本記事にはプロモーションが含まれています。
この記事の要点
- ペアトレは「親を直す」ではなく「親を支援する」プログラム
- ほめ方・指示の出し方・行動の見方を、技術として学ぶ
- 児童精神科、療育機関、自治体、オンラインなど受け皿は複数ある
- 回数・期間・費用は実施機関やプログラムによって異なる
- 合わなければ途中でやめてよい。書籍で学ぶ選択肢もある
「一度、ペアレントトレーニングを受けてみませんか」。児童精神科や療育機関でこう勧められて、「私の育て方が悪いと言われているのだろうか」と落ち込んでしまう親御さんは少なくありません。
結論からお伝えすると、それは誤解です。この記事では、児童思春期精神科の看護師として現場で見てきた立場から、ペアトレとは何をするものなのか、どこで受けられるのか、受けるとどう変わるのかを整理します。
ペアレントトレーニング(ペアトレ)とは
ペアレントトレーニングとは、親が子どもへの関わり方を体系的に学ぶ家族支援プログラムのことです。子ども本人へのカウンセリングや療育とは別の枠組みで、「親自身が学ぶ場」として用意されています。
もともとは1960〜70年代のアメリカで、応用行動分析(ABA)をベースに開発されたものです。日本でも2000年代以降、国立精神・神経医療研究センターや肥前精神医療センターなどが日本版プログラムを整備し、現在では全国の児童精神科・療育機関・自治体で広く実施されています。応用行動分析に加え、社会的学習理論や愛着理論の知見も取り入れられており、有用性が研究されていますが、内容や本人・家庭との相性によって得られる変化は異なります。
ここで大事なのは、ペアトレの本来の趣旨は「親を直す」ではなく「親を支援する」だということです。「あなたの育て方が悪いから子どもがこうなった」という前提では、決してありません。むしろ、特性のある子の育児では一般的な子育て本のやり方が通用しにくく、保護者がひとりで抱え込みやすい構造があります。そこに対して、現場で使えるスキルと「見方の枠組み」を渡すのがペアトレです。
勧められるのは「家庭でできることを増やしましょう」というポジティブな打診であって、責められているわけではありません。ここを最初に押さえておくと、その後の話を冷静に聞きやすくなります。
主要な日本版プログラムと、対象になる家族
日本でよく使われている代表的なプログラムを挙げます。
- 精研式(国立精神・神経医療研究センター式)など、国内でも複数のプログラムがあります。ADHDのある子の家族向けに開発され、現在は幅広く使われています
- 肥前式(肥前精神医療センター式)——知的障害や発達障害のある子の家族向けに整備されたプログラム
- トリプルP——オーストラリア発の国際的プログラム。予防的な段階から使えるのが特徴
- まめの木式——比較的短期間で学べる構成
- PCIT(親子相互交流療法)——親子が一緒に参加し、その場でコーチングを受ける形式
- 思春期向けプログラム——年齢が上がった子への関わりに特化したもの
選び方のコツは、「お子さんの年齢」と「通いやすさ」で絞ることです。プログラム名にこだわるより、実際に続けられる場所を選ぶほうが現実的です。
対象になりやすいのは、ADHDやASDなど発達特性のある子の家族、反抗挑戦性障害の子の家族、知的障害の子の家族、不登校の子の家族、愛着の課題がある子の家族など。ただし実際には、対象は実施機関やプログラムによって異なり、診断がなくても相談できる場合があると考えて構いません。
何をするのか——ペアトレの5つの柱
① 行動を3種類に分けて見る
最初の山場が、子どもの行動を「増やしたい行動」「減らしたい行動」「絶対なくしたい行動」の3種類に分けるワークです。「宿題を始める」は増やしたい行動、「兄弟をからかう」は減らしたい行動、「窓から物を投げる」はなくしたい行動、というように整理します。
ふだんは「困った行動」とひとまとめにしてしまいがちですが、分類するだけでどこから手をつければよいかが急に見えてきます。
② ほめ方の練習
「ほめる」と聞くと誰でもできそうに思えますが、ペアトレではほめ方には技術があると教わります。コツは2つ。
- 具体的に——「えらいね」より「自分から靴をそろえてくれて、ありがとう」
- タイムリーに——できたことに気づいた時に、具体的に伝える
「あとでまとめてほめよう」だと、子どもの脳の中で行動とほめ言葉が結びつきません。最初は意識しないとできませんが、練習するうちに自然と出てくるようになります。
③ 指示の出し方
- 短く——1回の指示は1つまで(「お風呂に入って、歯みがいて、宿題して」はNG)
- 肯定形で——「走らないで」より「歩いて来てね」
- 近くで・目を見て——別室から大声で叫ぶより、そばに行って静かに伝える
とくにADHDやASDのお子さまは、否定形の指示や複数の指示が同時に出ると、頭の中で処理しきれなくなりがちです。指示の形を変えるだけで、こちらが拍子抜けするほど通るということもよく起こります。
④ ペナルティの使い方
「絶対なくしたい行動」が出たときの対応として、タイムアウトなどの使い方も学びます。タイムアウトは、お仕置きとして閉じ込めるのではなく、「いったんその場を離れて、興奮を落ち着かせるための短い時間」と位置づけるのが基本です(時間や方法は年齢・発達・プログラムに合わせ、支援者と確認する)。
叩く・大声で怒鳴る・長時間の説教は、ペアトレでは原則として推奨されません。短期的には行動が止まっても、長期的には親子関係を傷つけ、二次障害につながりやすいことがわかっているためです。「叱る」より「行動を止める」ことに重点を置く形になります。
⑤ 親自身のセルフケア
意外かもしれませんが、後半では親自身のセルフケアを扱う回がよくあります。睡眠・休息・愚痴を言える相手の確保・配偶者と作業を分ける、といった話題です。
「親が倒れたら、子どもの支援も止まる」——これは現場で働いていて一番痛感するところです。ここを精神論で押し切らず、プログラムの正規メニューとしてセルフケアが入っているのは、ペアトレの大きな特徴のひとつだと思います。
中核スキル「ABC分析」
ペアトレの中核となる分析手法がABC分析です。行動の前後にある状況や関わりを整理する助けになります。
- A(先行事象)——行動が起きる直前に何があったか。場所、時間、誰がいたか、本人の状態(空腹・眠い・疲れている・興奮している)
- B(行動)——実際に起きた行動。「癇癪を起こした」「叩いた」など、観察可能な形で
- C(結果)——行動の直後に何が起きたか。親の反応、周囲の反応、本人が得たもの・失ったもの
具体例を挙げます。A「お母さんがスマホを取り上げた」→ B「子どもが大声で叫んだ」→ C「お母さんがスマホを返した」。この場合、子どもは「大声で叫ぶと、スマホが返ってくる」と学習してしまいます。結果が、次の行動を強化しているわけです。
ABC分析を覚えると、「子どもの行動には必ず理由がある」と理解できるようになります。「困った行動」を、感情ではなく分析の対象として見られるようになり、対応の質が大きく変わります。ペアトレを卒業した後も、困った行動が起きたときにすぐ反応せず「A→B→C」をメモする習慣を続けると、行動のパターンが見えてきます。
関連して、行動の原理も学びます。強化(望ましい行動の直後にいいことを起こして増やす)、消去(注目を得るための行動に反応しないことで減らす)、分化強化(困った行動と両立しない望ましい行動をほめる)、環境調整(そもそも困った行動が起きにくい環境にする)、シェイピング(できることを少しずつ増やす)、トークンエコノミー(シールなどで達成を可視化する)。難しそうに聞こえますが、講座では一つずつ実例で学んでいくので心配は要りません。
1回ごとの流れと、ホームワーク
1回の流れや時間はプログラムによって異なり、講義、振り返り、ロールプレイ、家庭での実践などを組み合わせて進めます。
ペアトレの効果を左右するのがホームワークです。講義を聞くだけでは身につかず、家庭で実際に試して、その結果を次回持ち寄る。この往復があってこそスキルが定着します。とはいえ「完璧にやらなければ」と気負う必要はありません。「今週はほめる場面を3回作る」程度の小さな課題から始まります。
ロールプレイに苦手意識を持つ方も多いのですが、コツは「うまくやろう」と思わないこと。親役と子役の両方をやってみると、指示された側の感覚が体でわかります。他の参加者のやり方から学べることも多く、実はここが一番実りのある時間だったと振り返る方も少なくありません。
どこで受けられるか・費用の目安
| 場所 | 特徴 |
|---|---|
| 児童精神科外来・小児科のメンタル外来 | 主治医からの紹介で参加できることが多い。医療として実施されるケースもある。 |
| 児童発達支援センター・療育機関 | 未就学〜小学校低学年向けの保護者支援として実施されていることが多い。 |
| 自治体の親支援講座 | 市区町村の子育て課・保健センター主催。無料〜低額で受けられるものが多い。 |
| NPO・民間の発達支援団体 | テーマ別(ADHD向け・思春期向け等)にプログラムが組まれていることもある。 |
| 書籍・オンライン講座 | 自宅で自分のペースで進められる。集団のしんどさが苦手な方に向く。 |
このほか、オンラインで受講できるプログラムも増えており、地方在住の方や下のお子さんが小さい家庭でも参加しやすくなりました。書籍で自学する方法もあります。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 1回あたりの時間 | 60〜120分 |
| 頻度 | 週1回〜隔週が中心 |
| 全体の回数 | 6〜10回(短縮版なら4〜5回) |
| 期間 | 2〜4か月程度 |
| 形式 | 5〜8人程度のグループが多い/個別もあり |
費用は実施主体によって大きく異なります。自治体の子育て講座なら無料〜数千円、医療機関で診療の一環として行われる場合は保険診療の範囲内になることもあります。民間のプログラムは数万円かかることもあるため、まずはお住まいの自治体と、通っている医療機関に確認するのが順序です。
受けると、親に何が起きるか
現場で見ていて、参加した親御さんに共通して起きる変化が3つあります。
① 子どもの行動を「困った」から「データ」に見られるようになる。ABC分析の枠組みが入ると、「また癇癪だ」とうんざりしていた場面が「この直前に何があったんだろう」という観察に変わります。感情的な消耗が減るのは、この視点の転換によるところが大きいのです。
② 自分を責めるループから抜けやすくなる。「私の育て方が悪い」という思考は、実は何の解決にもつながりません。ペアトレでは行動と環境に焦点を当てるので、「誰が悪いか」ではなく「何を変えるか」に思考が向かうようになります。
③ 配偶者・祖父母との連携が取りやすくなる。「なんとなく優しくして」ではなく「この場面ではこう対応する」と共通言語で説明できるようになるため、家庭内の方針がそろいやすくなります。
現場で見てきたケース
※守秘義務に配慮し、複数のケースを一般化しています。
ADHDの小2男子の母親。指示が通らない、宿題が始められない、夜なかなか寝ない——毎日疲弊されていました。「私が悪いと言われるのかも」と身構えながら参加されましたが、3回目あたりから表情が変わってきました。「短く指示するだけで、こんなに通るんだ」と気づき始めたのです。8回終了後、「ペアトレで息子のADHDが治ったわけじゃないけれど、私の見え方が変わった。それで十分だった」と話してくださいました。
ASDの4歳児の両親。父親も参加を決意し、夫婦で受講。最初は「育児は妻に任せていた」状況でしたが、夫婦で同じ知識・スキルを持つことで家庭での関わりが一貫し、お子さまの混乱が減っていきました。母親の負担も大きく軽減し、「夫婦で参加したことが、家族全体の救いになった」とのことでした。
反抗的な態度が強かった小5女子の母親。「もうどうしていいかわからない」と限界状態で参加。ABC分析を学ぶうちに、「母親の指示の出し方」と「子どもの反抗」のループが見えてきました。指示の出し方を変え、ほめる機会を増やし、タイムアウトを正しく使うことで、半年後には母娘で笑い合える時間が増えていきました。
挫折しやすいポイントと、受けない選択
正直にお伝えすると、ペアトレには挫折しやすいポイントがあります。
- すぐには効果が出ない——変化を感じるまで数週間かかるのが普通です
- 「うまくいかない自分」を責めてしまう——講座で習った通りにできない日は必ずあります
- ホームワークが負担——記録が続かない日があっても、脱落ではありません
- 他の参加者と比較してしまう——家庭の事情も子どもの状態も違うので、比べる意味はありません
- 子どもの状態が悪化したように見える——これまで通っていた要求が通らなくなる時期に、一時的に行動が激しくなることがあります(消去バースト)。むしろ変化が起きている証拠です
そして、ペアトレは万能ではありません。下のお子さんがまだ小さくて毎週通うのが現実的でない、うつ状態で新しいことを学ぶ余力がない、グループで自分の話をするのがどうしても苦手、地理的に通える場所がない——こうした事情があるなら、無理にグループ参加にこだわらなくて大丈夫です。
最近はペアトレの内容を解説した書籍やオンライン講座もたくさんあり、自宅で自分のペースで進められます。「合わなかったら途中でやめる」「気になる回だけ書籍で読む」という付き合い方でも、十分に学べます。選択肢の一つとして、肩の力を抜いて検討してみてください。
父親の参加と、きょうだいがいる家庭
父親が参加すると、家庭内の方針が一貫し、母親の孤立感が大きく減ります。とはいえ、平日日中の開催が多い、仕事の調整が難しい、といったハードルがあるのも事実です。最近は土日開催やオンライン開催のプログラムも増えていますので、探してみる価値があります。全回は難しくても、1回だけでも同席する、あるいは配偶者から内容を聞いて家庭で一緒にロールプレイをする、という関わり方でも意味があります。
きょうだいがいる家庭では、ペアトレで学んだスキルをきょうだい全員に等しく使うのがコツです。特性のある子にだけ特別な関わりをすると、きょうだいは「不公平だ」と感じます。ほめ方も指示の出し方も、全員に適用すれば「その子だけ特別扱い」にはなりません。加えて、きょうだい一人ひとりとの時間を確保し、「ありがとう」を具体的に伝えることも忘れないでください。
薬物療法との併用と、他の心理療法との違い
ADHDなどでは、薬物療法とペアトレを併用することがよくあります。薬は「集中しやすい状態」「衝動を抑えやすい状態」を作る役割、ペアトレは「その状態で何を学ぶか」を作る役割と考えると分かりやすいでしょう。薬だけでは行動のパターンは変わりにくく、ペアトレだけでは本人の生物学的な困難が残る。両輪で進めるのが基本です。薬についてはADHDの薬について家族が知っておきたいこともご参照ください。
他の心理療法との違いも整理しておきます。子ども向けの個別カウンセリングは本人の内面に、家族療法は家族関係の力動に、遊戯療法は遊びを通じた表現に、CBTは本人の考え方のクセに、SSTは本人の対人スキルにそれぞれ焦点を当てます。ペアトレはこれらと競合するものではなく、「親の関わり方」というアプローチを担当するもの。組み合わせて使われることがほとんどです。
よくある質問
Q1. 何歳の子の親が対象ですか?
プログラムによりますが、未就学児〜小学生の親を対象としたものが最も多いです。思春期の子に特化したプログラムもあります。年齢が上がるほど「指示」より「交渉」の比重が増えるため、お子さんの年齢に合ったものを選ぶと実践しやすくなります。
Q2. 診断書がないと受けられませんか?
自治体の子育て講座や民間のプログラムは、診断がなくても参加できるものが大半です。医療機関で診療の一環として行われるものは、対象が限定されることがあります。まずは問い合わせてみてください。
Q3. 一人で参加してもいいですか?
もちろんです。夫婦参加が望ましいとされますが、実際には片方だけの参加が最も多いのが現実です。学んだことを家庭で共有することで、一人参加でも十分効果があります。
Q4. 効果が出るまでどれくらいかかりますか?
個人差は大きいのですが、3〜4回目あたりで「あれ、通じた」という手応えを感じる方が多い印象です。ただし、子どもの行動が変わるより先に、親の見え方が変わることのほうが多くあります。
Q5. グループが苦手なので個別で受けたいのですが
個別形式のプログラムやオンライン受講もあります。PCITのように親子で参加する形式もあり、グループが唯一の形ではありません。申し込み時に相談してみてください。
Q6. ペアトレを受ければ、子どもの問題行動はなくなりますか?
なくなるわけではありません。特性そのものが変わるのではなく、関わり方が変わることで困りごとの頻度や強さが下がる、というのが実際のところです。「治す」ではなく「暮らしやすくする」と考えていただくのが現実的です。
Q7. 受けるかどうか迷っています
迷っている段階なら、まず書籍を1冊読んでみるのもおすすめです。それで「これは役立ちそう」と感じたら受講を検討する。合わないと感じたら受けない。どちらも正解です。「勧められたから受けなければ」と義務に感じる必要はありません。
今夜これだけ
今夜は受講を決めなくて構いません。お住まいの自治体や通っている医療機関でペアトレを実施しているか、一か所だけ調べてみてください。
まとめ
ペアレントトレーニングは、「親を直す」プログラムではなく「親を支援する」プログラムです。ほめ方、指示の出し方、行動の見方を技術として学び、家庭で試して、次回持ち寄る。この往復の中で、子どもの行動より先に親の見え方が変わっていきます。
受け皿は、児童精神科、療育機関、自治体の講座、NPO、オンラインと複数あります。全6〜10回・2〜4か月が一般的で、無料〜低額のものも少なくありません。まずは自治体と、通っている医療機関に確認するところから始めてみてください。
そして、合わなければやめてよいということも、あわせて覚えておいてください。書籍で学ぶ、気になる回だけ受ける、いまは受けないと決める。どの選択も間違いではありません。ペアトレは義務ではなく、使える道具のひとつです。
勧められて落ち込んだ方がいらっしゃったら、最後にもう一度お伝えします。それは「あなたを責める言葉」ではなく、「一緒にやりましょう」という提案です。診断や治療方針の判断は、必ず主治医にご相談ください。
参考にした公的情報・一次情報
記事内の制度・相談先・健康情報は、以下を2026年8月15日に確認しています。


コメント