ASD(自閉スペクトラム症)の子に響く声かけ|特性に合わせた伝え方10選【精神科看護師が解説】

畳の部屋の机で絵カードを並べて話す母親と、向かいに座って見つめる男の子。視覚的な手がかりを使った声かけのイメージ 発達障害・特性理解

この記事の要点

  • ASDの子は言葉を字義通りに受け取ることがある
  • 「ちゃんと」「あとで」「少し」などの曖昧な言葉は届きにくい
  • 指示は一度に1つ、短く、具体的に
  • 聞こえていても処理が追いつかないことがある
  • 紙に書く・絵で示すなど、目で見える形にすると伝わる

「何度言っても伝わらない」——その悩みは珍しくありません

「早く着替えてって何回言ったら分かるの」「宿題やりなさいと言っても全く動かない」。ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんを育てている保護者の方から、外来や病棟でこうした声を本当によく聞きます。毎日同じことを言い続けて、それでも伝わらない。声を荒らげてしまって、夜になって自己嫌悪に陥る。そんな悪循環に疲れ果てている方は、決して少なくありません。

私は2021年4月から児童思春期精神科病棟で、看護師として働いてきました。入院してくるASDのお子さんたちと毎日関わる中で痛感するのは、「伝わらない」のは子どもの反抗でも、親の愛情不足でもないということです。多くの場合、そこにあるのは「言葉の受け取り方の違い」——つまり、伝え方のチャンネルが合っていないだけなのです。

チャンネルが合えば、驚くほどすんなり伝わることがあります。魔法の言葉があるわけではありませんが、「ASDの子に届きやすい伝え方」には一定のコツが存在します。なお、この記事は診断や治療を目的とするものではありません。診断・治療に関する判断は、必ず主治医や専門医にご相談ください。

ASDの子は「聞こえ方」が違う

テクニックだけ真似しても、うまくいかないときに応用が利きません。まず「ASDの子は言葉をどう受け取っているのか」を押さえておきましょう。大きく3つの特徴があるといわれています。

① 字義通りの理解——言葉がそのままの意味で届く

「お風呂見てきて」と頼んだら、本当にお風呂を「見て」戻ってきた。「ちょっと待って」と言ったら、きっかり数秒だけ待って話しかけてきた。これは、ふざけているのでも揚げ足を取っているのでもなく、言葉を文字通りに受け取る特性です。

「お風呂見てきて」の本当の意味は「お湯が適量たまったか確認して、たまっていたら蛇口を閉めてきて」です。多くの人は文脈からこの意図を補いますが、ASDの子はこの「補う」処理が苦手なことがあります。冗談や皮肉が通じにくいのも同じ理由で、「もう知らないよ」と突き放すつもりで言った言葉を、「お母さんは僕のことを知らないんだ」と文字通り受け取って混乱してしまう子もいます。対策はシンプルで、省略をやめて、やってほしい行動をそのまま言葉にすることです。

② 曖昧な言葉の壁——「ちゃんと」「あとで」「少し」

どれも1日に何度も使う言葉ですが、ASDの子にとってはとても難しい言葉です。「ちゃんと」がどの状態を指すのか、「あとで」が何分後なのか、明確な基準がどこにも示されていないからです。本人なりに「ちゃんとやった」つもりでも大人の基準と食い違い、「全然ちゃんとやってないでしょ!」と叱られる。本人からすると、理不尽に怒られた体験だけが積み重なっていきます。

対策の基本は「数字と固有名詞に置き換える」こと。「あとで」は「時計の長い針が6のところに来たら」に、「ちゃんと片付けて」は「ブロックを青い箱に入れて」に。最初は面倒に感じるかもしれませんが、慣れれば自然に口から出るようになりますし、「言い直し」や「言い合い」が減るので結果的に親の負担も軽くなります。

③ 聴覚処理の特性——聞こえているのに処理が追いつかない

「呼んでも返事をしない」を「無視している」と受け取ってしまう大人は多いのですが、実際には「聞こえているのに処理が追いついていない」ことが少なくありません。特に難しいのが、複数の音の中から必要な声だけを選び取る作業です。テレビの音、外の車の音、きょうだいの声が同時に鳴っている中で、お母さんの「ご飯だよ」だけを拾い上げるのは、かなり高度な処理になります。

長い文章を一度に言われると、前半を処理している間に後半が流れていってしまうこともあります。「手を洗って、うがいして、着替えたらおやつだからね」と言われて「手を洗う」だけ実行して止まってしまうのは、サボりではなく処理容量の問題である可能性が高いのです。

対策は、名前を呼んで注意をこちらに向けてから話す、テレビを一時停止してから伝える、1文を短くする、など。そしてもう1つ覚えておきたいのが「待つ時間」です。返事がないからと3秒で言い直すと、処理中の頭にさらに新しい音声が流れ込み、渋滞が悪化します。声をかけたら心の中で10秒数えて待つ。たったこれだけで動き出せる子は、体感としてかなり多いです。

声かけの3原則——具体的に・視覚的に・1つずつ

① 具体的に。やってほしい行動を、誰が聞いても同じ行動をイメージできるレベルまで具体化します。ポイントは「行動」「数字」「物の名前」の3点セット。「早くしなさい」は行動が何も示されていない典型的なNGフレーズで、「7時50分までに、靴下を履いて玄関に立ってね」と言い換えれば動きやすくなります。

もう1つ大切なのが「否定形ではなく肯定形で伝える」こと。「走らないで」を理解するには、まず「走る」イメージを頭に浮かべ、それを打ち消し、代わりの行動を自分で選ぶ、という3段階の処理が必要です。とっさの場面ほどこの処理は間に合いません。「騒がないで」より「アリさんの声でお話しして」、「触らないで」より「手はポケットに入れておこう」。禁止ではなく代わりの行動を示すのがコツです。

② 視覚的に。ASDの子の多くは、耳から入る情報より目から入る情報のほうが処理しやすいといわれています。音声は言った瞬間に消えてしまいますが、絵や文字は残り続けるため、自分のペースで何度でも確認できるからです。ホワイトボードに「①きがえる ②はをみがく ③かばんをもつ」と書いて玄関に貼る。スマホのタイマーを見せながら「この数字が0になったらおしまい」と言う。こうした小さな工夫はすべて視覚支援です。

「言葉が達者な子だから視覚支援は不要」と思われがちですが、これは誤解です。話す力と、聞いて処理する力は必ずしも一致しません。「言って伝わらなかったら、見せて伝える」——声を大きくするより、紙に書くほうが伝わることは本当に多いのです。

③ 1つずつ。「手を洗って、着替えて、宿題出して」という3連続の指示は、本人の中で渋滞を起こします。1つの指示を出し、できたのを確認してから次を出す。「そんなに丁寧にやっていたら時間がかかる」と感じるかもしれませんが、実際には3つまとめて言って結局1つもできず、怒って言い直して、泣かせて、なだめて……という時間のほうがずっと長いのです。どうしても複数の手順を伝えたい場合は、音声ではなく視覚に切り替えます。音声で3つはNGでも、紙に書いた3つはOK。この違いを知っておくと選択肢が広がります。

シーン別OK/NGフレーズ10選

先にお伝えしたい前提が2つあります。1つ目は、NGフレーズを言ってしまっても自分を責めないでほしいということ。ここに挙げるNG例は、どれも日本中の家庭で毎日使われている普通の言葉です。「禁句」ではなく「ASDの子には届きにくい言い方」というだけのことです。2つ目は、OKフレーズは「そのまま使う台本」ではなく「型」だということ。お子さんの年齢や言葉の発達段階に合わせて調整してください。

1. 朝の支度

【NG】「早くしなさい!遅刻するよ!」——「早く」は曖昧語の代表格。「遅刻するよ」も、結果を実感を持って想像するのが苦手な子には脅しとして機能せず、不安と不快感だけが残ります。
【OK】「長い針が10になるまでに、くつしたをはこう」——時計という視覚情報と、1つの具体的行動をセットに。時計が読めない子なら「この歌が終わるまでに」でも構いません。終わりが目や耳で分かる形にするのがポイントです。

2. 宿題

【NG】「宿題やりなさい。いつになったらやるの」——「宿題」は実は大きすぎる単位です。漢字ドリル、算数プリント、音読と複数含まれ、どれから手をつければいいか分からず固まってしまう子がいます。
【OK】「5時になったら、漢字ドリルを1ページだけやろう」——開始時刻と、最初の課題と、量を1つに絞る。取りかかりさえできれば続けられる子は多いので、入り口のハードルを極限まで下げるのがコツです。勉強の教え方は発達障害の子に合った勉強法の記事でも解説しています。

3. 活動の切り替え

【NG】「はい、もうおしまい!片付けて!」——夢中になっている活動を予告なしに打ち切られるのは非常に苦痛です。区切りのイメージがないところに突然終了を宣告されるため、強い抵抗やパニックにつながります。
【OK】「あと5分で終わりだよ。タイマーが鳴ったらおしまいね」——事前予告と、視覚・聴覚で分かる合図の組み合わせ。5分前、3分前、1分前と段階的に予告するとさらに切り替えやすくなります。

4. 外出前

【NG】「出かけるから準備して」——「準備」の中身が示されていません。行き先を伝えずに車に乗せると、着いた先で大きく崩れることもあります。
【OK】「今からスーパーに行くよ。帰りは4時ごろ。上着を着て、水筒を持ってね」——「どこへ・いつまで・何を持って」の3点セットを意識してください。慣れない場所へ行くときは、事前に写真を見せておくと安心感が大きく変わります。

5. 食事

【NG】「好き嫌いしないで全部食べなさい」——ASDの子の偏食は、わがままではなく感覚の問題であることが多いもの。「全部食べなさい」は「我慢して苦痛に耐えなさい」と同じ意味になってしまい、食卓自体が嫌いになる危険があります。
【OK】「にんじんは1つだけチャレンジしてみる?いやなら残していいよ」——量を具体的に示し、本人に選択権を残す言い方です。栄養面の心配が強い場合はかかりつけ医や栄養士にご相談ください。

6. 入浴

【NG】「いいかげんお風呂に入りなさい!」——入浴を渋る背景には、切り替えの難しさに加えて、水が顔にかかる感覚やシャンプーのにおいが苦手といった問題が隠れていることがあります。
【OK】「8時になったらお風呂だよ。今日は先に体を洗う?頭から洗う?」——開始時刻の予告と、本人が選べる二択の組み合わせ。選択肢があると「自分で決めた」という感覚が生まれ、行動に移しやすくなります。

7. 就寝

【NG】「早く寝なさい。明日起きられないよ」——「寝る」は命令されてできる行動ではありません。布団に入ることはできても、眠りに落ちることは本人にもコントロールできないのです。
【OK】「9時になったら電気を消して、布団に入って横になろう」——求める行動をコントロール可能な行動に置き換えます。就寝前の流れ(歯磨き→トイレ→絵本→消灯)を毎日同じ順番に固定すると、体が「次は寝る時間」と覚えてくれます。

8. パニック時

【NG】「落ち着きなさい!なんで泣いてるの!」——パニックの真っ最中は、言葉を処理する回路がほぼ働いていない状態です。そこに大声で言葉を浴びせるのは、火に油を注ぐようなもの。
【OK】静かな場所に移動し、言葉を最小限にして待つ。落ち着いてきたら「びっくりしたね」「もう大丈夫だよ」と短く——原則は「刺激を減らす・言葉を減らす・安全を守る」です。理由を聞いたり説教をしたりするのは、完全に落ち着いてから。病棟でも、パニック対応で一番効くのは「そばで静かに待つこと」だと日々実感しています。

9. 公共の場

【NG】「静かにしなさい!みんな見てるよ!」——「静かに」の基準は曖昧ですし、「みんな見てる」という圧力は、他者の視線を意識するのが苦手な子には響きません。
【OK】「電車の中では、ひそひそ声でお話ししようね」——場所とセットで具体的な声の大きさを示します。「声のものさし」(レベル0=だんまり、1=ひそひそ、2=ふつう、3=外の声)を作っておき、「今は1の声ね」と数字で伝える方法は、家庭でも学校でも使いやすい定番の工夫です。

10. ゲーム終了

【NG】「いつまでやってるの!もう消すよ!」——強制終了、特にセーブできないタイミングでの電源オフは、大人が想像する以上のダメージがあります。積み上げたものが消える体験は強い不信感につながります。
【OK】「あと10分だよ。この試合が終わったらセーブしておしまいにしよう」——時間の予告と、ゲームの区切りを組み合わせます。始める前にルールを確認しておくのが大前提。終われたときに「時間を守れたね」と認める一言を添えると、「終わるといいことがある」という学習が積み重なります。

試行錯誤を効率よく進めるコツは、簡単な記録をつけることです。スマホのメモで構いません。「朝の支度で『針が6まで』→動けた」「『あと5分』の予告→今日は効かず」と一行残すだけで、数週間後には「うちの子に効く言い方リスト」ができあがります。この記録は、後述する学校との連携でもそのまま使える資料になります。

感覚過敏と、予定変更の伝え方

どんなに言葉を工夫しても、感覚的に耐えがたい環境の中では声かけは届きません。聴覚過敏のある子に大きな声で指示を出すと、内容が伝わるどころか、声の大きさ自体が苦痛刺激となって耳をふさいでしまいます。怒鳴り声は「情報」ではなく「攻撃」として処理されると考えたほうがいいでしょう。声かけはむしろ、いつもより少し低め・小さめ・ゆっくりを意識するほうが届きます。

触覚過敏のある子には、後ろから急に肩を叩いて話しかけるのも避けたい関わりです。正面に回って、視界に入ってから、名前を呼んで話し始める。この順番を守るだけで、子どもの構え方が変わります。また、感覚過敏の強さは日によって変動します。「昨日は普通にできたのに今日はダメ」というムラは、わがままではなく感覚のコンディションの波かもしれません。環境調整については感覚過敏の子のおうち環境づくりの記事でまとめています。

予定の変更も、大人が想像する何倍も大きなストレスです。伝えるときの基本は「できるだけ早く・理由とセットで・次の予定も一緒に」。「雨が降ったからプールは中止。代わりに家で映画を見よう」のように、中止の理由と代わりの見通しをワンセットで伝えます。「中止」とだけ伝えて空白を残すと、その空白が不安で埋まってしまいます。

さらに効果的なのが、日頃からプランBまで最初に伝えておくことです。「日曜は公園に行く予定。ただし雨だったら家で遊ぶよ」。スケジュール表に「?」マークのカードを用意して「?の日は予定が変わることがある」と練習しておくご家庭もあります。変更そのものより、「予告なしの変更」がつらいのだと理解しておきましょう。それでも崩れてしまったときは、責めずに「楽しみにしてたのに残念だったね」と気持ちを言葉にして返し、落ち着ける場所と時間を確保してください。

視覚的支援ツールと、「こだわり」の活かし方

代表的なツールが絵カードとスケジュールボードです。絵カードは行動をイラストで示したカードで、市販品もありますが写真を印刷したものや手描きでも十分機能します。スケジュールボードは1日の流れを上から順に並べて見せるもので、終わった項目はカードを裏返すか外していきます。「次に何が起こるか」が常に見えることで、見通し不安がぐっと減ります。

導入のコツはスモールスタート。いきなり1日全部をボード化すると、作る親も見る子も疲れてしまいます。まずは朝の支度だけ、あるいは寝る前の流れだけ。「視覚支援に頼ると言葉を聞く力が育たないのでは」という心配については、順序が逆です。視覚支援で成功体験を積み、気持ちが安定するからこそ言葉のやり取りを学ぶ余裕が生まれます。視覚支援は「補助輪」ではなく「眼鏡」だと考えてください。残り時間が円グラフ状に減る視覚タイマーも、時間の感覚をつかみにくい子に好評です。

「こだわり」は困りごととして語られがちですが、見方を変えれば大きな強みです。決まった手順を正確に守る力、好きな分野への集中力と記憶力、ルールを一度受け入れたら守り続ける律儀さ。声かけでもこの力を借りられます。電車が大好きな子なら「宿題が終わったら電車の図鑑タイムにしよう」と好きなものを見通しに組み込む。手順へのこだわりが強い子なら、望ましい行動そのものを「手順」として定着させてしまう。

家庭のルール作りのポイントは「具体的な数字で決める」「例外の扱いも先に決める」「紙に書いて見えるところに貼る」の3つ。「ゲームは1日60分。土日は90分。守れなかった日の翌日は30分」のように、例外も含めて明文化します。注意したいのは、親の気分でルールを曲げないこと。「今日は特別にいいよ」という好意のつもりの例外が、「ルールは交渉で変えられる」という学習になり、毎回の交渉合戦を招きます。

こだわりの対象は、将来の進路や職業につながる芽でもあります。周囲から見れば「偏った興味」でも、本人にとっては世界と関わる大切な窓です。「そればっかりやって」と取り上げるのではなく、「詳しいね、教えて」と関心を向けることが、自己肯定感を育てる最良の声かけの1つだと感じています。

ASDの子に届く褒め方

「すごいね」「えらいね」と褒めているのに響いていないように見えるケースがあります。これは何がすごかったのかが具体的に示されていないため、褒め言葉と自分の行動が結びついていない可能性があります。

褒めるときも原則は同じで「具体的に」。「8時までに着替えられたね」「弟におもちゃを貸してあげられたね」と、行動をそのまま言葉にして返します。事実の描写だけでも、「見てもらえた」というメッセージは十分に伝わります。大げさな抑揚が苦手な子には、淡々とした事実の指摘のほうが心地よいこともあります。

タイミングは「直後」が鉄則です。時間が経ってから「そういえば今朝は早かったね」と言われても、どの行動のことか結びつきにくいのです。人前で大きく褒められるのが苦手な子もいるので、そっと近づいて小声で伝える、メモを渡すなど、本人が受け取りやすい形を探ってみてください。「できて当たり前のことを褒めるのは変だ」と感じる方もいますが、褒める目的は評価ではなく「その行動をまたやりたくなる仕掛け」です。日常のOK/NGフレーズは日常の声かけNG/OK完全ガイドも参考にしてください。

年齢別のポイント

幼児期(おおむね2〜6歳)は「短く・ゆっくり・見せながら」が基本です。「くっく、はこうね」と言いながら靴を見せる。行動と言葉と物を同時に結びつけることで、言葉の意味が体に入っていきます。もう1つ大切なのが、成功の基準をうんと低く設定すること。「靴を自分で履けたら花マル」ではなく「靴に足を入れようとしたら花マル」。癇癪の場面では「説得しない」が合言葉です。泣き叫んでいる子に言葉を重ねるほど刺激が増えて長引きます。

小学校低学年になると、時計・文字・数字が使えるようになり、視覚支援の幅が一気に広がります。文字が読める子には、口頭の指示をメモにして渡す習慣をつけると学校生活への応用も利きます。一方でこの時期は、集団生活の中で叱られる経験が急増しやすい時期でもあります。家庭ではできているのに学校で崩れる場合、本人の努力不足ではなく環境とのミスマッチを疑ってください。

小学校高学年では、本人の自尊心への配慮が最重要テーマになります。低学年と同じ調子で指示すると「子ども扱いされた」と反発されることが増えます。「〜しなさい」よりも「〜と〜、どっちからやる?」という選択型、「どうすればうまくいくと思う?」という相談型に少しずつシフトしていきましょう。周囲との違いに本人が気づき始める時期でもあり、「なんで自分だけカードがあるの」という問いが出てきたら、ごまかさずに本人の良さと苦手さを一緒に整理する機会にしてください。

中学生になると、指示型の声かけはほぼ卒業と考えたほうがうまくいきます。基本は「本人が決めて、親はサポートに回る」構図です。文字でのやり取り(ホワイトボード、メッセージアプリ)が対面の声かけより機能する子も増えてきます。思春期特有の心の揺れも重なる時期ですので、声かけへの反応が急に変わった、部屋にこもる時間が極端に増えたなどの変化があれば、思春期だからと片付けずに相談を検討してください。ASDの子の不登校の記事もあわせてご覧ください。

現場エピソード

※個人が特定できないよう複数のケースを合成し、状況を抽象化しています。

指示を「紙」に変えたら朝が変わった小学生

入院当初、朝の準備の時間になるとスタッフの声かけのたびにイライラを募らせ、物に当たってしまうことが続いていた男の子。「着替えて、洗面して、朝ごはんの準備してね」という声かけの直後に崩れることが多い、と記録を見返して気づいたスタッフがいました。

そこで朝の声かけを一切やめ、ベッドサイドに手順カードを置く方式に変えました。「①きがえ ②せんめん ③しょくどうへ」と書いた3枚のカードを、終わったら裏返すだけのシンプルなものです。1週間ほどでイライラの回数が目に見えて減り、自分でカードを裏返して食堂に来られる日が増えていきました。

印象的だったのは、後日彼がぽつりと言った言葉です。「声で言われると、急かされてる感じがして頭が真っ白になる。紙なら自分のタイミングで見られる」。私たちが「丁寧な声かけ」のつもりでやっていたことが、彼にとってはプレッシャーの連打だったのです。伝える側の善意と、受け取る側の体験は別物なのだと教えられた出来事でした。

「あと5分」が言えるようになった中学生

ゲームやタブレットの終了場面で大きく崩れることが課題だった女の子。「時間だよ、終わりにしよう」と声をかけると激しい口調で拒否し、取り上げようとすると自分の頭を叩いてしまう。終了場面が本人にもスタッフにも大きな負担になっていました。

担当チームがまず変えたのは「終わりの決め方」でした。使い始める前に本人と一緒に終了時刻をタイマーにセットし、「鳴ったら自分で電源を切る。どうしてもキリが悪ければ、1回だけ『あと5分』と言っていい」というルールを紙に書いて共有したのです。終了の主導権を、スタッフから彼女自身に移した形です。

最初の数日は「あと5分」を3回も4回も使おうとして揉めましたが、「1回だけ」を淡々と繰り返すうちに、タイマーが鳴ると自分から宣言し、その5分で本当に終えられる日が増えていきました。退院前には「タイマーは自分で決めた約束だから守れる。人に言われると嫌になる」と話してくれました。同じ「60分でおしまい」でも、強制されるか自分で決めるかで、本人の中での意味はまったく違います。

家族・学校・専門家との連携

声かけの工夫は、親だけが頑張っても効果が半減します。お母さんは「長い針が6まで」と伝えているのに、おばあちゃんが「早くしなさい!」と急かす。この不一致は子どもを混乱させるだけでなく、「同じ行動でも人によって怒られたり怒られなかったりする」という予測不能さを生みます。

祖父母世代を正面から説得しようとすると衝突しがちなので、おすすめは「うまくいった事実」を見せること。手順カードで朝の支度がスムーズに進む場面を実際に見てもらう。主治医や専門家からの説明の場に同席してもらうのも、第三者の言葉として届きやすい方法です。きょうだいには「お兄ちゃんは耳から聞くのが苦手だから、紙に書いてあげると分かりやすいんだよ」のように、診断名ではなく得意・不得意の言葉で伝えると受け取りやすくなります。

家族で伝え方をそろえる実務的な方法としては、「よく使うフレーズ表」を冷蔵庫に貼るのが手軽です。「早くして→長い針が6まで」「ちゃんと片付けて→ブロックは青い箱へ」。完璧な統一は無理でも、NGフレーズの上位3つだけ家族で共有する、から始めれば十分です。

学校との共有では、コツは「お願い」ではなく「情報提供」の形にすることです。「配慮してください」だけでは先生も何をすればいいか分かりません。「口頭の指示のあとに黒板に書いてもらえると本人が動きやすいです。家庭ではこの方法で朝の支度が安定しました」のように、具体的な方法と家庭での実績をセットで伝えると取り入れやすくなります。

おすすめはA4一枚の「サポートシート」です。得意なこと、苦手なこと、有効な声かけ、崩れたときの対応を箇条書きにまとめ、学年が変わるたびに更新して渡します。口頭での申し送りは消えてしまいますが、紙は残り、次の担任にも引き継がれます。医療との連携では、WISCなどの発達検査の結果が声かけのヒントになることもあります(WISC・発達検査の記事)。受診のハードルが高く感じられる方は児童精神科のかかり方の記事を、福祉サービスについては放課後等デイサービスの記事をご覧ください。

親自身のメンタルケア

最後に一番大切なことをお伝えします。それは、親が疲れ切っていたら、どんな声かけの技術も使えないということです。イライラした状態で「長い針が6まで」と言っても、声のトーンや表情から緊張は伝わります。声かけの土台は、親自身の心の余裕です。

この記事に書いたことを100%実行できる親は存在しません。私自身、病棟では冷静に対応できても、一人の父親としての日常では感情的になってしまうことがあります。専門職でもそうなのです。10回のうち3回できたら上出来、くらいの基準で自分を採点してください。

父親の関わりについても触れておきます。発達特性のある子の育児では、母親に情報と負担が集中し、父親が「よく分からないから」と距離を置いてしまう構図になりがちです。まずは情報を父親自身が読むこと、通院や学校面談に一度同席してみることから。父親が特性を理解して声かけを変えると、家庭内の一貫性が増し、母親の孤立感も和らぎます。

そして、親自身の休息を「子どものための投資」と位置づけてください。放課後等デイサービスなどのサービスを使って自分の時間を作ることに、罪悪感を持つ必要はまったくありません。同じ立場の親同士のつながりも大きな支えになります。SNS上の情報は玉石混交なので、極端な方法や高額な商品に誘導するものには注意しつつ、公的機関や医療機関発の情報を軸にすることをおすすめします。

よくある質問

Q1. 声かけを変えれば、ASDの困りごとは解決しますか?

日常のすれ違いや衝突を減らすうえでとても有効ですが、すべての困りごとを解決する万能薬ではありません。効果の出方にも個人差があります。声かけを変えても強い困りごとが続く場合、環境調整や専門的な支援、医療的な評価が必要なこともあります。工夫は続けつつ、抱え込まずに主治医や地域の発達相談窓口に相談してください。

Q2. 診断がついていない「グレーゾーン」の子にも有効ですか?

有効なことが多いと考えています。「具体的に・視覚的に・1つずつ」は、ASDの診断がある子だけでなく、曖昧な指示が苦手な子ども全般、さらに言えば定型発達の子にも分かりやすい伝え方です。診断の有無で工夫を始める・始めないを分ける必要はありません。詳しくは発達障害グレーゾーンの記事で扱っています。

Q3. 何度言い換えても伝わりません。私のやり方が悪いのでしょうか?

やり方の良し悪しではなく、まだ「その子に合うチャンネル」が見つかっていないだけかもしれません。言葉の言い換えで届かないなら、紙に書く・絵で見せる・実際にやって見せるなど、音声以外の経路を試してください。伝わらない背景に疲れや不安、感覚的な苦痛が隠れていることもあります。行き詰まるときは一人で抱えず、主治医・心理士・療育の専門家に「実際の場面」を具体的に伝えて一緒に作戦を考えてもらいましょう。

Q4. 怒鳴ってしまった後、どうフォローすればいいですか?

まず、怒鳴ってしまう日があるのは普通のことです。落ち着いてから短く謝ることをおすすめします。「さっきは大きな声を出してごめんね。○○してほしかったんだ」と、謝罪と本来伝えたかった内容をセットで。長い釈明は不要です。大人が謝る姿は、失敗しても関係は修復できるというモデルにもなります。ただし怒鳴る頻度が増え続けてつらいときは、親自身の疲労のサインなので、休息と相談を優先してください。

Q5. 学校では問題ないと言われますが、家では荒れます

声かけのせいと決めつけないでください。学校で頑張って適応している子ほど、安心できる家で緊張が一気にほどけて荒れる、という現象はよく見られます。家が「素を出せる場所」である証拠でもあります。対応としては、帰宅後すぐに要求や指示をせず、休息の時間を確保することが有効です。ただし、家での荒れが激しく家族が疲弊している場合や自傷・他害がある場合は、家庭だけで抱えず医療機関や相談機関につながってください。

Q6. 「なんで?」と理由を聞くのはよくないのですか?

理由を聞くこと自体が悪いのではなく、タイミングと聞き方の問題です。興奮している最中や叱責の文脈での「なんでやったの!」は、責められていると感じさせるだけで、本人も理由を言語化できないことが多いです。落ち着いてから「どうしたかったの?」と聞き、「AとBどっちが嫌だった?」のような二択にすると、言語化が苦手な子でも気持ちを伝えやすくなります。紙に書いて答えてもらう方法も有効です。

Q7. 声かけの工夫は、いつまで続ける必要がありますか?

「治るまでの一時的な訓練」ではなく、「その子に合ったコミュニケーションのスタイル」と考えていただくのが実態に近いです。成長とともに必要な支援の形は変わり、自分でメモを取る、スマホのリマインダーを使うなど、本人が自分で工夫を運用できるようにもなっていきます。目標は声かけをなくすことではなく、本人が「自分はこうすればうまくいく」という自己理解を持って大人になることです。

今夜これだけ

今夜の声かけを一つだけ、「ちゃんと片づけて」から「机の上の本を棚に戻して」に変えてみてください。具体的にするだけで、伝わり方が変わります。

まとめ——特性を知れば、関わり方は必ず変わる

ASDの子に声が届きにくいのは、反抗でも愛情不足でもなく、言葉の受け取り方の特性——字義通りの理解、曖昧語の苦手さ、聴覚処理の特性——によるものです。だからこそ、「具体的に・視覚的に・1つずつ」の3原則で伝え方を変えれば、届き方は変わります。

シーン別の10フレーズは、丸暗記する台本ではなく言い換えの「型」です。うまくいったりいかなかったりを繰り返しながら、お子さん専用の取扱説明書を少しずつ厚くしていってください。そして、全部を完璧にやろうとしないこと。1日3回の言い換えから、で十分です。

病棟で見てきた確かなことが1つあります。それは、大人が伝え方を変えると、子どもの表情が変わるということです。「どうせ分かってもらえない」という顔をしていた子が、「この人の言葉は分かる」と感じた瞬間に見せる安心した表情を、何度も見てきました。声かけの工夫は、行動を変えるテクニックである以上に、「あなたに伝わる形で話したい」という敬意の表現なのだと思います。

困ったときは、一人で抱え込まないでください。診断や治療に関わる判断は必ず医師に相談し、地域の発達相談窓口、学校、放課後等デイサービスなど、使える資源はどんどん頼ってください。暮らしの全体像は発達障害の完全ハンドブックもあわせてどうぞ。

参考にした公的情報・一次情報

この記事の制度・医療情報は、以下の公的情報・一次情報を2026年8月15日に確認しています。制度の運用や個別の医療判断は、学校・自治体・医療機関などへご確認ください。

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【医療に関する免責事項】

本記事は、児童思春期精神科での看護経験に基づいた一般的な情報提供を目的としています。医療行為・診断・治療の代わりとなるものではありません。お子さんの心身の状態にご不安がある場合は、必ず主治医・かかりつけ医・スクールカウンセラー・地域の相談窓口など、お子さまを直接見ることのできる専門家にご相談ください。詳細は免責事項をご確認ください。

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児童相談所相談専用ダイヤル:0120-189-783(24時間)/虐待の心配は189
命に関わる危険があるときは、ためらわず119番へ。
出典:厚生労働省「まもろうよ こころ」(2026年7月確認)
発達障害・特性理解
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