この記事の要点
- 心因性の腹痛でも、本人は本当に痛い。仮病ではない
- 平日の朝だけ、休日は軽い、というパターンが手がかりになる
- まず小児科で身体の原因を確認する。順番を飛ばさない
- 「気のせい」「またなの」は、次から言わなくなる引き金になる
- 体重が減る、夜間も痛む、血便があるときは早めに受診する
毎朝「お腹が痛い」と言うのに、休ませると昼には元気になる。この繰り返しが続くと、心配と苛立ちが同時に来ます。仮病ではないかと疑ってしまう気持ちも、自然なものです。
私は2018年4月から看護師として勤務し(2か月のブランクあり)、2021年4月から児童思春期精神科病棟で働いています。この腹痛は現場で最もよく出会う症状のひとつで、そして最も誤解されやすいものでもあります。この記事では、原因の分け方、見分けのポイント、受診の目安、家庭での関わり方を整理します。
「仮病」ではない、という前提
まず押さえておきたいのは、心因性の腹痛でも本人は本当に痛いということです。演技でも、意図的な回避でもありません。
ストレスがかかると自律神経の働きが変わり、腸の動きや知覚に影響します。同じ強さの刺激でも痛みとして強く感じられる状態になるため、検査で異常が見つからなくても痛みは実在します。大人でも、緊張するとお腹を下すことがありますが、あれと同じ仕組みが強く出ていると考えてください。
子どもは、自分の気持ちを言葉にするのが大人より難しい分、心の負荷が体に出やすい。「学校がしんどい」と言えない代わりに、お腹が痛くなっているという構図です。
腹痛の原因は3つに分けて考える
- 身体の病気によるもの——虫垂炎などの急を要するもの、感染性の胃腸炎、便秘、食物アレルギー、炎症性腸疾患、尿路感染症、月経に関連するものなど
- 機能性・心因性のもの——検査では異常が見つからないが、ストレスや緊張で起きるもの。過敏性腸症候群や反復性の腹痛、不安に伴う身体症状などが含まれます
- 両方が混ざっているもの——実際にはこれが最も多いパターンです。もともと便秘気味の子がストレスでさらに悪化する、といった形です
大事なのは、「体か心か」の二択で考えないことです。心因性だと決めつけて受診が遅れ、後から身体の病気が見つかることもあります。まずは小児科で確認する。この順番は飛ばさないでください。
心因性が疑われるときの手がかり
タイミング
- 平日の朝だけ痛い
- 登校の直前に強くなる
- 休日や長期休暇には軽い、または出ない
- 特定の授業や行事の前に出る
- 夕方から夜にかけて軽くなる
痛み方
- 痛む場所が日によって変わる
- 強さに波がある
- 気を紛らわせると軽くなる
- 好きなことに夢中のときは忘れている
一緒に出やすい変化
- 頭痛や吐き気も同時に出る
- 朝の食欲がない
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める
- 口数が減った、表情が乏しい、イライラしやすい
ここで注意したいのは、「休日に軽い=ずる休み」ではないという点です。学校に関わる場面で症状が強まるのは、負荷がそこにあるという情報にすぎません。責める材料ではなく、対応を考えるための手がかりとして使ってください。
受診の目安|先に体を診てもらう
次のような場合は、様子を見ずに小児科を受診してください。
- 夜間や休日にも同じように痛む
- 体重が減っている、身長の伸びが止まっている
- 血便、黒い便、繰り返す嘔吐がある
- 発熱を伴う、痛む場所が右下腹部に固定している
- 強い痛みで動けない
身体の検査で異常がなかった場合、そこで終わりにせず「では何が負荷になっているか」を考える段階に進みます。腹痛以外の身体症状も出ている場合は子どもの心身症の記事も参考になります。
心の面の相談先は、学校のスクールカウンセラー、自治体の教育相談、児童精神科です。小児科から紹介してもらう形が最もスムーズです(小児科か児童精神科か)。
声かけ|避けたい言い方と、代わりの言い方
| 避けたい言い方 | 言い換え |
|---|---|
| またお腹痛いの? | お腹痛いんだね。つらいね |
| 気のせいでしょ | どのあたりが痛い? |
| 行けば治るから | 今日はどうしたい? |
| 昨日も休んだよね | 今日はゆっくりしていいよ |
| 学校で何かあったの?(毎回) | 話したくなったら聞くよ |
「またなの」と返してしまうのは、心配が続いた末の自然な反応です。ただ、この一言で子どもは次から症状を言わなくなります。言わなくなった結果、限界まで我慢して、ある日まったく動けなくなる。この経過を現場で何度も見てきました。
理由を毎回聞くのも避けたいところです。本人にも分からないことが多く、答えられないこと自体が負担になります。
記録をつけると見えてくる
2週間ほど記録をつけると、パターンが見えてきます。受診の際にも、この記録が最も役に立ちます。
- 日付と曜日、痛み出した時刻
- どのあたりが、どのくらい痛むか(10段階でも可)
- その日の予定(体育、発表、席替えなど)
- 食事量、睡眠、排便
- いつ軽くなったか
特定の曜日や授業に集中していることが分かれば、学校と相談する材料になります。逆に、無関係に出ている場合は、身体面の再確認が必要かもしれません。
病棟で見てきたケース
※以下のエピソードは、個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
小学4年の子は、毎朝の腹痛が3か月続いていました。小児科で複数回検査を受けても異常はなし。記録をつけてもらうと、痛みが強い日は体育と発表がある曜日に集中していました。担任に相談して発表の形を調整してもらったところ、数週間で朝の症状が減っています。
中学2年の子は、「気のせい」と言われ続けた結果、痛みを訴えなくなりました。周囲は治ったと思っていましたが、実際には我慢していただけで、ある朝まったく起き上がれなくなって受診に至りました。症状を言わなくなったことを、回復と取り違えないでほしいと思います。
もう一人は、便秘が背景にありながらストレスで悪化していた子です。整腸剤で体の側を整え、同時に学校での負荷を減らしたところ、両方の対応がそろって初めて落ち着きました。体か心かではなく、両方だったケースです。
休ませる判断と、学校との連携
痛みが強い朝は、休ませて構いません。「1日休んで回復するなら必要な休みだった」と考えてください。ただし、休んだ日に自由に過ごせすぎると、休むこと自体が強化されることもあります。ゲームや動画を制限する必要はありませんが、生活リズムは平日に近い形を保つほうが戻りやすくなります。
学校には、状態を具体的に伝えておきます。「朝に腹痛が出ていて、小児科では異常なしと言われている」「登校できる日もある」。そのうえで、保健室で休める体制や、途中からの登校が可能かを相談してください(保健室・別室登校)。
全日か欠席かの二択にすると、行ける日まで失われます。「1時間目だけ休む」「保健室で30分休んでから教室へ」といった中間の形を用意しておくと、本人の負担が減ります。
家庭でできる生活面の工夫
- 朝の余裕をつくる——起床を15分早めるだけで、支度の緊張が下がることがあります
- 朝食を軽くする——食べられない日は無理に量を求めず、温かい飲み物からでも構いません
- 排便のリズムを整える——便秘が絡んでいる場合、ここを整えるだけで改善することがあります
- 就寝時間を守る——睡眠不足は痛みの感じ方を強めます(生活リズムの記事)
- 痛みの話題を1日の中心にしない——心配で何度も確認すると、意識が痛みに集中しやすくなります
市販の痛み止めを常用するのは避けてください。原因が分からないまま抑え続けると、身体の病気を見逃すことがあります。薬を使う場合は、必ず医師か薬剤師に相談のうえで判断してください。
出やすい時期を知っておく
この症状には、増えやすい時期があります。あらかじめ知っておくと、慌てずに済みます。
- 4月〜5月——クラス替え、担任の交代、新しい人間関係。連休明けは特に増えます
- 9月——長い休みから戻る時期。夏休み明けの登校再開は負荷が大きくなります
- 行事の前——発表会、運動会、宿泊行事。人前に出る場面が近いと出やすくなります
- 学期末とテスト前——評価が近づく時期です
- 季節の変わり目——気圧や気温の変化そのものが体調に影響します
逆にいえば、こうした時期を過ぎれば自然に落ち着くことも多いということです。増えた時期に「悪化した」と判断せず、まず時期の要因がないかを確認してみてください。
回復のサイン
よくなってきたかどうかは、痛みの有無だけでは測れません。次のような変化が出てきたら、回復の方向に向かっています。
- 痛みは出るが、時間が短くなった
- 痛いと言いながらも登校できる日が出てきた
- 朝の食欲が戻ってきた
- 痛み以外の話題を自分から話すようになった
- 好きなことに時間を使えるようになった
完全に消えることを目標にすると、途中の変化を見落とします。波がありながら、全体として軽くなっていく。これが実際の回復の形です。
よくある質問
Q1. 検査で異常なしと言われました。それで終わり?
終わりではありません。身体の病気が除外できたということなので、次は何が負荷になっているかを見ます。異常なし=問題なし、ではありません。
Q2. 休ませると癖になりませんか
限界まで通わせたほうが、長い欠席につながることが多いです。休ませたうえで、生活リズムを保ち、行ける形を学校と相談するのが現実的です。
Q3. 本人が理由を話しません
本人にも分からないことが多いので、問い詰める必要はありません。記録をつけて、外側からパターンを見るほうが早く手がかりが得られます。
Q4. 学校に着くと治るのはなぜですか
予期不安が強い場合、教室に入ってしまえば落ち着くことがあります。逆に、教室に入ってから強くなる子もいます。どちらのパターンかで、対応の入口が変わります。
Q5. きょうだいも同じ症状を訴え始めました
真似ではなく、家庭の緊張が伝わっている可能性があります。それぞれの状況を分けて見て、必要なら別々に受診してください。
Q6. 思春期の女の子で、月経との区別がつきません
周期との関係を記録すると見えてきます。月経に伴う痛みが強い場合は婦人科で相談できます。心因性と月経の両方が重なっていることもあります。
今夜これだけ
明日の朝、痛いと言われたら「つらいね」とだけ返してみてください。理由を聞くのは、その後で間に合います。
看護師視点でのまとめ
朝の腹痛は、本人が言葉にできない負荷を伝えている状態です。仮病かどうかを判定する必要はありません。痛みは実在しますし、背景に何らかの要因があることもあります。
順番としては、まず小児科で体を確認する。そのうえで記録をつけ、パターンが見えたら学校と相談する。そして家庭では、「またなの」を言わずに済む余裕をどう作るかを考える。この3つで、たいていの場面は動き始めます。
参考にした公的情報・一次情報
記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。


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