この記事の要点
- 父親の育児疲れは、弱音を吐く場所がないことで長引く
- 子どもの不調をきっかけに、父親自身が受診に至ることも
- 不調は落ち込みより先に、不眠・飲酒の増加として出やすい
- 2週間以上続くサインがあれば、父親自身が相談してよい
- 父親が自分を守ることは、家族を守ることと同じ
子どものことで疲れ切っているのに、それを言える場所がない。家では大丈夫な顔をして、職場では何も言わず、気づけば自分の状態が分からなくなっている。そういう父親に、現場で何度も出会ってきました。
児童思春期精神科の病棟で働く看護師の星野レンです。2018年4月から看護師として勤務し(2か月のブランクあり)、2021年4月から児童思春期精神科病棟で。父親でもあります。この記事は、育児に疲れた父親自身のために書きました。子どもへの対応ではなく、父親が自分を守るための話です。
父親が抱えがちな五つの負担
父親の育児疲れには、母親とは違う形の負担が含まれています。
① 弱音を吐ける場所がない
同僚に話しても「奥さんがやってくれるんでしょう」で終わってしまう。母親同士のコミュニティには入りにくい。父親同士で集まる場も限られている。育児の悩みを共有できる場所が、思っている以上に少ないのです。
② 「自分が稼がなければ」という圧
育児と同時に家計の責任も背負います。体調が悪くても休めない、転職や退職をためらう、子どもの医療費を考えると仕事を辞められない。この圧が、休息の判断を後回しにさせます。
③ 「父親も疲れる」が前提になっていない
育児疲れに関する記事やサービスは、母親向けが大半です。父親が疲れている前提で組まれた支援は少なく、「父親なんだから頑張れ」という空気が残っています。
④ 感情を出すことに慣れていない
「男は泣くな」「強くあれ」と言われて育った世代は、自分の感情を言葉にすることが苦手です。泣きたい、怒りたい、落ち込みたい。その感情を出せずに内側にため込みます。
⑤ 子どもの不調が自分を直撃する
不登校、発達の特性、思春期の不安定さ。子どもの状態は父親の心にも影響します。「自分の育て方が悪かったのか」「父親としてだめなのか」と自分を責める方も多くいます。
父親も心の病になる|現場で増えている受診
子どもの不登校や発達の相談をきっかけに、父親自身が不眠や抑うつで受診に至るケースが増えています。現場で出会う父親のなかには、「家族のために頑張ってきたら、自分が壊れた」と話す方がたくさんいます。
父親の不調が見つかりにくいのには理由があります。表に出さないため、家族にも気づかれにくいのです。「いつも通り」を装っているうちに限界に達し、ある朝起き上がれなくなる。そういう経路をたどります。
もうひとつ知っておいていただきたいのは、稼ぎ手である父親が倒れると、家計と育児の両方が同時に止まるということです。自分を守ることは、家族を守ることと同じです。父親の自己ケアは、家族全員のためのケアだと考えてください。
不調のサイン|2週間続いたら相談へ
父親の疲れは、気分の落ち込みより先に、体と行動に出ます。次のサインが2週間以上続いていたら、相談する段階です。
- 寝つけない、あるいは早朝に目が覚める
- 食欲が落ちた、または食べすぎている
- 気分の落ち込みが続いている
- 仕事に集中できない
- いらいらが増えた
- 家族との会話が減った
- 好きだったことに関心がわかない
- 頭痛・腹痛・肩こりなど体の不調が続く
- 飲酒の量が増えた
- 「消えたい」と感じることがある
とくに飲酒量の増加は、自分では気づきにくいサインです。缶が一本増えた、寝る前に飲む日が増えた。そうした変化は、眠れていないことの裏返しであることが多くあります。
最後の項目にあたる考えが浮かんだときは、期間にかかわらずその日のうちに相談してください。よりそいホットライン(0120-279-338/24時間・無料)、いのちの電話フリーダイヤル(0120-783-556/毎日16〜21時、毎月10日は8時〜翌朝8時・無料)が使えます。
父親が自分を守る五つのコツ
① 「父親だから」を疑う
父親だから泣いてはいけない、弱音を吐けない、強くあるべき。この思い込みがいちばん重くのしかかります。まず「父親も人間」と認めるところから始めてください。泣いてよく、弱音を吐いてよく、休んでよい。父親にも同じ権利があります。
② 弱音を吐ける場所を持つ
パートナー、親友、カウンセラー、主治医。本音を話せる相手を意識的に作ってください。父親の会や、同じ立場の親が集まる場も貴重です。孤独に頑張るのをやめる、というだけで負担は変わります。
③ 休む時間を先に確保する
週に1〜2時間、自分だけの時間を家族の予定に組み込んでください。余った時間で休むのではなく、先に押さえておくのが要点です。これは贅沢ではなく、長く家族を支えるために必要な時間です。
④ 外注できるものは外注する
家事代行、宅配、外食、ベビーシッター。使えるものは使ってください。「自分でやらなければ」「お金がもったいない」を手放す勇気が要ります。家族の健康を守るための費用として考えてみてください。
⑤ 専門家を頼ることを選択肢に入れる
カウンセラー、主治医、産業医。専門家に相談することを弱さと捉えないでください。適切な時期に頼れることは、判断力があるということです。早めの相談が、長い目で見た家族の安定につながります。
支えになる三つの場
話せる場所は、性質の違う三つを持っておくと安定します。
家庭。パートナーとの対話がいちばんの支えになります。週に一度でも、夫婦だけで話す時間を作ってください。お互いの本音を共有できると、孤独感が和らぎます。
職場。信頼できる同僚が一人いれば、状況を共有できます。「自分だけが苦労している」という感覚は、同じ立場の人と話すと薄れます。
外部。カウンセラー、主治医、産業医、父親同士のコミュニティ。家庭の話を家族以外にしてよいと、自分に許可を出してください。守秘義務のある相手に話せることは、それだけで負担を下げます。
アルコールやタバコに頼る前に
ストレスの出口として、酒やタバコに向かうことがあります。短期的には気分が変わりますが、睡眠の質を落とし、翌日の疲れを増やすため、長い目では逆に働きます。
代わりになりやすいのは、体を動かすこと(散歩・ランニング・入浴)、考えずに済む作業、友人との会話、自然のなかで過ごす時間です。どれも即効性はありませんが、翌日に残らないという利点があります。
すでに飲酒量が増えている場合、それは意志の弱さではなく疲れのサインです。減らそうとする前に、まず眠れているかを確かめてください。眠れていないなら、そこから相談する順番になります。
父親の役割を見直す
「父親は稼ぐ人」という枠から出てみると、負担の置き場所が変わります。
子どもの心に向き合う、家事を分担する、家族と過ごす時間を作る。これらすべてが父親の役割です。育休の取得、時短勤務、転職、在宅勤務など、家事育児の主担当になるという選択肢もあります。
現場では、母親がフルタイム、父親が時短に切り替えたご家庭にも出会います。役割を入れ替えたことで母親の負担が減り、家族全体が落ち着いた例もありました。固定した形にこだわらず、そのときの状況で決めてよいのです。
使える支援とサービス
「使えるものは使う」で構いません。父親が支援の利用に前向きであること自体が、家族の負担を軽くします。
- 家事・育児:家事代行、ベビーシッター、ファミリーサポート、宅配やミールキット
- メンタル面:精神科・心療内科、カウンセリング、産業医、勤務先のEAP(従業員支援プログラム)
- 子どもの支援:放課後等デイサービス、スクールカウンセラー、地域の子育て支援センター
- 父親向け:父親の会、パパサークル、子どもの疾患・特性ごとの家族会
勤務先にEAPがある場合は、無料で数回のカウンセリングを受けられることがあります。使われないまま制度として残っていることが多いので、一度確認してみてください。
現場から|四つのケース
※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
子どもの不登校で限界に達した父親。小学5年生の不登校が半年続き、父親自身が不眠と抑うつで受診しました。「自分の育て方が悪かった」という自責が強く出ていました。カウンセリングと短期間の服薬で回復し、父親の様子が変わったことで家庭の空気も変わりました。
仕事と育児の両立で疲れ切った父親。発達の特性がある子の通院と療育、夫婦での話し合いが重なり、仕事のほうも回らなくなっていました。家事代行を入れ、有給を計画的に取り、産業医に相談することで、配分を組み直せました。
思春期の子との関係に悩んだ父親。中学2年生との関係が悪化し、自分の役割が分からなくなっていました。父親自身がカウンセリングを受け、子どもの好きなこと(ゲーム)に関心を向けるところから関わり直しました。半年ほどで会話が戻ってきました。
夫婦で役割を入れ替えた家庭。医療的なケアが必要な子の支援のため、母親がフルタイム、父親が時短勤務に切り替えました。父親が主担当になることで母親の負担が減り、家族全体が安定しました。
父親の不調は家族に伝わる
父親が消耗した状態で関わり続けると、言葉が短くなり、表情が硬くなります。子どもはそれを敏感に受け取ります。
現場で見ていて厄介だと感じるのは、「自分のせいで父親が疲れている」と子どもが受け取ってしまうことです。この感覚は、子どもの回復をいちばん妨げるものの一つです。父親が休むことは、子どもから何かを奪うことではありません。むしろ、穏やかな時間を家に戻すための手当てです。
親の疲れの度合いを確かめたいときは、親の疲れSOSチェックリストを使ってみてください。「まだ大丈夫」と思っている段階で見るためのものです。強く当たってしまったあとの立て直しについては、怒鳴ってしまったあとの関係の修復にまとめています。
よくある質問
Q1. パートナーのほうが大変なのに、自分が疲れたと言えません
どちらが大変かを比べる必要はありません。両方が疲れているのが実情です。比較の話にすると揉めやすいので、「つらい」ではなく「この曜日の夕飯をお願いしたい」のように、具体的な作業として頼んでみてください。
Q2. 仕事を休めません。どこから手をつければよいですか
睡眠からです。休みが取れなくても、寝る時刻を30分早める、夜の飲酒を1日減らすことはできます。判断力は睡眠から戻りますので、そこが最初の一手になります。
Q3. 子どもの通院に父親も行ったほうがよいですか
一度でも同席する価値があります。父親が来た日から家庭の話の通り方が変わることは、現場でよく見ます。毎回でなくてよいので、節目の診察に合わせて調整してみてください。
Q4. 父親向けの相談先が見つかりません
子どもの受診先で「保護者の相談」として枠を取れることがあります。勤務先のEAP、産業医、自治体の精神保健福祉センターも使えます。父親限定でなくても、話せる場所であれば十分です。
Q5. 家事代行を頼むことに抵抗があります
月に1〜2回でも、半日分の余裕が生まれます。毎週でなくて構いません。「疲れているから頼む」ではなく「この時期だけ頼む」と期間を決めると、始めやすくなります。
Q6. 自分が受診したら、家族に心配をかけませんか
隠して悪化するほうが、結果として家族の負担が大きくなります。「眠れないから相談してくる」という言い方であれば、家族も受け取りやすいはずです。
今夜これだけ
今夜は、寝る時刻を30分だけ早めてください。子どもへの対応を考える前に、自分の睡眠を戻すことが最初の一手です。判断する力は、そこから返ってきます。
看護師視点でのまとめ
父親の育児疲れは、弱音を吐く場所がないことで長引きます。同僚には流され、母親のコミュニティには入りにくく、父親が疲れている前提の支援も少ない。この三つが重なって、一人で抱える形になりやすいのです。
不調は気分の落ち込みより先に、不眠や飲酒量の増加として出ます。2週間以上続くサインがあれば、父親自身が相談してよいのです。子どもの受診に付き添う立場であっても、自分が患者として相談することは何の妨げにもなりません。
そして、父親が自分を守ることは家族を守ることと同じです。稼ぎ手が倒れれば家計と育児の両方が止まります。休むことに罪悪感を持つ必要はありません。今夜できることは、寝る時刻を30分早めることだけで十分です。
参考にした公的情報・一次情報
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