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この記事の要点
- 検査で異常がなくても、痛みは本当に起きている。仮病ではない
- 朝に強く出て午後や休日に軽くなるのは、心身症の典型パターン
- まず小児科で体の病気を除外する。これが最初の一手
- 「気のせい」「仮病でしょう」は、子どもが症状を隠す原因になる
- 2週間以上続く・生活に支障が出ているなら、専門機関への相談を
朝、起きてきた子が「お腹が痛い」と言う。熱はない。病院で検査しても異常なし。それなのに午後になるとけろりとして、休日は元気に遊んでいる。こういう状況が続くと、多くの親御さんが同じ疑いを持ちます。「これは、仮病なのだろうか」と。
児童思春期精神科の病棟で働いていると、この経過をたどってこられたご家族に何度も出会います。そして共通しているのが、親御さん自身が長く悩み、疲れ切っているということです。信じてあげたい気持ちと、学校を休ませ続けることへの不安のあいだで、毎朝の判断を迫られてきたからです。
この記事では、看護師歴8年、うち児童思春期精神科で5年以上働いてきた立場から、ストレスが体の症状として現れる「心身症」について、家庭でできる対応を中心にお伝えします。仮病かどうかで悩む時間を減らし、今日から取れる行動が見つかるように整理しました。
なお、私は医師ではありませんので、診断にかかわる判断には踏み込みません。症状が続く場合は必ず医療機関を受診してください。その目安についても後半でお伝えします。
検査で異常がなくても、痛みは本当に起きている
最初にはっきりお伝えしたいことがあります。検査で異常が見つからないことと、痛みがないことは、まったく別です。お子さんは実際に痛みを感じています。演技をしているわけではありません。
強い緊張や不安があるとき、体は自律神経を通じて反応します。胃腸の動きが乱れて腹痛が起きる、筋肉が緊張して頭痛になる、心拍が上がって気持ち悪くなる。これは意思とは無関係に起きる生理的な反応で、大人でも大事な会議の前にお腹が痛くなることがあるのと同じ仕組みです。
大人と違うのは、子どもは自分の状態を言葉にする力がまだ育っていないことです。「クラスで居場所がなくてつらい」と説明できる子は多くありません。その代わりに、体が先に反応します。つまり体の症状は、本人にも説明できない何かを伝えるサインなのです。
朝に強く、午後や休日に軽くなる理由
心身症の症状には、わかりやすい時間的な特徴があります。登校前の朝にもっとも強く出て、登校しないと決まった時点で和らぎ、午後や休日にはほとんど消える。この波が、親御さんをいちばん混乱させます。
けれども、この波こそが「ストレス反応である」ことの証拠でもあります。負荷がかかる場面が近づくと症状が強まり、その場面が回避されると収まる。体は正直に反応しているだけです。
ですから「休むと治るなら仮病だ」という理解は、順序が逆です。休んだから治ったのではなく、緊張の対象が遠のいたから症状が軽くなった。ここを取り違えると、対応の方向を誤ります。
なお、朝起きられない・立ちくらみがするといった症状が中心の場合は、起立性調節障害という別の状態が関係していることもあります。詳しくは起立性調節障害(OD)と不登校の関係をご覧ください。
最初にすること|体の病気を除外する
心の要因を考える前に、必ず体の病気を確かめてください。これが最初の一手です。
腹痛なら消化器の疾患、頭痛なら視力の問題や副鼻腔炎など、身体的な原因が隠れていることがあります。まずかかりつけの小児科で相談し、必要な検査を受けてください。「心の問題だろう」と親が先に決めてしまうと、治せる病気を見逃す危険があります。
受診の際は、症状が出る時間帯・曜日・場面をメモして持参すると診断の助けになります。「平日の朝だけ」「日曜の夜から」といった情報は、医師にとって重要な手がかりです。
検査で異常がなかったときも、それは「異常なし」で終わる話ではありません。体の病気が否定できたという一歩前進です。そこから心身症という視点で対応を組み立てていきます。
やってしまいがちな3つのNG対応
①「仮病でしょう」と決めつける。もっとも避けたい対応です。この一言で子どもは「話しても信じてもらえない」と学習し、次から症状を隠すようになります。そして症状は消えず、悪化してから発覚します。
②無理に登校させる。痛みを訴える体を押して送り出すと、学校で悪化して早退することになり、本人の中に「やっぱり無理だった」という失敗体験が積み重なります。翌朝のハードルは、前日より確実に高くなります。
③「気のせい」と症状を否定する。励ますつもりの言葉でも、子どもには「自分の感じていることは間違いなのだ」と伝わります。感覚を否定され続けた子は、自分の状態を人に伝えることをやめてしまいます。
3つに共通しているのは、症状の存在を疑う姿勢です。親が疑うと、子どもは孤立します。まず「痛いんだね」と事実として受け取ることが、すべての対応の土台になります。
家庭でできる4つの対応
①つらさをそのまま受け止める。「痛いんだね」「つらいね」と、まず言葉にして返します。原因の追及も、励ましも、この後で構いません。受け止められた経験があって初めて、子どもは自分の状態を話せるようになります。
②家の中を安心できる場所にする。症状が出ている日は、詰問を避けてください。「何があったの」と問い詰めるより、静かに過ごせる環境を用意するほうが、結果的に本人から話し始めることが多いものです。
③背景にあるストレスに目を向ける。学校での人間関係、勉強のつまずき、部活動、家庭内の変化。思い当たることを親だけで探すのではなく、本人が話しやすいタイミング(車の中、寝る前など、正面から向き合わない場面)を選んで少しずつ聞いてみてください。
④生活リズムと体調を整える。睡眠不足や不規則な食事は、症状を強めます。特に就寝時刻が後ろにずれていくと、朝の不調は確実に悪化します。まず眠る時間を一定にすることから始めてください。昼夜が逆転しかけている場合は不登校の昼夜逆転、どう戻す?も参考になります。
今日は休ませるべきか、行かせるべきか
毎朝の判断でもっとも迷うのがここです。私がお伝えしているのは、「一日単位で勝ち負けを決めない」という考え方です。
今日行けたかどうかより、一週間、一か月の流れで見てください。無理に一日行かせた結果、翌日から三日休むことになるなら、その一日には意味がありません。逆に、今日ゆっくり休んで明日行けるなら、休ませた判断は正解です。
迷ったときの目安として、「本人が行けそうと言うか」を優先してください。親が決めて押し出すより、本人に選ばせるほうが、結果的に登校は続きます。判断の考え方は「学校行きたくない」と言われたらにも詳しくまとめました。
また、休ませることを「甘やかし」と考える必要はありません。この点で悩まれている方は不登校は甘え?もあわせてお読みください。
看護師として見てきたこと
病棟で関わったお子さんの中に、半年以上にわたって毎朝の腹痛が続いていた中学生がいました。いくつもの病院で検査を受け、どこでも異常なしと言われ、ご家族は「原因が分からない」ことに疲れ切っていました。
入院してしばらく経った頃、本人がぽつりと話したのは、成績のことでも友人関係でもなく、「毎朝、お母さんががっかりした顔をするのがつらい」ということでした。痛みの原因は学校だけではなく、痛みを訴えたあとの家の空気にもあったのです。※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
この話をご家族に伝えたとき、お母さまは「そんなつもりはなかった」と泣かれました。もちろん責められるべきことではありません。毎朝つらそうな子を見て平然としていられる親などいないからです。
ただ、この経験から私が学んだのは、子どもは親の表情を非常に細かく読んでいるということです。ですから対応を考えるとき、言葉だけでなく、こちらの顔がどうなっているかも一度気にしてみてください。「痛いんだね」と言いながら困った顔をしていると、子どもは後者を受け取ります。
受診の目安と、何科にかかるか
次のような場合は、専門機関への相談を検討してください。
- 症状が2週間以上続いている
- 登校できない日が増えている
- 食欲や睡眠にも影響が出ている
- 表情が乏しくなった、好きなことにも関心を示さない
- 「消えたい」「いなくなりたい」といった言葉が出た
最後の項目に当てはまる場合は、様子を見ずにすぐ相談してください。緊急性が高い状態です。
受診先は、まずかかりつけの小児科が入口になります。そこから必要に応じて心療内科や児童精神科を紹介してもらう流れが一般的です。いきなり精神科を探さなくて構いません。学校のスクールカウンセラーや自治体の教育相談も、費用がかからず相談しやすい窓口です。
学校に体調のことをどこまで伝えるか迷われる場合は、子どもの病気を学校に伝えるか迷ったときで、伝える範囲の考え方を整理しています。
よくある質問
Q1. やっぱり仮病なのではと疑ってしまいます
そう思ってしまうのは自然なことで、責められることではありません。ただ、疑いを口に出すかどうかは分けて考えてください。心の中で迷いながらでも、行動としては「痛いんだね」と受け止める。それだけで子どもの孤立は防げます。
Q2. 休ませると癖になりませんか
適切に休ませることで長引くケースは、私の経験ではほとんどありません。むしろ無理をさせて限界を超えたときのほうが、回復に時間がかかります。心配なのは「休むこと」ではなく「何もしないまま時間だけが過ぎること」ですので、休養と並行して相談先を確保しておいてください。
Q3. 原因を聞き出したほうがいいですか
問い詰める形は逆効果です。子ども自身が原因を分かっていないことも多く、答えられないと「うまく説明できない自分が悪い」と感じさせてしまいます。正面から向き合わない場面(並んで歩く、車の中など)で、雑談の延長として少しずつ触れるほうが話が出やすくなります。
Q4. 学校にはどう説明すればいいですか
「検査では異常がないが、朝に強い腹痛があり登校が難しい日がある」と事実だけ伝えれば十分です。診断名がなくても配慮は求められます。保健室の利用や遅刻登校の許可など、具体的にお願いしたいことを一つ二つ挙げると話が進みやすくなります。
Q5. きょうだいにどう説明したらいいでしょう
「体は元気に見えるのにお休みしている」状況は、きょうだいに不公平感を生みます。「今は体の調子が悪くて休んでいる」と簡潔に伝え、あわせて、きょうだい側にも個別に時間を取ってあげてください。我慢を強いていることへの目配りが、後の関係を守ります。
Q6. どのくらいで良くなりますか
背景にある要因によって幅が大きく、一律には言えません。ただ、症状が完全に消えるより先に「症状があっても対処できる」状態が訪れることが多いです。痛みが出た日に自分で休憩を取れるようになる、といった変化も回復の一部と考えてください。
今夜これだけ
明日の朝、もし「お腹が痛い」と言われたら、理由を聞く前に「痛いんだね」とだけ返してみてください。それ以上は何も言わなくて大丈夫です。受け止められた、という一度の経験が、次に話してくれる入口になります。
看護師視点でのまとめ
検査で異常がなくても、お子さんの痛みは本物です。朝に強く出て休日に軽くなるのは、心身症の典型的なパターンであり、仮病の証拠ではありません。
やることの順番は、まず小児科で体の病気を除外すること。次に、家庭で症状を否定せず受け止めること。そして生活リズムを整えながら、背景にあるストレスに少しずつ目を向けていくこと。この順序を守れば、大きく外すことはありません。
体の症状は、本人にも言葉にできない何かを伝えるサインです。サインが出ているうちに気づけたことは、それ自体が幸運なことだと私は思っています。
今日も、あなたとお子さんの朝が、少しでも穏やかでありますように。

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