この記事の要点
- 最初の30秒は結論を出さない。受け止める時間にする
- 「なんで?」は最も避けたい言葉。理由は本人にも分からない
- 一日休んだくらいでは癖にならない。条件をつけずに休ませる
- 欠席の連絡は親がする。理由は「体調不良」で十分
- 回復の経過には個人差があり、行きつ戻りつすることもある
朝、玄関で「学校行きたくない」と言われる。仕事に出る時間は迫っている。どう答えるのが正解なのか分からないまま、その場しのぎの言葉を返してしまう。多くのご家庭が通る場面です。
児童思春期精神科の病棟で働く看護師の星野レンです。2018年4月から看護師として勤務し(2か月のブランクあり)、2021年4月から児童思春期精神科病棟で。この記事では、その一言を受け取った直後から数日先までの動き方を、順を追って整理します。
最初の30秒|結論を出さない
多くの親御さんが、最初の30秒で「行きなさい」か「休んでいいよ」のどちらかを決めようとします。ここは結論を出す時間ではなく、受け止める時間だと決めておいてください。
やることは三つだけです。子どもの目線に合わせて向き合う。一度深呼吸する。そして「そっか、行きたくないんだね」と返す。評価も判断も加えず、ただ受け取ります。
言い方は「教えてくれてありがとう」「話してくれて嬉しい」でも構いません。どれも「気持ちを受け取った」というメッセージになります。行くか行かないかは、もう少し聞いてから決めようと保留にしてよいのです。
やってはいけない七つのこと
| つい言ってしまう言葉 | 子どもにどう届くか |
|---|---|
| 「なんで行きたくないの?」 | 本人も理由が分からないことが多い。「ちゃんとした理由がないと休めない」と追い詰める |
| 「みんなも頑張ってる」 | 比べられることで「分かってもらえない」と感じ、自己評価がさらに下がる |
| 「行かないと将来どうなるの」 | 限界の状態では脅しにしかならない。将来の話は回復してからでよい |
| 「今日だけ休んで、明日は必ず行くこと」 | 条件つきの休みは休息にならない。プレッシャーを抱えたまま一日を過ごす |
| 「お母さんが悲しむよ」 | すでに申し訳ないと感じている子に、さらに罪悪感を重ねる |
| 「お兄ちゃんはちゃんと行ってる」 | きょうだい関係も悪化し、自己肯定感を大きく下げる |
| 玄関から押し出す・無理に連れて行く | その日は行けても、心の傷が深く残る。根本は解決しない |
最初にすべき五つのステップ
① 「そうか」と受け取る。余計な言葉は要りません。評価も判断もせず、ただ受け取ることが、「この人には話せる」という安心につながります。
② 「話してくれてありがとう」と伝える。勇気を出して言った一言を、まず認めてください。「言うの、勇気いったよね」でも構いません。気持ちを伝えてよいという経験が積み重なります。
③ 今日一日、休ませる。一日休んだくらいでは癖になりません。無理に行かせて限界を超えるほうが、回復に何倍も時間がかかります。
④ 家でゆっくりさせる。「休むなら勉強しなさい」「ゲームは駄目」と言いたくなりますが、その日は何もしなくていい日にしてください。休むことは、エネルギーを補充する作業です。
⑤ 学校への連絡は親がする。「自分で先生に電話しなさい」は避けてください。理由も詳しく説明する必要はなく、「体調不良でお休みします」で十分です。本人が言わないでほしいと望むことは、無理に伝えなくて構いません。
休ませるかどうかの判断
次のサインがあるときは、迷わず休ませてください。無理に登校させると悪化する可能性が高い状態です。
- 本人が「行きたくない」と言葉にした
- 頭痛・腹痛・吐き気などの体調不良がある
- 表情が暗い、元気がない
- 食欲がない、睡眠が乱れている
- 朝起きられない
- 泣いている、パニックになっている
「一度休ませると癖になる」は、半分だけ正しい話です。無条件に休ませ続ければ、学校に行かない状態が日常になることはあります。けれども、本当にしんどいときに休ませたほうが、長い目で見て登校できる日数は増えます。我慢して通い続けた結果、ある日まったく行けなくなるほうが、はるかに大きなリスクです。
休んでいる間にゲームやスマホをすることを、過剰に心配しなくて構いません。回復の段階では、安心できる活動をしていることのほうが大切です。ただし生活リズムが崩れるほどの長時間使用は、少しずつ調整していきます。
数日続いたときの動き方
二日、三日と続くと、多くのご家庭が焦り始めます。ここで方針が揺れると、子どもは「親の顔色」を見るようになります。
おすすめしているのは、期間を区切ることです。「今週はいったん休む」と決めて、毎朝の交渉をやめます。毎日「今日はどうする?」と聞かれること自体が、子どもにとって負担になります。
そのうえで、週の終わりに担任へ連絡し、次の週の見通しを共有します。体の症状が続いている場合は、この段階でかかりつけの小児科を受診してください。「お腹が痛い」と学校を休む子の記事もあわせてご覧ください。
三つの典型パターン
| 型 | 見られる形 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 午前型 | 朝は行けないが午後は元気になる。起立性調節障害が背景にあることも | 朝から行かせようとしない。午後からの登校も認める。体の要因を確認する |
| 断続型 | 週に2〜3日休む。行ける週と行けない週が交互に来る | 「行ける日に行く」でよい。毎日を目指さず、長い目で見る |
| 完全休止型 | まったく行けない。エネルギーが枯渇している段階 | 復帰を急がない。まず家庭で安心して過ごせる形を作る |
朝だけ起きられない状態が続くときは、起立性調節障害と不登校の関係を確認してください。体の病気が背景にあることがあります。
回復には段階がある
| 段階 | 見られる様子 | この時期にすること |
|---|---|---|
| 枯渇期 (1〜4週間) | 無表情/言葉数が少ない/寝てばかり/食事が進まない/学校の話題を嫌がる | 何もせず休ませる。充電の期間と考える |
| 充電期 (1〜3か月) | 表情が戻る/家族と会話できる/好きなことに少し興味/睡眠が整い始める | 家庭での活動を少しずつ広げる。外出は本人のペースで |
| 準備期 (2〜6か月) | 外に出られる/友達に会いたいと言う/勉強に興味が戻る/進路を意識し始める | フリースクールや習い事など、新しい場を提案してよい時期 |
| 再構築期 (6か月〜) | 新しい居場所に通える/自分のペースで学べる/将来の話ができる | 本人の選んだ形を支える |
この表を持っておくと、「いま何をすべきか」が決まります。枯渇期に外出を促しても動けませんし、準備期に何も提案しないと機会を逃します。段階を見誤らないことが、遠回りを減らします。
「行きたくない」の背景にあるもの
理由は一つではありません。現場で見てきた背景を挙げます。
- 人間関係:いじめ、友人関係の変化、担任との相性
- 学業:授業についていけない、テストへの不安、発表が苦手
- 感覚の負担:教室のざわめき、給食のにおい、体育の着替え
- 体の不調:起立性調節障害、睡眠リズムの乱れ、慢性的な痛み
- 心の不調:不安症、抑うつ状態、発達特性による疲れやすさ
- 家庭の変化:転居、家族の病気、きょうだいの誕生
本人が理由を言えないのは、隠しているからではなく、複数が絡み合っていて言葉にできないことが多いためです。「嫌」なのか「怖い」なのかで対応が変わりますので、行き渋りと不安症の見分け方も参考にしてください。
年代による違いもあります。小学校低学年では母子分離の不安が中心になりやすく、高学年では友人関係が絡み始めます。中学生では学業と人間関係が重なり、高校生では進路への迷いが加わります。学年が上がるほど、原因は複合的になります。
学校への伝え方
担任への連絡は、詳しく説明するより「いま分かっていること」と「お願いしたいこと」を短く伝えるほうが動いてもらえます。
「本人が学校に行きづらいと言っており、しばらく休ませます。理由は本人もはっきりとは言えていません。教室での様子で気づかれたことがあれば教えてください」。この程度で十分です。
担任だけでなく、養護教諭とスクールカウンセラーにもつながっておくと選択肢が増えます。保健室登校や別室登校という形もあります。保健室登校という選択にまとめています。
家庭内で方針が割れることもあります。夫婦で意見が違うときは、子どもの前で議論しないでください。「休ませる/行かせる」の結論より、対応を統一することのほうが本人には効きます。話し合いは別の時間に、できれば第三者(スクールカウンセラーなど)を交えて行うと進みやすくなります。
長期化したときの選択肢
数か月単位になったとき、学校に戻ることだけを目標にしないでください。学びと居場所は、他にもあります。
- 保健室登校・別室登校(在籍校のまま、教室以外で過ごす)
- 教育支援センター(適応指導教室。自治体が運営し、出席扱いになることが多い)
- フリースクール(民間の居場所。費用と方針は施設ごとに異なる)
- オンライン学習(自宅で自分のペースで学ぶ。出席扱いの制度もある)
- 放課後等デイサービス(発達特性がある場合)
進路の全体像は不登校 完全ガイドにまとめています。中学卒業後の道も、通信制高校をはじめ選択肢は広がっています。
親自身のケアと罪悪感
「自分の育て方が悪かったのでは」と考える方が、非常に多くいます。
不登校の背景は、本人の特性、体の状態、学校の環境、友人関係が複雑に重なっています。育て方の一点で決まるものではありません。不登校は甘えなのかを扱った記事でも、この点を詳しく書いています。
現実的な負担も見過ごせません。仕事を休む、昼食を用意する、家に一人でいる子を気にかける。これが数か月続くと、保護者のほうが先に消耗します。眠れない、食欲がない状態が続く、または生活への影響が強いときは、期間だけで判断せず保護者の方自身も相談してください。親の疲れSOSチェックリストも使えます。
現場から|「行けない」と言えるまでの時間
※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。
小学5年の子が、半年ほど朝の腹痛を訴えながら登校を続けていました。休んだのは月に一、二日。担任からも「よく頑張っている」と言われていたそうです。
ある朝、玄関で「もう無理」と言って動かなくなりました。母親は驚きましたが、あとから振り返ると、腹痛が始まった時点でサインは出ていたと言います。
この子が後で話したのは、「休みたいって言ったら、お母さんが困ると思った」ということでした。半年間、言えずにいたのです。
「行きたくない」と言えるまでに、子どもは長い時間をかけています。言葉にできた時点で、すでに限界に近いことがほとんどです。その一言を、始まりではなく、積み重なった末に出たものとして受け取ってください。
よくある質問
Q1. 仕事があり、休ませると家に一人になります
小学生であれば、祖父母やファミリーサポートを検討してください。中学生以上なら、一人で留守番できることも多くあります。「昼に一度連絡する」と決めておくと、双方が安心します。
Q2. 「明日は行く」と言うのに、朝になると行けません
嘘をついているわけではありません。夜は本気でそう思っていて、朝になると体が動かないのです。前夜の約束を責めないでください。約束させること自体をやめると、朝の消耗が減ります。
Q3. 勉強の遅れが心配です
枯渇期に勉強を持ち出すと、休息そのものが壊れます。充電期以降、本人が「やってみる」と言ったところから再開してください。学習の遅れは、後から取り戻せます。
Q4. 昼夜逆転してきました
就寝を早めるより、起床時刻を一定にするほうが戻ります。急に戻そうとせず、15分ずつ前倒ししてください。不登校の昼夜逆転の記事に詳しくまとめています。
Q5. 祖父母から「甘やかしすぎ」と言われます
説明を尽くそうとすると消耗します。「専門家と相談しながら進めている」と伝えて、詳細は共有しなくて構いません。全員に理解してもらう必要はありません。
Q6. いつ受診を考えればよいですか
体の症状や気分の落ち込みが続く、生活への影響が強い、本人や家族が対応に迷う場合は相談を検討してください。「消えたい」という言葉が出たときは、期間にかかわらずその日のうちに相談してください。
今夜これだけ
今夜は「明日どうする?」と聞かないでください。毎晩その質問をされること自体が、子どもの負担になっています。明日の朝、そのとき決めれば間に合います。
看護師視点でのまとめ
最初の30秒は、結論を出す時間ではなく受け止める時間です。「そっか、行きたくないんだね」で十分。行くか行かないかは、その後に決められます。
「なんで?」は最も避けたい言葉です。本人にも理由が分からないことがほとんどで、聞かれることで「理由がないと休めない」と追い詰められます。休ませるときは条件をつけず、欠席の連絡は親がしてください。
そして、「行きたくない」と言えるまでに、子どもは長い時間をかけています。言葉になった時点で、すでに限界に近い。その一言を、積み重なった末に出たものとして受け取っていただけたらと思います。診断や治療の判断は必ず医師にご相談ください。
参考にした公的情報・一次情報
記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。


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