聞くことより、緊急の支援につなぐことを優先します。
暴力などにより、本人や周囲を守るために警察の緊急対応が必要な場合は110番です。家族だけで危険な制止をしようとせず、通報先へ状況を伝えてください。消防庁「119番緊急通報」/警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」
この記事の要点
- 「死にたい」という気持ちを否定せず、話せる範囲で聞きます。
- 理由が分からないときに、無理に説明を求めないことを私は心がけています。
- その場で悩みを解決しようとしないことと、安全確認を後回しにすることは別です。
- 行動に移りそうな危険があるときは、家族だけで抱えず、緊急の支援を求めます。
児童思春期精神科病棟で働く看護師の星野レンです。この記事では、子どもが「死にたい」と話したときに私が意識している聞き方と、保護者へ伝えていることを整理します。
筆者の経験に加え、厚生労働省などの公的資料をもとに、家庭での安全確認と相談先について補足しています。この記事だけで危険度や診断を判断することはできません。
私が最初にしていること――否定せず、話せる範囲で聞く
子どもが「死にたい」と話してくれたとき、私はまず、その気持ちを否定しないことを意識しています。理由が分かり、本人が話せるのであれば聞きます。理由が分からないときは、無理に説明を求めず、話を聞くことに留めています。
その日、その場で悩みを解決しようとはしません。一方で、今にも行動に移してしまいそうなほどつらいのか、漠然と死にたい気持ちがあるのか、その気持ちの強さは確認しています。
ここでいう「聞くことに留める」とは、理由を無理に探したり、その場で解決策を出したりしないという意味です。安全の確認や、必要な医療・相談につなぐことまで止める意味ではありません。
「死ぬのはだめ」と説く前に、助けを求めた言葉として聞く
私は、「死ぬことは悪いこと」「そんなことを考えてはだめ」と、気持ちを否定する返し方をしないようにしています。善悪を説明する前に、その子が助けを求めて話してくれたことを念頭に置いています。
何を話せるのか、どこが分からないのかも含めて、まずは本人の話を聞く。その姿勢を大切にしています。
厚生労働省も、自殺をほのめかす言葉などに気づいたら声をかけて話を聞き、叱責で追い詰めないことを案内しています。厚生労働省「『消えてしまいたい』というサイン」
家庭で、言葉だけから「大丈夫」と決めない
一度だけの発言だった、学校に行けている、その後は笑っていた、といったことだけで、安全だとは判断できません。また、「漠然とした気持ち」と聞こえても、それだけで支援が不要になるわけではありません。
言葉だけでなく、食事や睡眠など、生活の基盤が普段と変わっていないかにも注意してください。食べる量が減った・増えた、寝つけなくなった、寝る時間が大きくずれた、眠る時間が増えたなど、「その子のいつもとの違い」は、心身の不調に気づく手がかりになります。気づいた変化は、本人の言葉と併せて医療機関や相談先へ伝えてください。こうした変化が目立たなくても、「死にたい」という訴えを軽く扱わないことが大切です。厚生労働省「こころのSOSサインに気づく」
家庭では、今のつらさや、自分を傷つける行動に移りそうかを確かめ、本人の言葉と様子を医療機関や相談先に伝えてください。家族だけで危険度を判定しきろうとせず、危険が切迫している場合は速やかに緊急の支援を求めます。
自殺の危険が感じられるときは、一人にせず、安全を確保できる範囲で近くで見守ります。厚生労働省も、一人にしないことと、切迫した場合には速やかに専門家へ相談することを示しています。厚生労働省「『消えてしまいたい』というサイン」
保護者へ伝えていること
私は保護者に、「死にたい」という気持ちを否定せず、まず本人の気持ちを聞いてほしいと伝えています。そして、何か行動に移しそうなときは、家族だけで対応しようとせず、外部の機関に頼ってほしいと説明しています。
「死にたい」という気持ちは、成長すれば誰もが必ず経験するものではありません。背景は一人ひとり異なり、「思春期だから」とひとくくりにせず、その子が何に負担を感じているのかを見ることが大切です。
WHO(世界保健機関)は、思春期の心の健康に、家庭や友人との関係、いじめなどの暴力、周囲に合わせようとする圧力に加えて、「自分は何者なのか」を探すことも関わると説明しています。これは思春期のストレスについての説明であり、自分らしさを模索すること自体を自殺の原因とするものではありません。WHO「Mental health of adolescents」(内容を要約)
アイデンティティとは、ここでは「自分はどんな人で、何を大切にし、どう生きたいか」という自分についての感覚です。南アフリカの高校生552人(13〜21歳)を調べたRaemenらの研究では、心に傷を残す体験や、こうした自己認識のまとまりにくさと、自殺を考えること・自殺行動との関連が報告されています。ただし、質問紙調査で見られた関連であり、「自己認識が曖昧だから死にたくなる」という原因と結果を証明したものではありません。日本の子ども全体に、そのまま当てはめることもできません。Raemenら(2021)、Journal of Adolescence(研究結果を要約)
そのため、周囲の環境で起きていることと、本人が自分自身について感じている迷いやつらさの両方に目を向ける、という見方が考えられます。これは資料を踏まえた本記事の整理です。背景を一つに決めつけず、話せる範囲で聞き、安全の確保と相談につなげてください。
外部機関の役割を整理すると、けがや服薬などで救急の対応が必要なら119番、暴力などで警察の緊急対応が必要なら110番です。緊急通報先は、一般的な悩み相談の窓口とは区別します。消防庁/警察庁
自傷があるときは、体の状態と気持ちの両方を確認する
自分を傷つける行為があっても、必ずしも自殺したいという気持ちだけが理由とは限りません。厚生労働省は、精神的な苦痛を和らげようとする気持ちが隠れている場合があると説明しています。ただし、そのことを理由に安全だと判断しないでください。厚生労働省「『自分を傷つける』というサイン」
本人の気持ちを聞くとともに、けがや服薬などへの医療対応が必要かも確認します。出血や意識の異常などがあれば、回数や本人の説明だけで様子を見ず、救急へ連絡してください。
緊急でなくても、相談先につなぐ
今すぐの救急対応が必要な状況でなくても、「死にたい」という言葉が出たことを軽く扱わず、かかりつけ医や通院先、地域の相談窓口へ早めに相談してください。予約日を待ってよいか迷う場合も、本人の言葉と現在の様子を電話で伝え、対応を相談します。
地域の保健所・保健センター・精神保健福祉センターなどにも相談できます。窓口ごとの対象や受付時間は、案内ページで確認してください。厚生労働省「困ったときの相談先」
本人の健康や安全に関わる話については、「誰にも伝えない」と約束しきれないことがあります。必要な人に相談する理由を本人へ説明し、共有する相手や内容を検討します。厚生労働省「家族で子どもと向きあうポイント」
今、確認すること
今にも行動に移りそうか、すでにけがや服薬が起きていないかを確認してください。危険が切迫している場合は、理由の説明や会話の終わりを待たず、緊急の支援を求めます。
看護師視点のまとめ
私の病棟での経験では、「死にたい」と感じる理由を、その場で説明できる子は少ないです。頭の中がこんがらがり、自分でも気持ちや出来事を整理できていない状態では、理由を言葉にすることは難しくなります。
だからこそ私は、理由をうまく説明できることを、話を聞くための条件にしません。気持ちを否定せず、話せることがあれば聞き、分からなければ説明を無理に求めない。そして、その場で悩みを解決しようとしないことを意識しています。
同時に、気持ちの強さや、行動に移してしまいそうな状態かを確認しています。保護者にも、本人の気持ちを聞くことと、危険があるときは外部の機関へ頼ることを伝えています。
話を聞くこと、安全を確保すること、専門家へ相談することを、どれか一つだけにしない。その点を、家庭での対応でも押さえていただきたいと思います。
参考にした公的情報・一次情報
2026年9月19日確認。筆者の経験と、公的資料による一般的な対応の説明を分けて記載しています。
- WHO「Mental health of adolescents」(2025年9月1日)
- Raemen L, et al.(2021)Trauma and self-harming behaviors in high school students: The mediating role of identity formation. Journal of Adolescence, 92, 20–29. DOI: 10.1016/j.adolescence.2021.08.004
- 厚生労働省「こころのSOSサインに気づく」
- 厚生労働省「『消えてしまいたい』というサイン」
- 厚生労働省「『自分を傷つける』というサイン」
- 厚生労働省「困ったときの相談先」
- 厚生労働省「家族で子どもと向きあうポイント」
- 総務省消防庁「119番緊急通報」
- 警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」


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